腰痛を横隔膜から見る。ただし「呼吸を整えれば解決」ではない
瀬谷崎コラム
腰痛を、腰だけで完結させない
横隔膜は呼吸の筋肉です。ただ、それだけで終わらせると腰痛の見方が狭くなることがあります。呼吸、腹腔内圧、大腰筋、腰方形筋までつながって見たいところです。
横隔膜を見れば腰痛が治る、という話ではありません。ただし、腰痛を考える時に横隔膜や呼吸機能を完全に無視するのも、少しもったいないです。
腰痛を見る時、多くの人は腰椎、骨盤、大腰筋、多裂筋、腹横筋、股関節あたりを考えます。
もちろん、それらは大切です。
ただ、そこに横隔膜という視点を足すと、腰痛の見え方が少し変わることがあります。
横隔膜は、呼吸のためだけに働く筋肉ではありません。
体幹の安定性、腹腔内圧、胸郭と腰椎の関係、そして大腰筋や腰方形筋との連結まで含めて見ると、腰痛と横隔膜の関係は無視しにくくなります。

まなぶ先生

瀬谷崎
横隔膜は、呼吸だけの筋肉ではない
横隔膜は、息を吸う時に重要な主呼吸筋です。
ただし、横隔膜には呼吸機能だけでなく、姿勢制御や体幹安定化に関わる側面もあります。
たとえば、四肢を動かす時や体幹に負荷が加わる時、横隔膜や腹横筋などが協調して働き、腹腔内圧を調整します。
腹腔内圧は、腰椎を内側から支えるような役割を持つため、腰痛を考えるうえで無視できません。
呼吸が浅いから腰痛、横隔膜が硬いから腰痛、と単純化する必要はありません。ただ、呼吸と体幹の安定性が切り離せないことは押さえておきたいところです。
腰痛患者さんで、動作中に息を止めてしまう人がいます。
腹部に力を入れようとして、過剰に固める人もいます。
逆に、体幹を安定させたい場面で、腹部や胸郭の反応が乏しい人もいます。
こうした反応は、単に「筋力が弱い」だけでは説明しにくいことがあります。
弓状靭帯を介して、大腰筋や腰方形筋とつながる
横隔膜の腰椎部の筋線維は、腰椎や弓状靭帯に付着します。
そして弓状靭帯は、大腰筋や腰方形筋と関係します。
つまり、横隔膜の状態が大腰筋や腰方形筋に影響する可能性もありますし、大腰筋や腰方形筋の状態が横隔膜や呼吸機能に影響する可能性も考えられます。
ここは、かなり面白いところです。
横隔膜の腰椎部や弓状靭帯周辺の機能不全が、大腰筋・腰方形筋・腰椎周辺の反応に影響する可能性があります。
大腰筋や腰方形筋の過緊張、腰椎周辺の防御的な反応が、呼吸の浅さや胸郭の動きに影響する可能性があります。
もちろん、構造的につながっているからといって、必ず症状の原因になるわけではありません。
「つながっている」は便利な言葉ですが、雑に使うと何でも説明できてしまいます。
大事なのは、実際に呼吸、姿勢、動作、腹部の反応、腰痛の出方がどう関係しているかを、目の前の患者さんで確認することです。
腰痛患者では、横隔膜の動きが違う可能性がある
慢性腰痛患者と健常者を比較した研究では、横隔膜の位置や動き、厚み、負荷時の働き方に違いがみられることがあります。
たとえば、慢性腰痛患者では、四肢に負荷を与えた時の横隔膜運動が小さい、横隔膜の位置が高い、腹腔内圧の調整がうまくいきにくい可能性などが報告されています。
近年の超音波を用いた研究でも、腰椎不安定性を伴う慢性腰痛患者で横隔膜の動きや厚みに違いがみられる可能性が示されています。
ただし、ここで注意したいのは、横隔膜の違いが腰痛の原因なのか、腰痛の結果なのかは簡単に決められないということです。
横隔膜の動きが違うから腰痛の原因だ、と決めるのは早いです。横隔膜機能の変化は、腰痛の原因かもしれないし、腰痛によって生じた防御反応や運動制御の変化かもしれません。
研究はヒントになります。
でも、研究で差があるから、全員に横隔膜アプローチをすればいいという話にはなりません。
横隔膜を見る価値はありますが、腰痛を横隔膜だけに閉じ込める必要もありません。
現場で見るなら、呼吸だけで終わらせない
横隔膜を臨床で見る時に、呼吸だけを観察して終わるのは少しもったいないです。
腰痛との関係を考えるなら、呼吸と動作、呼吸と姿勢、呼吸と腹部の反応をつなげて見たいところです。
- 安静時に呼吸が浅く、速くなっていないか
- 吸気時に胸郭や腹部が自然に広がるか
- 動作時に息を止めて固めすぎていないか
- 四肢を動かした時に体幹が過剰に揺れないか
- 腹部の反応と腰痛の増減が関係していないか
- 大腰筋、腰方形筋、胸郭、骨盤の動きと呼吸が噛み合っているか
呼吸が乱れているから呼吸練習をする。
それ自体は悪くありません。
ただ、腰痛で困っている患者さんに必要なのは、きれいな深呼吸だけではないことが多いです。
歩く、しゃがむ、持ち上げる、寝返る、立ち上がる。
そうした動作の中で、呼吸と体幹の安定性がどう使われているかを見る必要があります。
呼吸アプローチは、万能薬ではなく補助線
横隔膜や呼吸に介入すると、痛みや動きが変わることがあります。
しかし、それを「横隔膜が原因だった」と短絡しない方がいいです。
呼吸を整えることで、筋緊張、注意の向き方、不安、腹腔内圧、姿勢、運動への入りやすさが変わることがあります。
その結果として腰痛が変わることは十分あり得ます。
息を止めて動く、過剰に力む、腹部の反応が乏しい、胸郭の動きが硬い、動作前に不安や警戒が強い場合。
呼吸だけを延々と練習して、肝心の日常動作や運動に戻せていない場合。これでは患者さんの生活は変わりにくいです。
呼吸アプローチは、腰痛治療の中心になることもあれば、単なる入口になることもあります。
目的は、呼吸を上手にすることではありません。
患者さんが、痛みへの警戒を下げ、必要な動作に戻れるようにすることです。
横隔膜を見ても、腰痛を魔法にしない
横隔膜は、腰痛を考えるうえで面白い視点です。
呼吸、腹腔内圧、体幹安定性、大腰筋、腰方形筋、胸郭、骨盤。
これらをつなげて見ると、腰痛を「腰だけの問題」として扱わなくて済みます。
ただし、横隔膜を万能化してはいけません。
横隔膜が悪いから腰痛、呼吸を整えれば腰痛が治る。
そういう単純な話にすると、結局また別の決めつけになります。
腰痛は、構造、運動制御、呼吸、心理、生活背景が重なります。
横隔膜は、その全体像を広げるためのひとつの視点として使いたいところです。

瀬谷崎
参考資料
- Hodges PW, Gandevia SC. Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm
- Kolar P, et al. Postural Function of the Diaphragm in Persons With and Without Chronic Low Back Pain
- Wungrath J, et al. Diaphragm excursion and thickness in patients with chronic low back pain with and without lumbar instability
- Peterson C, et al. Diaphragm Fatigue Does Not Impact Breathing Mechanics or Function in People with Chronic Low Back Pain












