代替医療の発信で信頼を失わないために、施術者が考えておきたい説明責任
セラピスト向け
その発信は、患者さんの選択肢を広げているか
鍼灸や手技療法には、標準医療とは違う役割があります。ただし、その価値を伝えたい気持ちが強くなりすぎると、患者さんの判断を狭める言葉になってしまうことがあります。
大事なのは、標準医療を敵にしないことです。自分たちの施術にできること、まだ分からないこと、医療機関で確認すべきことを分けて伝える。その説明がないまま強い言葉で発信すると、信頼は一気に崩れます。
SNSで治療や健康情報を発信する人は増えました。
患者さんに届きやすくなった一方で、言葉の強さも目立ちやすくなっています。「病院では分からない」「薬では治らない」「本当の原因はこれ」「自分の方法なら変えられる」。
こういう言葉は、悩んでいる人には刺さります。特に、長く不調が続いている人、検査では大きな異常が見つからなかった人、妊活や慢性症状のように時間も気持ちも削られやすい領域では、強い言葉ほど希望に見えることがあります。
でも、少し辛口に言うと、希望に見える言葉が、患者さんの判断を危うくすることもあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
「自分だけが分かっている」という発信の危うさ
施術者は、現場でいろいろな経験をします。
病院では変わらなかった人が、鍼灸や手技療法で楽になった。薬だけではしんどかった人が、生活や身体の使い方を見直して落ち着いた。そういう場面は確かにあります。
だからこそ、「自分のやっていることには意味がある」と思うのは自然です。そこは否定しません。
ただ、経験が強いほど、見落としも起きます。うまくいった人の印象が強く残り、変わらなかった人のことは薄くなる。自分の考えに合う情報ばかり集めてしまう。ひとりの成功例を、すべての人に当てはめたくなる。
臨床経験は大切です。ただし、経験だけで「これが正解」と言い切ると、患者さんにとって必要な選択肢を狭めてしまうことがあります。
これは施術者の性格が悪いという話ではありません。人は誰でも、自分が見たい情報を強く見てしまいます。
だからこそ、発信する時には「自分の経験」と「一般化してよい話」を分ける必要があります。
医療不信に乗りすぎない
患者さんの中には、医療機関でつらい経験をした方もいます。
話を十分に聞いてもらえなかった。検査では異常なしと言われたけれど、症状は残っている。薬を飲んでも変わらない。そういう経験があると、「病院では助けてもらえない」と感じることがあります。
施術者がその気持ちを受け止めることは大切です。ここで「そんなことはないです」と雑に否定しても、患者さんは孤立します。
ただし、患者さんの医療不信に乗っかって、標準医療そのものを敵にするのは違います。
「病院では意味がない」「薬は必要ない」「検査を受けても無駄」「自分の方法しかない」といった表現は、患者さんが本来受けるべき確認や治療から離れるきっかけになることがあります。
不安を抱えた人にとって、断定は安心に見えます。でも、断定で安心させることと、必要な情報を渡して安心してもらうことは別です。
「効く」より先に、どこまで分かっているかを話す
鍼灸や手技療法、運動指導、生活指導には、それぞれ役割があります。痛みの軽減、緊張の緩和、身体の使い方の改善、睡眠やストレスへの間接的なサポートなど、現場で役に立つ場面はあります。
一方で、すべての症状や病気に対して、明確に強い根拠がそろっているわけではありません。
ここを隠して「治る」と言い切ると、患者さんは正しい比較ができません。施術を受けるかどうかを選ぶには、期待できることだけでなく、限界や不確実さも知る必要があります。
| 避けたい言い方 | 整えたい言い方 | 理由 |
|---|---|---|
| これで治ります | 症状の一部に変化が出る可能性があります | 改善を約束する表現を避け、期待値を調整する |
| 病院では分かりません | 医療機関での確認も大切にしながら、身体の反応を見ます | 標準医療を否定せず、役割を分ける |
| 薬に頼らない方がいい | 薬の相談は医師や薬剤師に確認し、施術では別の面から支えます | 職域を越えた助言にならないようにする |
| 原因はこれです | 関与している可能性を考え、他の所見と合わせて見ます | 診断断定を避け、評価の材料として扱う |
整えたい言い方:症状の一部に変化が出る可能性があります。
理由:改善を約束する表現を避け、期待値を調整する。
整えたい言い方:医療機関での確認も大切にしながら、身体の反応を見ます。
理由:標準医療を否定せず、役割を分ける。
整えたい言い方:薬の相談は医師や薬剤師に確認し、施術では別の面から支えます。
理由:職域を越えた助言にならないようにする。
整えたい言い方:関与している可能性を考え、他の所見と合わせて見ます。
理由:診断断定を避け、評価の材料として扱う。
言葉を弱くする、という話ではありません。むしろ逆です。誠実に説明できる言葉の方が、長く見れば強いです。

