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転倒のあと首が下がって上を向けない、支える筋力をどう取り戻すか。症例をスタッフで検討

張りが取れても首は上がらない、なぜ「筋力の時間軸」で考えたのか

1つの症例を、担当した二宮寿己先生(とんとん整骨院 ときわ台店)と、瀬谷崎・まなぶ・教子とともに検討します。登山中の転倒のあと、首をまっすぐ保てず上を向けなくなった70代の女性。医療機関の画像検査では異常なし。張りや痛みは数回でやわらいだのに、首が下がる状態は変わらない。ここで施術の軸を「ゆるめる」から「支える筋力を育てる」へ置いた判断について、所見という事実と、経過という結果から、その妥当性を確かめていきます。

とんとんでは、1つの症例を担当者だけの判断で終わらせず、スタッフ同士で検討して見方を確かめています。今回は、転倒をきっかけに首が下がり、趣味の合唱で楽譜を見て歌えなくなった70代の女性。約半年をかけて合唱と登山に復帰されるまでの経過を、事実と結果から見ていきます。

症例カルテ:首が下がって上を向けなかった状態、支える筋力の再建に着目
今回検討する症例(担当:二宮先生)。詳しい経過は症例レポートに掲載しています。
事実:所見と経過

主訴=首をまっすぐ保てず、上を向けない(70代・女性)。背景=登山中に転倒・滑落し、医療機関の画像検査(MRI・レントゲン)では異常なし。趣味の合唱で楽譜を見て歌えなくなり来院。所見=頭を支える首の後ろ側の筋肉が疲弊し、頭の重さを支えられない首下がり症候群様の状態。対応=疲弊した筋肉のリラクゼーションと頸背部のストレッチ、電気療法を併用しつつ、支える筋力のトレーニングをメインに実施。経過=4回目で張り感や痛みはやわらぐも首が下がる状態は不変。3〜4ヶ月目・12回目のあたりから徐々に筋力がつき姿勢を保てるように。約半年(約23〜30回)で合唱・登山に復帰し、現在は月1回のメンテナンス。
※経過には個人差があり、すべての方に同じ変化を保証するものではありません。気になる症状は医療機関への受診もご検討ください。

画像で異常がないのに上を向けない、なぜ筋肉の疲弊ととらえたのか

レントゲンやMRIで異常なしと言われたのに、首はまっすぐ保てない。二宮先生は、骨や神経ではなく「支える筋肉の疲弊」に出どころを見ました。その根拠を確かめます。

二宮先生二宮先生

ご来院時は、首の後ろの筋肉がずっと張りつめて、頭の重さに耐え続けている状態でした。頭はおよそ5kg前後あると言われていて、それを支える筋肉が転倒をきっかけに疲弊しきってしまうと、頭が前へ落ちる。落ちた頭を支えようとして、さらに疲弊する。この悪循環に入っていると考えました。画像検査は骨や神経の異常を確かめるもので、筋肉の疲弊や筋力の低下は画像には写りにくい。異常なしという結果と、目の前の症状は矛盾しないんです。

まなぶ先生まなぶ先生

画像で異常なしと言われると、患者さんとしては「原因不明」と受け取ってしまいますよね。行き場がなくなって、うつむいたまま過ごしてしまう方も多そうです。

二宮先生二宮先生

この方も、楽譜を見て歌えなくなって初めて「これは何とかしないと」と来院されました。画像に写らない領域、つまり筋肉の働きの側は、動きの評価で確かめられます。どの筋肉が疲弊して、どの筋肉が働けていないのかを分けてとらえることが、進め方を決める土台になりました。

首下がりで先に外すべきサインは何か

首が下がる状態には、神経や筋肉の病気が背景にある場合もあると言われています。教子先生が、施術に進む前に確認すべきサインを尋ねました。

教子先生教子先生

首下がりは、背景に神経や筋肉の病気が隠れている場合があると言われている症状ですよね。手足の動かしにくさや飲み込みにくさ、転倒をくり返すような症状。このあたりの確認はどうでしたか。

二宮先生二宮先生

まず、医療機関でMRIとレントゲンの検査を受けて異常なしと言われていることを確認しました。そのうえで、手足のしびれや動かしにくさ、飲み込みの問題がないこと、症状の始まりが転倒という明確なきっかけであることも確かめています。こうした確認なしに筋肉の問題と決めることはできません。逆に、検査を受けていない方や、下がり方が進行し続けている方には、先に医療機関の受診をご案内します。

瀬谷崎瀬谷崎

ここは順番が大事なところですね。画像検査と危険なサインの確認が先にあって、初めて「疲弊した筋肉と筋力」という仮説に絞り込める。転倒という明確なきっかけがあることも、この症例では仮説を支える材料になっています。

張りは数回で、筋力は数ヶ月で。時間軸を分けた進め方とその経過

4回目で張りや痛みはやわらいだのに、首が下がる状態は変わりませんでした。ここで方針を疑わず、トレーニングを軸に続けた判断を確かめます。

まなぶ先生まなぶ先生

4回目で張りは取れたのに首は上がらない。ここで患者さんも施術者も不安になりそうです。方針を変えなかったのはどうしてですか。

二宮先生二宮先生

張りや痛みは、筋肉をゆるめれば数回で変わります。でも、頭を支え続ける筋力は、トレーニングを重ねて数ヶ月単位で育つものです。最初から「張りの変化」と「筋力の変化」は別の時間軸だとお伝えして、合唱に戻るという目標を一緒に決めていました。実際、3〜4ヶ月目の12回目あたりから姿勢を保てるようになり、約半年で合唱にも登山にも復帰されています。

教子先生教子先生

先に時間軸を共有しておくのは大切ですね。「数回で治るはず」という期待のままだと、4回目の「首はまだ下がる」で通院が途切れてしまう。目標が合唱という具体的な生活の場面だったことも、続ける力になったのだと思います。

瀬谷崎瀬谷崎

70代でも、無理のない負荷を積めば支える筋力は育てられる。この症例の価値は、その過程を「張りは取れたが首は下がる」という正直な中間経過も含めて記録したことにあると思います。時間のかかる症状ほど、何がいつ変わるのかを分けて示すことが、続けてもらう支えになりますね。

考察:ゆるめる施術と育てるトレーニング、時間軸を分けてとらえる首下がり

所見という事実(画像検査で異常なし・頭を支える筋肉の疲弊と筋力低下・危険なサインの陰性確認)と、経過という結果(張りは4回目でやわらぎ、姿勢の保持は3〜4ヶ月目から、約半年で合唱と登山に復帰)。この両方が、「骨や神経ではなく、支える筋力の再建に軸を置いた」見立ての妥当性を支えています。画像に異常がないことは、できることがないという意味ではありません。ただし首が下がる状態には病気が背景にある場合もあるため、医療機関の検査と危険なサインの確認が必ず先に立ちます。そのうえで、数回で変わるものと数ヶ月かかるものを分けて共有し、生活の目標に向かって続ける。この症例では、その進め方が妥当だったと言えます。

※本記事は実際の症例をもとにスタッフで検討したものです。経過には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。強い痛みやしびれ、安静時にも続く痛み、力が入りにくいなどがあるときは、医療機関への受診もご検討ください。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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