むち打ちを一言で片づけない。外傷性頚部症候群の見方と回復を妨げない考え方

外傷性頚部症候群を、むち打ちの一言で終わらせない

交通事故後の首の痛みは、単なる「むち打ち」で片づけるには少し複雑です。分類、神経症状、頭痛や吐き気、不安や回避行動まで含めて、経過を見ていく必要があります。

外傷性頚部症候群は、痛みの強さだけで判断しません。神経症状、頭痛、上肢痛、しびれ、不定愁訴、生活への影響、回復への不安を合わせて評価することが大切です。

交通事故のあとに首が痛くなると、「むち打ちですね」と説明されることがあります。

この言葉は広く知られていますし、患者さんにも伝わりやすいです。

ただ、伝わりやすい言葉ほど、雑に使われやすいところがあります。

現在では、頚部外傷後に出るさまざまな症状を含めて、外傷性頚部症候群、あるいはWAD、Whiplash Associated Disordersとして整理されることがあります。

単に「首を痛めた」だけではなく、頭痛、めまい、吐き気、上肢のしびれ、動かしにくさ、不安、睡眠の問題などが関わることもあります。

外傷性頚部症候群のケベック分類と推定病理の図

ケベック分類は、外傷後の頚部症状を重症度や所見で整理するための代表的な分類です。

まなぶ先生
まなぶ先生

むち打ちって言えば分かりやすいですが、何が問題なんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

言葉自体が悪いわけではありません。ただ、何でもむち打ちで済ませると、神経症状や予後に関わる要素を見落としやすくなります。

「むち打ち」と外傷性頚部症候群

むち打ちは、もともと首が急にしなるような受傷メカニズムを表す言葉として使われてきました。

一方で、臨床では首の痛みだけでなく、頭痛、肩や背中の痛み、上肢症状、めまい、吐き気など、さまざまな症状が混ざります。

そのため、すべての頚部外傷を安易に「むち打ち」と呼ぶより、外傷性頚部症候群やWADとして、症状や所見を整理していく方が安全です。

言葉の整理

「むち打ち」は分かりやすい言葉ですが、診断や評価を終わらせる言葉ではありません。どの程度の症状があり、どんな所見があるのかを分けて見る必要があります。

特に交通事故後は、痛みだけでなく不安も強くなりやすいです。

「後から悪くなるのでは」

「首を動かしていいのか」

「この頭痛や吐き気は大丈夫なのか」

こういう不安がある状態で、曖昧な説明だけされると、回復への見通しも持ちにくくなります。

ケベック分類で何を見ているのか

外傷性頚部症候群では、ケベック分類がよく知られています。

これは、首の訴えと身体所見、神経症状、骨折や脱臼の有無などで整理する分類です。

整骨院で分類だけを見て判断するわけではありませんが、症状の重さや医療機関での確認が必要な可能性を考える上で参考になります。

分類
Grade 0
臨床所見
首の訴えも身体所見もない状態
見方
症状がない場合でも、事故直後は経過の変化に注意します。

分類
Grade I
臨床所見
首の痛み、こわばり、圧痛などの訴えがあるが、明確な身体所見は乏しい
見方
微細な軟部組織の反応や過敏さ、不安、動かしにくさを含めて見ます。

分類
Grade II
臨床所見
首の訴えに加えて、可動域制限や圧痛など筋骨格系の所見がある
見方
頚椎捻挫や軟部組織周囲の炎症、出血などを疑う材料になります。

分類
Grade III
臨床所見
首の訴えに加えて、感覚低下、筋力低下、反射異常など神経学的所見がある
見方
神経組織の関与を疑う材料です。医療機関での確認が必要になることがあります。

