通院費の話で本性が出る。整骨院が患者の財布と価値観に踏み込む時

お金の話は、提案の中身より態度が出る

「通院した方がいいのは分かるけど、お金が続かない」。この言葉にどう返すかで、治療院側の価値観がかなり出ます。

患者さんから「お金が続かないので、少し間隔を空けながら通いたい」と言われた時。

そこで「他に使うお金を減らせばいいんじゃないですか。体より大切なことなんてないでしょ」と返す。

これを聞いて、嫌な感じがする人は多いと思います。

実際、その一言で「もう行きたくない」と感じる患者さんもいるはずです。

ただ、ここで考えたいのは、他の支出を見直して通院を提案すること自体が悪なのかという話です。

個人的には、そこは少し違うと思っています。

まなぶ先生
まなぶ先生

患者さんのお金の使い方に踏み込むのは、やっぱり失礼じゃないですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

失礼になる時もあります。でも、患者さんの望む未来に近づくために必要なら、踏み込む提案をする場面もあります。問題は、そこに相手の価値観が入っているかどうかです。

問題は「お金を見直す提案」そのものではない

例えば、毎晩のように飲みに行っている患者さんがいたとします。

その患者さんが「腰痛を改善して仕事や趣味を楽にしたい」と本気で思っていて、でも通院費がネックになっている。

その時に、「毎日飲みに行っているうちの1回だけ減らして、仕事帰りに来ることはできませんか」と提案する。

これは、必ずしも患者さんの価値観を軽視した提案ではありません。

むしろ、患者さんが本当に手に入れたい生活に近づくために、現実的な選択肢を一緒に考えているとも言えます。

分けて考えたいこと

「体が一番大事だから他の支出を削れ」と押しつけることと、「この目標を優先するなら、今の生活の中で何を少し調整できそうか」と一緒に考えることは、まったく別物です。

同じようにお金の話をしていても、前者は価値観の押しつけです。

後者は、患者さんの価値観を前提にした提案です。

ここを一緒くたにすると、治療院側は何も踏み込めなくなります。

一発で信頼が崩れる言葉には、背景がある

「体より大切なことなんてないでしょ」という言葉がしんどいのは、その言葉自体が強いからだけではありません。

その背景に、相手の生活や価値観を考慮しない態度が透けて見えるからです。

患者さんには、家族、仕事、趣味、生活費、将来への不安があります。

体は大切です。

でも、体だけが人生ではありません。

医療者やセラピストが「体が一番大事」と思うのは自然ですが、その価値観をそのまま患者さんに押しつけると、たいてい話が雑になります。

雑な言い方:体より大切なことなんてないでしょ。ほかのお金を削ってください。

丁寧な言い方:いま一番優先したいことを考えると、通院のために少し調整できそうな支出や時間はありますか。

この違いは、かなり大きいです。

前者は、患者さんの生活を上から裁いています。

後者は、患者さんの生活の中に治療計画をどう入れるかを一緒に考えています。

患者の価値観に沿わない提案をしてはいけない、わけではない

ここも誤解されやすいところです。

患者さんの価値観を大切にすることは、患者さんの今の価値観に一切逆らわないことではありません。

患者さんが「痛みを良くしたい」「仕事を続けたい」「旅行に行きたい」「スポーツに戻りたい」と思っているなら、その目標に対して必要な提案をすることがあります。

その提案が、今の生活習慣やお金の使い方とぶつかることもあります。

その時に大切なのは、患者さんを否定することではなく、患者さんが何を大切にしたいのかを確認した上で、専門家として提案することです。

  • 患者さんが何を困っているのか
  • 何をできるようになりたいのか
  • 通院に使える時間とお金はどれくらいか
  • 削ってもよいものと、削りたくないものは何か
  • こちらの提案が、患者さんの望む未来に本当に近づくのか

この確認がないまま「こっちが正しい」と押し切ると、押し売りになります。

でも、この確認をした上で「ここは少し優先順位を変えませんか」と伝えるなら、それは臨床上の提案になり得ます。

信頼関係が浅いのに、深い提案をすると事故る

もうひとつ大事なのは、信頼関係の深さです。

同じ言葉でも、誰が言うかで受け取られ方は変わります。

初回でほとんど関係性ができていない人から生活費の話をされると、かなり不快に感じるかもしれません。

一方で、何度も話を聞いてくれて、こちらの事情も分かってくれている先生から言われると、「たしかにそこは少し変えられるかもしれない」と受け取れることもあります。

だからこそ、治療院側は「正しいことを言っているか」だけでなく、「今それを言える関係性か」も見なければいけません。

臨床の怖いところ

正論でも、出すタイミングを間違えると信頼を壊します。そして信頼が壊れた後に「患者さんのために言った」は、だいたい届きません。

お金の話は、かなり深い話です。

通院頻度の話に見えて、生活の優先順位の話でもあります。

そこに踏み込むなら、相手を説得する前に、相手の生活を理解する姿勢が必要です。

提案は、患者を動かすためではなく一緒に決めるためにある

治療院の現場では、継続通院が必要になる場面があります。

だから、通院計画を提案すること自体は悪くありません。

むしろ必要な説明をせず、患者さん任せにしてしまう方が不誠実なこともあります。

ただし、その提案は患者さんをこちらの都合で動かすためのものではありません。

患者さんが自分で納得して選ぶための材料であるべきです。

必要な回数、見通し、費用、選択肢、通わない場合の可能性。

そこを伝えた上で、患者さんの生活に合わせて調整する。

そのプロセスがないまま「体のためだから通え」は、かなり乱暴です。

お金の話を避けることも、雑に踏み込むことも違う

患者さんに嫌われたくないから、お金の話を一切しない。

逆に、売上を作りたいから、相手の生活を無視して通院を迫る。

どちらも、臨床としては雑です。

患者さんが本当に改善したいと思っているなら、通院頻度や費用の話は避けて通れないことがあります。

でも、その話は患者さんの生活を無視して進めるものではありません。

治療計画は、患者さんの身体だけでなく、時間、お金、仕事、家族、価値観の中で成立するものです。

だからこそ、通院費の話には、その治療院の姿勢が出ます。

患者さんの財布をこじ開けるのではなく、患者さんの望む未来に対して、現実的な選択肢を一緒に並べる。

その姿勢があるかどうかで、同じ提案でもまったく別物になります。

瀬谷崎
瀬谷崎

患者さんのお金の使い方に触れるなら、まず患者さんが何を大切にしているかを見ないといけません。そこを見ずに「体が一番でしょ」と言うのは、提案ではなく価値観の押しつけです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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