腰痛の説明で回復を遅らせないために。医療者の思い込みと患者教育
セラピスト向け
腰痛の説明で、怖がらせすぎていないか
腰痛の患者さんに何を伝えるかは、施術そのものと同じくらい大切です。医療者側の思い込みが、患者さんの動き方や働き方を狭めてしまうことがあります。
腰痛を必要以上に危険なものとして説明すると、活動や仕事を避ける行動につながることがあります。患者さんを守る説明と、患者さんを怖がらせる説明は違います。
腰痛の説明は、意外と難しいです。
「無理しないでください」
「痛いことは避けてください」
「しばらく安静にしてください」
こういう言葉は、患者さんを守るつもりで出てきます。
もちろん、急性期で強い痛みがある時や、医療機関での確認が必要なサインがある時には、慎重な判断が必要です。
ただ、腰痛のすべてを「動いたら悪化するもの」として扱うと、患者さんの回復をかえって遠ざけることがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
医療者の信念は、患者さんに伝染する
腰痛の患者さんは、ただ痛みだけを抱えているわけではありません。
「このまま悪くなるのでは」
「仕事に戻って大丈夫なのか」
「運動したらもっと壊れるのでは」
こうした不安も一緒に抱えています。
そこで医療者が、強い恐怖を前提にした説明をすると、その不安はさらに大きくなります。
腰痛に対する医療従事者の信念は、患者教育や活動制限の助言に影響することがあります。
研究でも、医療従事者の腰痛に対する信念や態度が、患者さんへの助言やマネジメントに関係することが示されています。
たとえば、腰痛を構造の問題だけで強く捉えたり、動くことへの恐怖が強かったりする医療者ほど、仕事や身体活動を制限するような助言をしやすい傾向が報告されています。
少し辛口に言うと、患者さんが怖がっているのではなく、施術者側が怖がっているだけという場面もあります。
ガイドラインと逆向きの説明になっていないか
多くの腰痛ガイドラインでは、重い病気や明らかな危険なサインがない場合、過度な安静を避け、可能な範囲で活動を続けることが重視されます。
もちろん、痛みを我慢して無理やり働け、運動しろ、という話ではありません。
大切なのは、必要以上に活動を止めないことです。
ところが、医療者側に「腰痛は動かすと悪くなる」「痛みがなくなるまで仕事は無理」「画像で異常があるなら安静」という信念があると、患者さんへの説明はガイドラインと逆方向に向かいやすくなります。
「念のため安静に」と言ったつもりでも、患者さんには「動くと危ない」「仕事に戻ると壊れる」と伝わることがあります。言葉の受け取られ方まで含めて、説明の責任です。
患者さんは、専門家の言葉をかなり重く受け取ります。
「腰が歪んでいる」
「骨がすり減っている」
「このままでは大変」
こうした表現は、分かりやすい反面、患者さんの行動を小さくすることがあります。
説明の目的は、怖がらせて通わせることではありません。次に何をすればいいかを整理することです。
よくある説明の落とし穴
腰痛の説明で問題になりやすいのは、言っている側に悪気がないことです。
患者さんを守りたい。
悪化させたくない。
クレームになってほしくない。
そういう気持ちから、つい保守的な説明になります。
| よくある説明 | 患者さんに残りやすい印象 | 言い換えるなら |
|---|---|---|
| 痛いなら動かないでください | 痛みがある動きは全部危険 | 痛みの強さや残り方を見ながら、できる動きから戻しましょう |
| 仕事はしばらく無理ですね | 働くと腰が壊れる | 仕事の内容を確認して、負担を調整しながら戻る方法を考えましょう |
| 画像で異常があります | 腰が壊れている | 画像所見は参考ですが、症状と必ず一致するわけではありません |
| 骨盤や姿勢が悪いですね | 身体の形が悪いから痛い | 動き方や負荷のかかり方も含めて、症状との関係を見ます |
こうした言い換えは、言葉をやわらかくするためだけではありません。
患者さんが「何を避けるべきか」だけでなく、「何ならできるのか」を考えられるようにするためです。
活動をすすめることと、無理をさせることは違う
ここは誤解されやすいところです。
活動を続けることが大切だと言うと、「痛くても我慢して動けということですか」と受け取られることがあります。
そうではありません。
大事なのは、痛みの出方、強さ、残り方、翌日の反応を見ながら、活動を調整することです。
痛みが急激に強くなる、動いた後に長く残る、翌日に明らかに悪化する場合は見直しが必要です。一方で、軽い違和感があってもすぐ落ち着き、後に残らない場合は、少しずつ活動を戻す材料になることがあります。
腰痛の患者さんに必要なのは、「休むか、動くか」の二択ではありません。
どのくらいなら動けるのか。
どの動きは避けた方がいいのか。
どの仕事なら調整できるのか。
どこから再開すれば不安が少ないのか。
このあたりを一緒に整理することです。

