深部感覚を調べる検査。振動覚(音叉)と母指探し試験のやり方と見方
施術・検査ガイド
体の位置と動きを感じ取る力を確かめる
深部感覚(位置覚・振動覚)が障害されると、目を閉じたときに手足がどこにあるかや、動いている感覚がつかみにくくなります。音叉(おんさ)を使う振動覚検査と、母指探し試験のやり方と見方を取り上げます。
このコラムは、深部感覚の評価について解説した動画をもとに、振動覚検査と母指探し試験の考え方と手順をまとめたものです。前半で検査の理論と精度、陽性のとらえ方を、後半で実際のやり方を扱います。数値は紹介されている研究の目安として示すもので、単独で病気を判定するためのものではありません。
結論:深部感覚は位置覚と振動覚が柱で、中枢神経の障害でも末梢神経の障害でも低下します。音叉による振動覚検査は感度が高く除外向き、母指探し試験は固定した側の手に異常が出ます。どちらも他の所見と合わせて解釈します。
検査手技を解説した動画です。手順の確認は施術者向けの内容として参照してください。
深部感覚障害とは
深部感覚とは、筋肉や腱、関節など体の深い部分で感じ取る感覚のことです。体のどの部分がどの位置にあるか、どう動いているかを認識するはたらきで、主に位置覚と振動覚で構成されます。
皮膚の表面で感じる触覚や痛覚、温度覚(表在感覚)とは通り道が異なり、目を閉じていても手足の位置がわかるのは、この深部感覚がはたらいているからです。ここが障害されると、見ていないと動作が定まらない、ふらつくといった訴えにつながります。
深部感覚は、次のような病気で障害されることが多いとされています。
- 脳卒中や延髄外側症候群、脊髄後索の障害などの中枢神経障害
- 糖尿病性ニューロパチー(糖尿病による末梢神経障害)などの末梢神経障害
中枢と末梢のどちらでも起こりうるため、検査で低下を捉えたときは、どこの障害を疑うかを他の所見と合わせて考えていきます。
振動覚検査の理論と精度
振動覚の検査は、振動させた音叉を足趾(足の指)や内果(内くるぶし)などの骨ばった部分に当て、振動を感じるか、左右で差がないかを確認するものです。
紹介されている研究では、両側性の深部感覚障害の患者を対象に、振動を感じ取れる時間が8秒未満なら異常とみなす基準で、感度85%、特異度43%という報告があります。また、中枢性の深部感覚障害の患者を対象にした報告では、感度87%、特異度85%とされています。いずれも目安であり、条件によって数値は変わります。
陽性かどうかの基準は、症状の出方で置き方が変わります。
- 片側だけに症状があるとき。症状のない側(健側)を基準にして左右差を見る
- 両側に症状が出ているとき。検者(検査する側)と患者の感じ方の差を基準にする
基準の置き方で精度は多少変わりますが、比較的高い感度を示すため、音叉を使う検査は病気の特定よりも、可能性を絞り込む除外の判断に向いている傾向があります。単独の結果だけで決めず、他の所見と併せて総合的にとらえることが大切です。
母指探し試験の理論と解釈
位置覚を調べる代表的な検査が母指探し試験です。患者に目を閉じてもらった状態で片腕を任意の位置に保持させ、もう一方の手でその親指(母指)をつまんでもらいます。深部感覚に異常があると、母指の位置をうまくつかめません。
どちらの腕を固定するかで、疑う障害の解釈が変わります。
| 固定する側 | 推奨される固定肢 |
|---|---|
| 中枢性の障害を疑うとき | 病巣と反対側(対側)の上肢を固定する |
| 末梢性の障害を疑うとき | 病巣と同じ側(同側)の上肢を固定する |
母指探し試験も振動覚検査と同じく、これだけで判断せず、ふらつきなどの症状も合わせて評価することが大切です。深部感覚の障害には脳卒中のような危険な病気が隠れていることもあるため、慎重に見ていく必要があります。
ここからは実際のやり方
振動覚検査のやり方
音叉を使う振動覚検査は、次の流れで行います。
- 音叉を振動させて骨に当てる音叉を手のひらなどにぶつけて振動させ、先端を骨の突起部に当てます。主な検査部位は、胸骨、肘頭(肘)、橈骨茎状突起(手首付近)、足の内果・外果などで、障害が疑われる部位に行います。
- 別の部位で予行演習をする本来調べたい部位(たとえば足の内果)とは別の部位(腕の橈骨茎状突起など)で先に練習し、感覚をつかんでもらいます。患者に目を閉じてもらい、振動を感じたときと、振動が止まったときに、それぞれ「はい」と合図するよう伝えます。
- 目的の部位で本番を行う感覚がつかめたら、調べたい部位で同じように振動を感じるか、止まったのがわかるかを確認します。
異常があるときは、次のような反応が見られます。
- まだ振動が続いているのに、途中で「はい」と合図してしまう
- そもそも振動を感じておらず、合図がまったく来ない
母指探し試験のやり方
位置覚を調べる母指探し試験は、次の手順で行います。
- 閉眼して手の形を作る患者に目を閉じてもらい、検査する側の手は母指(親指)だけを伸ばし、ほかの指は曲げた状態にします。
- 検者が手を任意の位置で保持する検者が患者の手を任意の位置へ動かし、その位置で保持(固定)します。
- 反対の手で母指を掴んでもらう患者に、反対側の手で保持されている側の母指を掴むよう伝えます。深部感覚に障害があると、空振りするなどしてうまく掴めません。
深部感覚の障害が疑われるのは、掴みにいった側の手ではなく、保持されている側の手(固定肢)です。位置の情報を送り出せていないのが固定肢の側なので、判断を取り違えないよう注意します。
単独で決めず、他の所見と合わせる
音叉による振動覚検査も母指探し試験も、それ単独で病気を確定させる検査ではありません。ふらつきの有無や、しびれ・脱力の広がり方、発症のしかたなど、ほかの所見と合わせて解釈することが前提になります。
振動覚検査は感度が高く除外に向く一方で、特異度がそれほど高くない場面もあります。陰性だから安心と決めつけず、症状が続く場合は評価を重ねる姿勢が求められます。深部感覚の障害の背景に、脳卒中のような一刻を争う病気が隠れていることもあるためです。
受診につなぐ判断
これらの検査は、当院で施術の対象になる症状か、医療機関につなぐべき症状かを見分けるための手がかりです。急に始まった深部感覚の低下や、進行するしびれ・脱力、ろれつが回らない・顔や手足の片側が動かしにくいといった症状を伴うときは、施術を進める前に速やかな受診を案内します。
当院では、問診と検査で得られた所見をもとに、施術で追える範囲かどうかを判断し、必要なときは医療機関の受診をおすすめするようにしています。深部感覚の検査は、その見極めを支える評価のひとつとして役立ちます。