まなぶ先生

瀬谷崎
説明責任は、同意書の話だけではない
インフォームドコンセントというと、同意書や説明文書のイメージがあるかもしれません。
でも本質は、患者さんが自分で選べるだけの情報を持てているかどうかです。
施術者側が「良いこと」だけを伝え、リスクや限界をぼかしたまま受けてもらう。それは、同意を取っているようで、実は選択を支えていません。
- 医療機関での確認が必要な可能性を伝えているか
- 施術で期待できることと、期待しすぎない方がいいことを分けているか
- 改善しない可能性や、途中で方針を見直す条件を話しているか
- 患者さんが質問しやすい空気を作っているか
- 自分の職域を越える内容を断定していないか
特に、妊活、がん、難病、精神的な不調、強い痛みやしびれが関わる領域では、言葉の重みが変わります。
「少しでも可能性があるなら」と思っている人ほど、強い発信に引っ張られやすい。だからこそ、施術者側がブレーキを持っておく必要があります。
SNSでは、正しさも攻撃的になりやすい
医療情報の誤りが批判されること自体は、必要な面があります。
根拠の乏しい情報が広がり、患者さんが適切な医療につながる機会を失うなら、誰かが指摘する必要はあります。これはきれいごとでは済みません。
ただ、SNSでは批判がどんどん強くなりやすい。最初は情報の訂正だったものが、人格攻撃や業界全体への決めつけに変わっていくこともあります。
ひとりの発信の問題が、「鍼灸師はみんな危ない」「整体は全部だめ」といった雑な分類につながることがあります。だからこそ、発信する側は個人の言葉が業界全体の印象にも影響することを自覚した方がいいです。
批判する側にも節度は必要です。ただ、発信する側が「叩かれた」「医療側が分かってくれない」だけで終わると、同じことを繰り返します。
まず見るべきは、自分の言葉が患者さんの安全や選択にどう影響したかです。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、施術でできることを大切にしながら、医療機関で確認すべきことも大切にしています。
痛みやしびれ、長引く不調には、筋肉や関節の問題だけでなく、医療機関での確認が必要な可能性が混ざることがあります。整骨院で見られる範囲と、医師の診察が必要な範囲を分けて考えることは、患者さんを守るために欠かせません。
施術者が自信を持つことは大事です。ただ、自信が断定に変わると危ない。説明は、患者さんをこちらに引き寄せるためではなく、患者さんが納得して選べるようにするためにあります。
補完的な施術の価値は、標準医療を否定した先にあるわけではありません。医療機関での確認、生活背景、身体の反応、本人の希望を合わせて見た時に、支えられる部分がある。そこを丁寧にやる方が、結果的に信頼されます。
発信する施術者が見直したいこと
SNSで発信するなら、施術の魅力だけでなく、言葉の責任もセットで考えたいところです。
特に、患者さんの不安を刺激する言葉は伸びやすいです。「このままだと危ない」「本当の原因を知らないと損をする」「病院では見逃される」。こういう言い方は、短期的には反応が取れるかもしれません。
でも、それで来た患者さんは、安心して来ているのではなく、不安で来ている可能性があります。そこにさらに強い説明を重ねると、通院や施術の判断が冷静にできなくなります。
患者さんの不安を燃料にして集めた信頼は、信頼ではなく依存に近くなります。施術者が本当に作るべきなのは、怖がらせて離れられなくする関係ではなく、説明して自分で選べる関係です。
患者さん側も、強い言葉ほど一度立ち止まる
患者さんにとっても、健康情報の見極めは簡単ではありません。
「これで治る」「病院では分からない」「本当の原因はこれ」と言われると、今までつらかった人ほど気持ちが動きます。
だからこそ、強い言葉を見た時ほど、少し立ち止まってください。
- 医療機関で確認すべき可能性を説明しているか
- 改善しない場合の話もしているか
- 「必ず」「絶対」「これだけ」といった断定が多すぎないか
- 質問した時に、分かる言葉で答えてくれるか
- 不安をあおる説明ばかりになっていないか
施術を受けること自体が悪いわけではありません。大事なのは、必要な医療確認を避けず、納得できる説明を受けた上で選ぶことです。
強い言葉より、選べる説明を
施術者は、自分の仕事に誇りを持っていいと思います。
標準医療だけでは拾いきれない不安や生活の困りごとに寄り添える場面もあります。そこに、鍼灸や手技療法、整骨院の価値はあります。
ただし、その価値は「病院はだめ」「自分たちだけが正しい」と言った瞬間に、かなり危うくなります。患者さんを支えるはずの言葉が、患者さんの選択肢を奪う言葉になるからです。

瀬谷崎













