頚椎椎間板ヘルニアと神経根症を評価する。Spurling(スパーリング)と脊髄症(ミエロパチー)の鑑別
セラピスト向け
首から腕のしびれ、まず脊髄症を除外
頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症性神経根症は、頚部神経根への圧迫・炎症で、首から腕・手への痛みやしびれ、筋力低下を生じます。多くは保存的に軽快しますが、見逃してならないのが頚髄症(脊髄症)です。手の巧緻運動障害・歩行障害・膀胱直腸障害を伴えば緊急度が上がります。神経根症と脊髄症の鑑別が要点になります。
首から腕のしびれを「頚のヘルニア」で一括りにせず、臨床では神経根症と脊髄症を分け、危険な後者の除外を最優先に組み立てます。
病態:神経根症と脊髄症を分ける
頚椎椎間板ヘルニアや骨棘により、神経根が圧迫・炎症を受けると神経根症となり、対応するデルマトーム・筋に沿った痛み・しびれ・筋力低下が出ます。多くは保存的に軽快する経過をたどります。
一方、脊髄そのものが圧迫される頚髄症(脊髄症)では、手の細かい動作のしにくさ(巧緻運動障害)、歩行のふらつき、両手両足の症状、膀胱直腸障害などが出ます。これは進行性で手術適応となることがあり、神経根症とは緊急度がまったく異なります。両者の見極めが最初の分岐です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎疫学と自然経過(期待値の設定)
神経根症は中年に多く、多くは数週から数か月で保存的に軽快するとされます。一方、脊髄症は進行しうるため、自然軽快を前提にできません。
「神経根症の多くは保存で軽快する見通しを共有できる。ただし脊髄症のサインがあれば別で、進行性なら手術評価が必要」という整理を持っておくと、安心の提供と危険の除外を両立できます。
評価:脊髄症のサインを必ず拾う
- Spurling(スパーリング)テスト:頚部伸展・側屈・圧迫で上肢への放散を再現(神経根症を示唆)
- 上肢神経学:筋力・感覚・反射をレベルごとに評価
- 脊髄症のサイン:巧緻運動障害(ボタン・箸)、歩行障害、Hoffmann(ホフマン)徴候、腱反射亢進、膀胱直腸障害
- 上肢挙上で軽快するか(神経根症で軽快することがある)
- レッドフラッグ:外傷、発熱、がん既往、進行する筋力低下
徒手所見は単独で確定できません。とくに脊髄症のサインは見逃すと重大なため、上肢に閉じず歩行や両側、排尿まで含めて確認します。
鑑別(外せないもの)
- 頚髄症(脊髄症):巧緻運動・歩行・膀胱直腸障害(最優先で除外)
- 胸郭出口症候群、末梢神経絞扼(肘部管・手根管)との二重絞扼
- 肩関節疾患(腱板など)による関連痛
- 腫瘍・感染・骨折(外傷歴・全身症状があれば)
- 帯状疱疹、心疾患(左上肢症状での念頭)
介入:神経根症に絞った設計
脊髄症を除外し、神経根症と判断できた場合に保存療法を組み立てます。
- 患者教育:多くは保存的に軽快する見通しの共有、不安の軽減
- 姿勢・負荷管理:頚部への負担姿勢の調整、症状を増悪させる肢位の回避
- 運動療法:頚部・肩甲帯の運動、症状に応じた神経系へのアプローチ
- 強い操作の回避:急激な頚部の徒手操作は慎重に
- 連携:脊髄症のサイン、進行する筋力低下があれば速やかに専門医へ
頚部への急激な操作(強い牽引・スラスト)は、病態が不確かな段階では避けます。手の巧緻運動障害、歩行障害、両手足の症状、膀胱直腸障害といった脊髄症のサイン、あるいは進行する筋力低下があれば、神経根症と決めつけず、徒手より医療機関での評価を最優先にします。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎27歳男性、デスクワーク。右殿部から下肢外側、足の甲にかけての痛みで、しびれなどの感覚異常はなく痛みのみ。腰椎の伸展で増悪し、屈曲位では減弱するという訴えでした。担当者は椎間関節性腰痛の関連痛と見立てていました。
検討では所見の一貫性が論点になりました。ヘルニアであれば伸展や頚部前屈で症状が増すのが典型ですが、この患者は屈曲位で楽になる逆のパターンで、足背に痛みが出る点も椎間関節性としては一般的ではありません。腱反射は正常、感覚障害もなく、腓骨筋のMMTがわずかに低下していた程度で、神経根症状を積極的に支持する所見は乏しく、狭窄症やすべり症、さらに間欠性の下肢痛を来す血管性疾患まで視野に入れて鑑別する流れになりました。
反射・感覚・筋力の所見と、症状が動作でどう変化するかのパターンを重ねて神経根症状の有無を見極める点は、頚椎で神経根症と脊髄症を切り分ける本記事の評価の考え方と同じです。
「頚のヘルニア」を一括りにしない
首から腕のしびれは、神経根症と脊髄症を分け、危険な脊髄症の除外を先に置くことが要点です。神経根症と確認できた範囲で保存療法を組み立て、サインがあれば医療へつなぎます。





