肩甲骨内側の痛みと肩甲背神経障害。斜角筋部の絞扼を考える

肩甲骨の内側が痛い。原因は首の斜角筋にあるかもしれない

肩甲骨の内側の痛みは、菱形筋や僧帽筋中部といった肩甲骨周囲筋をまず思い浮かべます。ただ、首の付け根の斜角筋から出る肩甲背神経(けんこうはいしんけい)の障害が、肩甲骨内側の痛みとして現れることがあります。筋肉だけでなく、神経も鑑別に入れておきたい場面です。

この記事について

肩甲骨の内側に痛みが出たときに、肩甲骨周囲の筋肉(菱形筋・僧帽筋中部)だけで判断する前に、鑑別に入れておきたい肩甲背神経障害を整理します。神経の走行と絞扼が起こりうる場所、筋由来との見分けの入口、胸郭出口症候群や頚椎神経根症との鑑別、そして医療機関へつなぐ判断までをまとめます。

伊藤聡史
伊藤聡史

肩甲骨の内側が痛いと、まず菱形筋のこりや張りを考えますよね。それで合っていることも多いです。ただ、首の斜角筋から出る肩甲背神経が関係していることがあります。筋肉を見て変化が出にくいときは、神経も思い出してほしいんです。

結論:肩甲骨内側の痛みでは、菱形筋など肩甲骨周囲筋に加えて肩甲背神経障害(斜角筋部での絞扼)も鑑別に入れます。菱形筋の筋力低下や、斜角筋部での圧痛・誘発があるときは神経の関与を疑い、胸郭出口症候群や頚椎神経根症とあわせて評価します。

肩甲骨内側の痛みに、神経の視点を加える

肩甲骨の内側の痛みやこり感は、菱形筋や僧帽筋中部といった肩甲骨を背骨側へ引き寄せる筋肉の問題として説明されることが多いです。実際、デスクワークや猫背姿勢でこの部分が張ることはよくあり、触診で痛みが再現できれば筋由来として無理のない説明になります。

ただ、同じ場所の痛みでも、首の付け根を通る肩甲背神経が背景にあることがあります。筋肉へのアプローチで思うように変化が出ないとき、あるいは菱形筋に力が入りにくい感じがあるときは、神経の関与も一度思い出しておきたいところです。

肩甲背神経とは。C5から分かれ、斜角筋を貫いて背側へ

肩甲背神経は、腕神経叢の根(主に第5頚神経・C5)から分かれる運動神経です。首の横にある前斜角筋を貫いて背側へ向かい、肩甲挙筋の深層を通って、菱形筋(大・小)を支配します。つまり、肩甲骨を内側へ引き寄せる動きに関わる神経です。

走行の途中で斜角筋を貫くため、首の付け根(斜角筋部)が神経への負担がかかりやすい場所になります。なで肩や巻き肩、長時間のうつむき姿勢など、首から肩にかけての緊張が続く状況は、この部位での負担に関係すると言われています。

斜角筋部での絞扼が、肩甲骨内側の痛みになる

肩甲背神経が斜角筋部で絞扼(圧迫・締めつけ)を受けると、神経の走行に沿って、肩甲骨の内側縁あたりに鈍い痛みやこり感として現れることがあると言われています。痛む場所(肩甲骨内側)と、負担がかかっている場所(首の付け根の斜角筋部)が離れているのが、この病態の分かりにくいところです。

運動神経が主体のため、進むと菱形筋の筋力低下が出て、肩甲骨の内側がやや浮いて見えることもあります。首を反対側へ回す動作や、斜角筋を伸ばす肢位で症状が誘発されることがあるのも、手がかりのひとつです。

疑う手がかり

・菱形筋へのアプローチで変化が出にくい肩甲骨内側の痛み
・菱形筋の筋力低下や、肩甲骨内側がやや浮く感じ
・首の付け根(斜角筋部)の圧痛、首の回旋や斜角筋ストレッチでの誘発

筋由来・ほかの神経障害との見分け

肩甲骨内側の痛みは原因が重なりやすい部位です。一つの所見で決めず、出かたと確認したい所見を並べて整理します。

考えられる原因 痛み・しびれの出かた 確認したい所見
肩甲背神経障害 肩甲骨内側縁の鈍い痛み・こり感 菱形筋の筋力低下、斜角筋部の圧痛・誘発
筋由来(菱形筋・僧帽筋中部) 同部の張り、押すと痛い 触診で痛みが再現、神経学的な所見は乏しい
C5頚椎神経根症 首から肩・上腕の外側へ広がる 頚椎の動きで誘発、上肢の筋力・反射の変化
長胸神経障害(前鋸筋) 肩甲骨内側が浮く(翼状肩甲) 壁を押す動作で肩甲骨が浮き出る
胸郭出口症候群(TOS) 腕全体のしびれ・だるさ・冷感 肢位での誘発、血管症状を伴うことがある

肩甲背神経と胸郭出口症候群は、どちらも斜角筋部が関わる点で背景が重なります。胸郭出口症候群の評価は胸郭出口症候群はどう判断する?を、複数の絞扼が重なる考え方はダブルクラッシュ症候群を参考にしてください。斜角筋部の触診は首の触診で注意したい場所もあわせてご確認ください。

整骨院での立ち位置(疑ったら受診へつなぐ)

整骨院でできるのは、肩甲骨内側の痛みを筋肉の問題と早合点せず、神経の関与も見落とさずに拾うことです。菱形筋の筋力低下が進む、しびれを伴う、夜間も痛みが強いといったときは、施術の可否を考える前に、医療機関での確認を優先します。確定診断や画像評価は医療機関の領域で、整骨院はそのスクリーニングと連携を担います。

肩甲骨内側の痛みに、力の入りにくさやしびれ、安静にしても引かない強い痛みを伴うときは、自己判断せず、早めに医療機関へご相談ください。症状の感じ方や経過には個人差があります。

伊藤聡史
伊藤聡史

肩甲骨の内側の痛みの多くは筋肉の問題ですが、首の斜角筋から出る肩甲背神経が隠れていることがあります。菱形筋に力が入りにくい、斜角筋部で誘発される。この手がかりを思い出すだけでも、見立ての幅が広がります。迷ったら抱え込まず、医療機関へつなぐのが安全です。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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