まなぶ先生

瀬谷崎
施術者側のアップデートも臨床の一部
腰痛の説明は、患者さんの行動に影響します。
だから、施術者側の知識や信念をアップデートすることも、臨床の一部です。
昔はよく言われていた説明でも、今のガイドラインや研究の流れと合わないものがあります。
たとえば、非特異的腰痛を構造異常だけで説明すること。
安静を長くすすめること。
仕事や運動を必要以上に止めること。
痛みが完全になくなるまで通常生活に戻れないように伝えること。
こうした説明は、患者さんの恐怖回避や活動制限につながる可能性があります。
患者教育は、知識を渡すだけではありません。患者さんが自分の身体をどう捉えるかを作る行為でもあります。
同業者向けに言うなら、ここは結構シビアです。
手技がうまいかどうか以前に、説明で患者さんを怖がらせているなら、回復の邪魔をしている可能性があります。
良かれと思って言っているからこそ、見直しにくい。
でも、そこを見直せるかどうかが、臨床の質にかなり関わると思います。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、腰痛を必要以上に怖がらせない説明を大切にしています。
もちろん、危険なサインを見逃さないことは前提です。
強い外傷、発熱、急な脱力、排尿・排便の異常、安静にしていても強い痛みが続く場合などは、医療機関での確認が必要になることがあります。
ただ、そうした確認が必要なケースと、活動を少しずつ戻してよいケースは分けて考えます。
痛みを否定しない。
でも、腰を壊れもののように扱いすぎない。
このバランスを大切にしています。
腰痛では、痛みの状態、生活への影響、不安の強さ、仕事や運動の負荷を合わせて見ます。その上で、できることを少しずつ増やす説明を心がけています。
こんな方は一度ご相談ください
- 腰痛が怖くて、動くことを避けるようになっている
- 仕事や運動に戻っていいのか分からない
- 画像の異常を指摘され、不安が強くなっている
- 安静にしているのに、腰痛がなかなか改善しない
- 腰痛について、今の状態に合った説明を受けたい
説明は、患者さんの行動を作る
腰痛の患者さんに、どんな言葉を渡すか。
これは小さなことに見えて、かなり大きいです。
「動くと悪くなる」と伝われば、患者さんは動かなくなります。
「仕事に戻るのは危ない」と伝われば、復帰は遠くなります。
逆に、必要な注意点を伝えた上で、「できる範囲から戻していい」と整理できれば、患者さんは少し安心して動き始められます。
医療者の信念は、患者さんの信念に影響します。
だからこそ、説明する側が、自分の腰痛観をときどき点検する必要があります。

瀬谷崎
参考
- Darlow B, et al. The association between health care professional attitudes and beliefs and the attitudes and beliefs, clinical management, and outcomes of patients with low back pain: a systematic review.
PubMed - Physiotherapists’ beliefs and attitudes influence clinical practice in chronic low back pain: a systematic review of quantitative and qualitative studies.
ScienceDirect - Wertli MM, et al. Fear-avoidance beliefs-a moderator of treatment efficacy in patients with low back pain: a systematic review.
PubMed - Systematic Review to Inform a WHO Clinical Practice Guideline: Benefits and Harms of Structured and Standardized Education or Advice for Chronic Primary low back pain in Adults.
PubMed