分類
Grade IV
臨床所見
骨折や脱臼が疑われる、または確認される状態
見方
整骨院で対応を進める段階ではなく、医療機関での評価と管理が優先されます。

Gradeが上がるほど、医療機関での確認や慎重な管理が必要になる可能性が高まります。

特にしびれ、筋力低下、反射の変化、歩行の違和感などがある場合は、単なる首の痛みとして見ない方がいいです。

回復を遅らせる可能性がある要素

外傷性頚部症候群では、事故の衝撃の大きさだけで予後が決まるわけではありません。

研究では、初期の痛みの強さや disability、上肢痛やしびれ、頭痛、回復への不安、心理的ストレスなどが、回復の遅れと関連する可能性が示されています。

年齢や性別、教育歴などの要素も研究によって検討されていますが、単独で決めつけるものではありません。

予後を見る時の視点

強い頚部痛、上肢痛やしびれ、頭痛、強い不安、動かすことへの恐怖、仕事や生活への支障がある場合は、回復を妨げる要素が重なっていないかを確認します。

ここで大切なのは、「心理的な要素があるから気のせい」という話ではないことです。

外傷後の痛みは、身体の損傷や炎症だけでなく、不安、警戒、回避行動、睡眠、仕事への影響などが重なります。

そのため、初期からの説明と、過度に怖がらせない運動の導入が大切になります。

吐き気や冷や汗などをどう考えるか

外傷性頚部症候群では、首の痛みだけでなく、吐き気、冷や汗、悪寒、めまいのような訴えが出ることがあります。

これらのメカニズムは、すべてが明確に分かっているわけではありません。

深部の頚部筋や筋膜、交感神経系、前庭系、頭痛、ストレス反応など、複数の要素が関わる可能性があります。

たとえば、深頚筋膜内の組織変化や炎症が交感神経系に影響するのではないか、というような推論も考えられます。

不定愁訴を「よく分からない症状」として片づけるのではなく、身体所見、事故後の経過、不安、睡眠、神経症状を合わせて整理することが大切です。

ただし、強いめまい、意識の異常、ろれつの異常、歩行障害、強い頭痛、急な神経症状などがある場合は、整骨院だけで様子を見るより医療機関での確認が必要です。

後頭部の頭痛は、神経の走行も見る

外傷性頚部症候群で頭痛を訴える場合、単に「首が痛いから頭も痛い」とまとめない方がいいことがあります。

とくに後頭部の痛みでは、大後頭神経の走行を頭に入れておきたいです。

大後頭神経は、第2頚神経の後枝から出て、頭半棘筋を貫くように走行し、後頭部の皮膚へ向かいます。

そのため、外傷後に頭半棘筋周囲が過緊張を起こしたり、防御的に収縮し続けたりすると、大後頭神経の刺激や絞扼が頭痛に関わる可能性があります。

頭痛を見る時の視点

後頭部痛、圧痛、首の動きとの関連、しびれや放散感、事故後の経過を合わせて見ます。頭痛が強い、急に悪化した、神経症状を伴う場合は医療機関での確認が優先です。

もちろん、頭痛の原因を大後頭神経だけで説明できるわけではありません。

片頭痛、緊張型頭痛、頚椎由来の関連痛、血管性の問題、脳神経系の問題など、鑑別すべきものは多くあります。

ただ、外傷後の後頭部痛では「頭半棘筋と大後頭神経」という視点を持っておくと、評価の解像度は少し上がります。

初期からの説明と運動療法

外傷後は、安静にしたくなるのが自然です。

痛い場所を守りたいですし、動かすと悪化しそうで怖くなります。

ただ、必要以上に首を固め続けたり、長く動かさない状態が続くと、可動域や筋機能、感覚の使い方が戻りにくくなることがあります。

もちろん、骨折や脱臼、強い神経症状などが疑われる場合は、まず医療機関での確認が優先です。

その上で、安全が確認された範囲では、適切な説明と、痛みを強く悪化させない範囲での運動が回復の助けになることがあります。

怖がらせすぎない説明

「首が壊れているから動かしてはいけない」と強く伝えすぎると、回避行動が強くなることがあります。状態を確認した上で、どこまで動かしてよいかを具体的に伝えることが大切です。

初期の患者教育では、見通しを伝えることが重要です。

何が危険なサインなのか。

どの範囲なら動かしてよいのか。

痛みが少し出ることと、悪化していることは同じなのか。

こうした点を整理すると、患者さんは必要以上に怖がらずに動きやすくなります。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、交通事故後の首の痛みを「むち打ちですね」で終わらせないことを大切にしています。

痛みの場所、しびれ、頭痛、めまい、吐き気、動きの制限、神経症状、生活への影響を確認します。

医療機関での確認が必要な可能性があれば、その可能性をお伝えします。

その上で、施術、運動、生活上の注意点、回復までの見通しを整理していきます。

  • 事故後から首の痛みが続いている
  • 頭痛、吐き気、めまい、冷や汗のような症状がある
  • 腕や手のしびれ、力の入りにくさがある
  • 首を動かすのが怖く、動きが小さくなっている
  • 医療機関で異常なしと言われたが、症状が続いて不安がある
医療機関の確認について

事故後の強い頭痛、意識の異常、手足の脱力、歩行障害、排尿・排便の異常、骨折や脱臼が疑われる強い痛みがある場合は、まず医療機関での確認が必要になることがあります。

首だけでなく、経過を見る

外傷性頚部症候群は、首の痛みだけを見ればいいわけではありません。

分類、神経症状、不定愁訴、予後に関わる要素、患者さんの不安、動かし方。

それらを合わせて見る必要があります。

「むち打ち」という言葉は便利です。

でも、その一言で終わると、見落とすものがあります。

痛みを怖がらせすぎず、かといって軽く扱いすぎず、必要な評価と説明を行う。

交通事故後の首の症状では、このバランスが大事だと思っています。

瀬谷崎
瀬谷崎

むち打ちですね、で終わらせないことです。症状の背景と回復を妨げる要素まで見て、必要な説明と運動につなげたいですね。

参考

  • Pathology and Treatment of Traumatic Cervical Spine Syndrome: Whiplash Injury.
    PMC
  • SIRA. Classifying whiplash associated disorder severity.
    SIRA
  • Factors predicting outcome in whiplash injury: a systematic meta-review of prognostic factors.
    PMC
  • The Geography of Fatty Infiltrates within the Cervical Multifidus and Semispinalis Cervicis in Individuals with Chronic Whiplash-Associated Disorders.
    PMC
  • Intractable occipital neuralgia caused by an entrapment in the semispinalis capitis.
    PMC
  • The Intramuscular Course of the Greater Occipital Nerve.
    PMC
  • Mayo Clinic. Update on medical management of whiplash-associated disorders.
    Mayo Clinic
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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