膝のお皿の下が痛い。見落とされやすい「膝蓋下脂肪体」の話

膝の前の痛みを、軟骨だけで決めていませんか

膝の前、お皿のすぐ下が痛い。しゃがむ、階段を下りる、正座をする、膝をピンと伸ばしきると痛む。そんなとき、原因を「軟骨のすり減り」や「半月板」だけで考えていないでしょうか。膝の前には、痛みに深く関わる膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)という組織があります。

膝の痛みというと、軟骨や半月板の名前がまず思い浮かぶかもしれません。

もちろん、それらも大切な要素です。

ただ、膝の「前」が痛いとき、お皿の下にある膝蓋下脂肪体という組織が関わっていることは、決して珍しくありません。

この記事では、膝蓋下脂肪体がどんな組織で、なぜ膝の前の痛みに関わるのか、そして整骨院ではどう向き合うのかを整理します。

膝蓋下脂肪体は、ただのクッションではない

膝蓋下脂肪体は、膝のお皿(膝蓋骨)の下、膝蓋腱の深部にある脂肪組織です。

膝を曲げ伸ばしすると、この脂肪体は形を変えながら動き、関節の隙間を埋めたり、当たりをやわらげたりしています。

「脂肪」と聞くと、ただのクッションのように思えるかもしれません。ところが膝蓋下脂肪体は、膝の中でも痛みを感じるセンサー(神経終末)や血管がとても豊富な組織として知られています。

つまり、ここは「痛みを感じやすい場所」でもあるのです。

まなぶ先生
まなぶ先生

膝の前が痛い患者さんって、つい軟骨や半月板に目がいきます。膝蓋下脂肪体は、実際どのくらい痛みに関わるんですか?

教子先生
教子先生

脂肪体は基本クッションでしょう。臨床的には、軟骨のすり減りと半月板を押さえておけば、だいたい説明はつくと思うけど。

瀬谷崎
瀬谷崎

そこが落とし穴なんです。膝蓋下脂肪体は侵害受容器、つまり痛みのセンサーが密に分布していて、滑膜とも連続している。膝の前方の痛みでは、むしろ主役級になることもあります。軟骨自体は神経支配が乏しいので、「軟骨=痛みの主因」と決めてしまう方が、かえって危ういんですよ。

なぜ、膝の前が痛くなるのか

膝蓋下脂肪体が関わる痛みには、いくつか特徴があります。

膝をピンと伸ばしきったとき(伸展の終わり)に痛む、お皿の下や膝蓋腱の両脇を押すと痛い、膝の前が腫れぼったく重い感じがする、といったケースです。

背景には、膝に炎症があったり、変形性膝関節症などがあったりして、脂肪体が刺激を受けやすくなっている状態があります。脂肪体が膝の動きの中で挟み込まれたり、敏感になったりすると、膝の前の痛みとして感じられます。

最初に分けたいこと

膝の前の痛みを「軟骨がすり減っているから」とだけ考えると、膝蓋下脂肪体のように変化しうる組織が見えなくなります。「画像の変化」と「いま痛みを出している組織」は、分けて考えたいところです。

「動きが悪い」とは、どういう状態か

膝蓋下脂肪体は、本来やわらかく、膝の動きに合わせて滑るように形を変えます。

ところが、炎症や膝への負担が続くと、この滑りや動きが落ちて、硬く感じられることがあります。実際に左右の膝を比べると、痛む側だけ膝の前の組織が動きにくい、ということもあります。

まなぶ先生
まなぶ先生

「脂肪体の動きが落ちている」というのは、何を見て、どうアプローチすればいいんでしょう?

教子先生
教子先生

硬くなっているなら、しっかり圧をかけて滑走性を出せばいいんじゃない?動かして緩めれば早いでしょう。

瀬谷崎
瀬谷崎

強い圧で「緩める」という発想は危ないです。膝蓋下脂肪体は炎症で過敏になりやすい組織で、熱感や腫れがある時期に強く触れば、痛みをむしろ増やします。まず炎症の有無と左右差を診て、軽度屈曲から伸展位で、愛護的に動きを出していく。順番を間違えると逆効果になるんです。

整骨院では、どう向き合うのか

膝蓋下脂肪体に対しては、状態を確かめながら、膝の前の組織の動きを少しずつ出していく、というアプローチがあります。

膝を軽く曲げた状態や伸ばした状態で、膝蓋腱の両脇からやさしく脂肪体の動きを促していくような方法です。最初は痛みを感じても、続けるうちに和らいでくることがあります。左右差が縮まってくるかどうかも、ひとつの目安になります。

大事なのは、行う時期です。熱っぽさや強い腫れがある炎症期には行いません。その時期を避け、落ち着いてから、状態を見ながら進めます。

▲ 動画で見る:膝蓋下脂肪体のモビライゼーション(瀬谷崎将也/リアル治療家チャンネル)

まなぶ先生
まなぶ先生

患者さんから「家で揉んでもいいですか」とよく聞かれます。どう答えるのがいいですか?

教子先生
教子先生

痛いところを自分で押してもらえば、来院しない日もケアできていいんじゃない?

瀬谷崎
瀬谷崎

自己流の強い圧は勧めません。脂肪体が過敏な時期に押し込むと、悪化することがあります。むしろ伝えたいのは、熱感・強い腫れ・急に膝が動かせないといったレッドフラッグと、「痛みが強い時は触らない」こと。セルフケアは炎症が落ち着いてから、愛護的な範囲で、が原則です。

こんなときは早めに相談を

膝に強い熱感や腫れがある/水がたまった感じがある/急に膝を動かせない・体重をかけられない――こうしたときは、自己対処を続けず、医療機関や専門家にご相談ください。

膝の前の痛みは「軟骨だけ」で決めない

膝の前が痛いとき、原因を軟骨のすり減りだけに求めると、変えられるかもしれない要素を見落とすことがあります。

お皿の下にある膝蓋下脂肪体は、痛みを感じやすく、動きが落ちることもある組織です。ここに目を向けるだけでも、膝の前の痛みとの向き合い方は変わってきます。

気になる膝の痛みがあれば、どの動きで・どこが・どんなふうに痛むのかを手がかりに、一度ご相談ください。

瀬谷崎
瀬谷崎

膝の前の痛みは、軟骨の話だけで終わらせない方がいいです。膝蓋下脂肪体のように侵害受容器が豊富で、炎症や滑りの低下が痛みに関わる組織もある。どの動作で痛むか、腫れや熱はないか、左右差はどうか。そこを評価してから、向き合い方の順番を組み立てたいですね。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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