股関節だけ触っても届かない痛み。骨盤後傾とスウェイバックが作る前方の負担
セラピスト向け
股関節の前側が痛い時、骨盤は何をしているか
股関節痛を、股関節だけで見ようとすると見落とすものがあります。骨盤と腰椎の位置が変わると、大腿骨頭の向き、前方支持組織、関節への負荷も変わります。
股関節痛の患者さんを見る時、痛い場所に目が行くのは自然です。
鼠径部が痛い。股関節前方が詰まる。歩くと股関節の奥が痛い。立っていると前側が重い。
こういう訴えがあると、腸腰筋、TFL(大腿筋膜張筋)、大腿直筋、関節唇、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)、変形性股関節症などを考えます。
もちろん、それは大事です。
ただ、股関節だけを見ていると、骨盤と腰椎の影響を見落とします。
骨盤後傾やスウェイバック姿勢があると、股関節前方の支持組織に負担が集まり、股関節痛の背景になることがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
股関節は、腰椎と骨盤の上に乗っている
股関節は、単独で宙に浮いているわけではありません。
寛骨臼は骨盤の一部です。骨盤の傾きが変われば、寛骨臼の向きも変わります。
さらに、骨盤は腰椎とつながっています。腰椎後弯、腰椎前弯、骨盤後傾、骨盤前傾が変われば、股関節の荷重の受け方も変わります。
股関節痛では、いわゆるhip-spineの関係を見ないと、股関節そのものだけを過剰に責めてしまうことがあります。
股関節痛では、痛い場所だけでなく、立位での腰椎、骨盤、大腿骨の位置関係を確認します。患部の圧痛より前に、荷重の向きが崩れていることがあります。
例えば、骨盤が後傾して腰椎が後弯している人では、股関節前方の被覆や大腿骨頭の位置関係が変わります。
その結果、股関節前方の支持組織や腸腰筋周辺に負担が集まることがあります。
骨盤後傾で、股関節前方の余裕が減る
骨盤後傾があると、寛骨臼の向きや股関節前方の被覆が変わります。
立位で大腿骨頭の前方被覆量が減ると、股関節前方の安定性を保つために、前方支持組織へ負担がかかりやすくなります。
腸腰筋や前方関節包、関節唇周辺は、その影響を受ける可能性があります。
この状態で股関節だけを揉んだり、腸腰筋だけを伸ばしたりしても、立ち方が変わらなければ負担は戻りやすいです。
寛骨臼の向きが変わり、股関節前方の支持に影響する可能性があります。
骨盤後傾とセットで起こることがあり、股関節と腰椎の負担配分を変えます。
腸腰筋、前方関節包、関節唇周辺などに負担が集まりやすくなります。
荷重の向きが変わると、股関節内の圧や応力のかかり方も変わります。
ここで大事なのは、骨盤後傾そのものを悪者にしないことです。
問題は、その姿勢が長時間続き、股関節前方の支持組織に負担が偏っているかどうかです。
スウェイバックは、股関節を前に押し出す
スウェイバック姿勢では、骨盤が前方へ移動し、上半身が後方に残るような立ち方になります。
見た目としては、股関節が伸展位で固定され、身体を前方の股関節周辺に預けているような状態です。
この姿勢が続くと、股関節前方関節包や腸腰筋を含む前方支持組織が伸ばされ続ける可能性があります。
前方支持が落ちると、大腿骨頭の前方安定性が低下し、股関節前方痛につながることがあります。
股関節を患部として触る前に、「その人が股関節に体重を預けて立っていないか」を見たいです。そこを見ないと、前側をいくら触っても戻ります。
スウェイバックだから必ず痛い、という話ではありません。
ただ、股関節前方痛があり、立位姿勢で股関節前方に負担を預けているなら、局所介入だけでは足りないことがあります。
腸腰筋を伸ばせばいい、では済まない
股関節前方が痛い時、腸腰筋が硬いからストレッチ、という発想になりやすいです。
しかし、骨盤後傾やスウェイバックでは、腸腰筋が単純に短縮しているとは限りません。
むしろ、前方支持組織が伸ばされ続けている場合もあります。
そこに対してさらに強い伸張を加えると、必要な支持まで落としてしまう可能性があります。
- 立位で骨盤が前方へ流れていないか
- 股関節伸展位で体重を預けていないか
- 腰椎後弯と骨盤後傾がセットになっていないか
- 腸腰筋が短縮しているのか、支持として働かされているのか
- 殿筋群が使えず、前方組織に頼っていないか
- 股関節前方痛が姿勢修正で変化するか
股関節前方痛で腸腰筋を触ること自体が悪いわけではありません。
ただ、腸腰筋を短い筋としてだけ扱うと、評価がズレることがあります。
立位で痛いなら、立位で見る
股関節痛は、ベッド上の評価だけでは足りないことがあります。
立っている時に痛い。歩く時に痛い。長時間立っていると前側が重くなる。
そういう人は、立位で股関節にどんな負担がかかっているかを見る必要があります。
仰向けで腸腰筋を触って痛みが変わっても、立った瞬間に同じ姿勢へ戻れば、症状も戻る可能性があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
股関節痛の評価では、ROM、圧痛、筋力、疼痛誘発テストも大切です。
でも、それと同じくらい、立位と歩行での骨盤・腰椎・股関節の関係を見たいところです。
介入は、患部と姿勢を往復する
骨盤後傾やスウェイバックが関係していそうな股関節痛では、患部への介入と姿勢・動作への介入を往復します。
股関節周囲の筋緊張や可動域を調整する。
そのうえで、立ち方、歩き方、骨盤の位置、殿筋群の使い方を確認する。
局所が変わっても、立位で前方支持組織へ負担が戻るなら、臨床的にはまだ不十分です。
- 股関節前方痛が局所介入で変化するか
- 骨盤位置を変えると痛みが変化するか
- 殿筋群の活動で股関節前方の負担が減るか
- 立位姿勢の修正で症状が戻りにくくなるか
- 歩行時の股関節伸展や骨盤移動で痛みが出るか
「股関節が痛いから股関節を触る」は入口です。
そこから、なぜそこに負担が集まっているのかまで見にいく必要があります。
股関節痛は、患部から一歩引いて見る
股関節痛では、患部を丁寧に見ることが大切です。
ただ、患部だけを見ていると、立ち方や骨盤の影響を見落とします。
骨盤後傾、腰椎後弯、スウェイバック姿勢があると、股関節前方の支持組織や関節内の負担が変わります。
その結果、腸腰筋や前方関節包、関節唇周辺に負担が集まることがあります。
股関節を触る前に、立っている姿勢を見る。
股関節を動かす前に、骨盤がどこにあるかを見る。
そこまで見て初めて、股関節痛の評価は少し立体的になります。

瀬谷崎
参考資料
- Revealing the Effect of Spinopelvic Alignment on Hip Disorders
- Effect of Posture on Hip Angles and Moments during Gait
- Anterior Hip Joint Force Increases with Hip Extension, Decreased Gluteal Force, or Decreased Iliopsoas Force
- Gait- and postural-alignment-related prognostic factors for hip and knee osteoarthritis
- Sagittal and Spinopelvic Alignment in Patients with Hip Osteoarthritis













