理想の治療院で廃業しないために。開業前に考えたい経営設計の順番
瀬谷崎コラム
理想の治療院ほど、先に数字を見た方がいい
患者さんのためになる院を作りたい。その気持ちは大切です。ただ、理想を最初から全部詰め込むと、院が続かなくなることがあります。
理想を捨てる必要はありません。ただし、理想を実現する順番を間違えると、回数券・継続モデル・時短施術を嫌って開業した人ほど、結局そこへ戻らざるを得なくなります。
雇われ時代に、売上重視の空気が嫌だった。
回数券を売ることに違和感があった。
短い施術時間で、患者さんを流れ作業のように見ることにモヤモヤしていた。
だから独立して、自分はもっと患者さんのためになる院を作りたい。
この気持ち自体は、すごくよく分かります。
でも、経営は気持ちだけでは回りません。
少し辛口に言うと、「前職のやり方が嫌だったから、その逆を全部やる」は事業計画ではありません。

まなぶ先生

瀬谷崎
理想は大事。でも最初に詰め込みすぎない
理想の治療院を作りたい人ほど、最初からいろいろ入れたくなります。
回数券は使わない。都度払いで誠実にやる。治ったら卒業してもらう。一人ひとりに長く時間を取る。安く通いやすくする。
ひとつひとつは、患者さん目線に見えます。
ただ、経営設計として全部同時に入れると、かなり難易度が上がります。
患者さんに優しい設計と、院が続く設計は、必ずしも同じではありません。両方を成立させるには、順番と数字が必要です。
院が続かなければ、患者さんを診続けることはできません。
理想を守るためにも、まず潰れない設計を作る必要があります。
回数券を使わない理想と、継続率の現実
回数券に違和感を持つ人は多いと思います。
売り方が強すぎる。必要以上に長く通わせる。患者さんの不安をあおる。そういう現場を見てきた人ほど、「自分は回数券を使わない」と考えます。
その感覚は大切です。
ただ、回数券そのものが悪いのではなく、問題は売り方と設計です。
都度払いだけにすると、患者さんが必要な回数だけ通う前に離脱しやすくなることがあります。
また、開業初期は売上が安定しにくく、前払いのキャッシュがないと資金繰りが苦しくなります。
回数券を「押し売りする」のはよくありません。ただ、必要な治療計画を説明し、通院の見通しを共有し、納得して選んでもらう継続設計まで否定すると、経営も臨床も不安定になりやすいです。
大切なのは、回数券を使うか使わないかの二択ではありません。
どんな目的で、何回くらい必要で、途中でどう評価し直すのか。
ここを説明できるかです。
全員を卒業させるモデルは、新規集客が強くないと苦しい
「患者さんをずっと通わせたくない」
これもよく分かります。
痛みが改善して、生活に戻れて、自分で管理できるようになったら卒業する。
臨床としては自然な考え方です。
ただ、経営としては、卒業する患者さんが増えるほど、常に新規を呼び続ける必要があります。
新規集客には広告費も手間もかかります。
しかも、広告費は年々上がりやすく、地域によって競合も増えます。

まなぶ先生

瀬谷崎
卒業モデルが悪いのではありません。
ただ、それをやるなら、単価、広告費、新規数、継続率、紹介率まで計算する必要があります。
「良いことだから大丈夫」ではなく、「良いことを続けられる数字になっているか」を見ます。
長く向き合うなら、単価も設計しないと詰まる
前職で短時間施術に不満があった人ほど、開業後は長めの施術時間を取りたくなります。
30分、45分、60分。
しっかり話を聞いて、評価して、施術して、セルフケアまで伝える。
これも、方向性としては悪くありません。
ただ、施術時間を長くすると、予約枠は減ります。
予約枠が減ると、売上の天井も下がります。
さらに、既存の予約で枠が埋まると、新規の問い合わせを断る場面も出てきます。
| 理想の設計 | 起きやすい現実 | 必要な調整 |
|---|---|---|
| 都度払いだけで誠実にやる | 通院が続かず、売上も不安定になりやすい | 治療計画と継続方法を説明できる設計にする |
| 全員を早く卒業させる | 常に新規集客が必要になり、広告費が重くなる | 高単価、紹介、集客導線を先に作る |
| 長い時間を安く提供する | 予約枠が足りず、売上の上限が低くなる | 時間に見合う単価とメニュー設計にする |
長く診るなら、その価値に見合う単価にする必要があります。
でも、優しい人ほど高くできません。
結果として、自分の体力と時間を削りながら、売上が伸びない状態になります。
ここを根性で乗り切ろうとすると、かなり苦しいです。
嫌っていた仕組みに戻るのは、理想が弱いからではない
理想だけで始めて経営が苦しくなると、最終的に前職で嫌っていた仕組みに戻ることがあります。
回数券を入れる。メンテナンスコースを作る。施術時間を短くする。単価を上げる。広告を強める。
すると、「自分も結局同じことをしている」と落ち込む人がいます。
でも、それは理想が弱かったからというより、順番を間違えた可能性があります。
本来は、経営が安定する仕組みを先に作り、その上で自分の理想をどこまで入れるかを考えるべきです。
経営が不安定なまま理想を入れると、理想が重荷になります。先にキャッシュフローを安定させると、理想を試す余裕が生まれます。
患者さんのためにやりたいことがあるなら、院を続ける力が必要です。
そのために数字を見ることは、理想を捨てることではありません。
開業前に見たい3つの数字
開業前に、最低限この3つは見ておきたいです。
- 毎月いくらの固定費が出ていくのか
- 新規1人を獲得するために、広告費と時間がどれくらい必要か
- 1人の患者さんから、無理のない範囲でどれくらいの売上が見込めるか
この3つが曖昧なまま、「患者さんのために良い院を作ります」だけで開業すると、かなり危ないです。
優しさや理想は、数字の上に乗せて初めて続きます。
逆に言えば、数字が整えば、理想を入れる余地はちゃんと作れます。
理想は、続けられる形にしてから現場へ入れる
理想の治療院を作ることは、悪いことではありません。
むしろ、そういう気持ちがないと、良い院は作れないと思います。
ただ、理想をそのままメニューにする前に、経営として成立するかを見ます。
回数券を使わないなら、継続率と資金繰りはどうするのか。
卒業させるなら、新規集客と単価はどう設計するのか。
長く向き合うなら、その時間に見合う価格をどう説明するのか。
ここを避けずに考えることが、結果的に患者さんのためになります。
理想を守りたいなら、まず理想が続く土台を作る。
開業では、この順番がかなり大事です。

瀬谷崎













