整骨院・治療院の開業で失敗しないために、最初に削るべき固定費と見栄

開業でいちばん怖いのは、理想より先に固定費が膨らむこと

広い物件、きれいな内装、最新設備、最初からスタッフ採用。どれも開業前には魅力的に見えます。でも、売上が立つ前に固定費を大きくすると、治療院経営は一気に苦しくなります。

開業初期は、理想の院を作るより「潰れにくい形」で始めることが大事です。固定費を下げ、小さく始め、仕組みを作ってから広げる。この地味な順番を飛ばすと、後からかなり苦しくなります。

開業を考える時、多くの人は理想の院を思い描きます。

広くてきれいな空間。最新の物理療法機器。スタッフがそろっていて、受付も施術もスムーズに回る院。内装にもこだわって、患者さんが「ここ良さそう」と思ってくれる場所。

気持ちはよく分かります。せっかく開業するなら、自分が納得できる院を作りたい。

ただ、少し辛口に言うと、開業前の理想は、かなりの確率で固定費を増やす方向に働きます。

まなぶ先生
まなぶ先生

きれいで広い院の方が、患者さんも来てくれそうに見えますよね。

瀬谷崎
瀬谷崎

見えます。でも、家賃や内装費を回収できるだけの集客力が最初からあるかは別です。ここを混ぜると危ないです。

広すぎる物件と高すぎる家賃は、最初から首を絞める

開業初期でいちばん怖いのは、売上が読めない段階で固定費を大きくすることです。

家賃は、患者さんが来ても来なくても毎月出ていきます。広い物件を借りれば、家賃だけでなく内装費、光熱費、清掃、備品、空間を埋めるための設備まで増えます。

売上が安定していない時期にこれを背負うと、毎月のプレッシャーがかなり重くなります。

開業初期に必要なのは、見栄えのする広さより、赤字期間を耐えられる軽さです。

もちろん、狭すぎて施術や導線に支障が出るのは困ります。

ただ、最初から大きく構えすぎる必要はありません。小さく始めて、売上と予約が安定してから広げる方が、経営としてはかなり現実的です。

内装と設備は、売上を作ってからでも遅くない

内装や設備にお金をかけたくなる気持ちは分かります。

きれいな院にしたい。患者さんに安心してほしい。他院と差別化したい。最新の機器があれば、施術の幅が広がる気がする。

ただ、内装がきれいだからリピートする、最新機器があるから継続して通う、とは限りません。

患者さんが見ているのは、最終的には「自分の悩みを理解してくれるか」「説明が納得できるか」「身体がどう変わるか」「通いやすいか」です。

見落としやすいこと

高い内装費や設備投資は、開業した瞬間から回収が始まります。集客力がまだ読めない段階では、自己満足の投資と必要な投資を分けて考えた方がいいです。

最初は最低限でいい。

これは雑に始めるという意味ではありません。清潔感、導線、安全性、説明しやすい環境は必要です。ただ、背伸びした内装や高額機器は、売上が立ってからでも検討できます。

売上がないうちの採用は、人件費が先に走る

開業時からスタッフがいると、院らしく見えます。

受付もいて、施術者も複数いて、チームで動ける。理想としては良いです。

ただ、売上が立つ前に人を雇うと、人件費が先に確定します。患者さんが来ない月でも給与は必要です。社会保険や教育コスト、採用コストもかかります。

ここを甘く見ると、家賃と人件費だけで毎月かなりの金額が消えていきます。

開業初期に増やしやすいもの 魅力的に見える理由 後から効いてくる負担
広い物件 余裕があり、院らしく見える 家賃、内装費、維持費が重い
高額な内装 ブランド感が出る 回収まで時間がかかる
最新機器 差別化できそうに見える 使いこなせないと負債になる
初期スタッフ採用 組織っぽく始められる 売上前に人件費が固定化する
広い物件

魅力的に見える理由:余裕があり、院らしく見える

後から効いてくる負担:家賃、内装費、維持費が重い

高額な内装

魅力的に見える理由:ブランド感が出る

後から効いてくる負担:回収まで時間がかかる

最新機器

魅力的に見える理由:差別化できそうに見える

後から効いてくる負担:使いこなせないと負債になる

初期スタッフ採用

魅力的に見える理由:組織っぽく始められる

後から効いてくる負担:売上前に人件費が固定化する

最初は自分ひとりでできる範囲を見極める。

予約が埋まり、売上が読めて、教育する余裕が出てから人を増やす。この順番の方が、かなり安全です。

競合がいない場所は、チャンスとは限らない

出店場所を考える時、「競合が少ない場所」は魅力的に見えます。

近くに整骨院や整体院が少ない。これは自分が独占できるチャンスではないか。そう考えたくなります。

でも、競合がいない理由が「需要がないから」かもしれません。

ここは冷静に見る

競合が多い場所は大変ですが、少なくとも患者さんの母数がある可能性があります。競合がまったくいない場所は、そもそも来院する人が少ない可能性もあります。

もちろん、競合が少なくても成立する地域はあります。

ただし、その場合は人口、年齢層、交通動線、駐車場、生活圏、検索需要、紹介が起きる環境まで見る必要があります。「誰もいないから勝てる」は、かなり危ない判断です。

2店舗目は、近さも経営資源になる

1店舗目がうまくいくと、2店舗目を考えたくなります。

その時に見落としやすいのが、距離です。

遠い場所に出すと、移動だけで時間が削られます。面談、練習、トラブル対応、スタッフのフォロー、物品の確認。すべてに移動コストが乗ります。

院を増やすということは、施術だけでなく管理する対象が増えるということです。

まなぶ先生
まなぶ先生

良い物件が遠くにあったら、少し迷いますね。

瀬谷崎
瀬谷崎

物件単体では良く見えても、管理に時間がかかるとじわじわ効きます。2店舗目は、通いやすさもかなり大事です。

給与や手当は、気持ちではなく利益から逆算する

スタッフに頑張ってほしい。

良い人に長く働いてほしい。家族もいるし、生活もある。だから給与や手当を厚くしたい。

この気持ちは悪くありません。むしろ大切です。

ただ、利益が出る前に高い給与や手当を先に約束すると、経営が苦しくなります。

報酬設計の考え方

報酬は「頑張ってほしいから先に払う」より、「利益が出た分をどう還元するか」で考えた方が安全です。先払いの期待は、固定費として院に残ります。

家族手当、家賃補助、スクール代補助、特別手当。ひとつひとつは良い制度に見えます。

でも、制度は一度作ると簡単には戻せません。感情で作った制度が、数年後に院の首を絞めることもあります。

担当制とフラット組織は、良さだけを見ると危ない

担当制には良い面があります。

患者さんとの関係性が作りやすい。責任感が生まれる。経過を追いやすい。これは確かです。

ただ、担当者に依存しすぎると、そのスタッフが休んだ時、退職した時、院全体が大きく揺れます。施術内容や説明がブラックボックス化していると、他のスタッフが引き継げません。

担当制の強みは、属人化のリスクとセットです。患者さんが「院」ではなく「その人」だけについている状態は、経営としてかなり不安定です。

フラットな組織も同じです。

全員が対等。全員で考える。上下関係を強くしない。言葉としてはきれいです。

でも、責任者がいない組織は、判断が遅れます。経験の浅いスタッフに過剰な負担がかかったり、誰も最終判断をしなかったりします。

役職や責任は、偉そうにするためのものではありません。現場を守るために必要な役割です。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、患者さんへの施術だけでなく、院を長く続けるための仕組みも大切にしています。

院の経営が不安定になると、スタッフにも患者さんにも影響が出ます。無理な売り込み、過剰な通院提案、スタッフの疲弊、教育不足。そういう形で、最終的に現場へ返ってきます。

だからこそ、開業や店舗展開では、理想を語る前に固定費、導線、教育、責任者、引き継ぎの仕組みを見ます。

少し辛口に言うと

「自分だけが思いついた最高の治療院」は、だいたい先人が一度試して失敗しています。奇抜な仕組みより、地味なセオリーを守る方が強いことは多いです。

これから開業するなら、小さく始める

開業には夢があります。

自分の考えで院を作り、患者さんと向き合い、地域に必要とされる場所を作る。これは大きな挑戦です。

ただ、夢を続けるには、潰れない形で始める必要があります。

  • 最初は家賃をできるだけ抑える
  • 居抜きや小規模物件も候補に入れる
  • 内装と設備は最低限から始める
  • 最初から人を増やしすぎない
  • 出店場所は競合の有無だけで判断しない
  • 2店舗目は管理しやすい距離を考える
  • 給与や手当は利益から逆算する
  • 属人化しすぎない仕組みを作る

小さく始めることは、弱い選択ではありません。

むしろ、修正できる余白を残すための強い選択です。

失敗を避けることは、挑戦を小さくすることではない

開業に正解はありません。

地域、資金、技術、集客、家族構成、スタッフの有無。条件によって選ぶべき形は変わります。

ただ、避けた方がいい失敗には、かなり共通点があります。固定費を大きくしすぎる。見栄で設備を増やす。売上前に人件費を膨らませる。属人化を放置する。責任者を置かない。

こういう失敗を避けることは、挑戦を小さくすることではありません。続けるために、余計な穴をふさぐことです。

瀬谷崎
瀬谷崎

開業で大事なのは、最初から理想を全部詰め込むことではありません。小さく始めて、数字を見て、仕組みを作ってから広げる。地味ですが、これが一番倒れにくいと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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