「異常なし」を軽く見るな。整骨院が病院を批判することの危うさ
セラピスト向け
病院批判より先に、もらった情報を読む
腰痛や身体の痛みで病院に行き、レントゲンや診察で「異常なし」と言われることがあります。そこで整骨院側が病院批判を始めるのは、かなり雑です。異常がないと確認されたこと自体が、臨床では重要な情報だからです。
患者さんから、こんな話を聞くことがあります。
「病院に行ってレントゲンを撮ってもらったんですけど、異常なしって言われて」
「病院では何もしてくれませんでした」
「湿布だけ出されました」
この時に、セラピスト側がつい言ってしまう言葉があります。
「整形外科はそれしか言ってくれないですよね」
「病院では原因までは見てくれないですからね」
「だからうちに来る人が多いんですよ」
こういう病院批判で患者さんの気持ちを取りにいくのは、かなり危ういです。
なぜなら、「異常なし」は何もしていないわけではないからです。
骨折や明らかな病変が見つからなかった。
重篤な疾患の可能性が下がった。
少なくとも、その時点で医師が診たうえで緊急性が高い所見は乏しいと判断された。
これは、整骨院で施術方針を考えるうえでも、かなりありがたい情報です。

まなぶ先生

瀬谷崎
「異常なし」は、何もしてくれなかったではない
整骨院の現場では、病院で良くならなかった患者さんが来院することがあります。
だからといって、「病院はダメだ」と考えるのは短絡的です。
病院で良くならなかった患者さんが整骨院で改善することもあります。
同じように、整骨院で良くならなかった患者さんが病院で改善することもあります。
この程度の想像力は、最低限必要だと思います。
役割が違います。
できることも違います。
責任の範囲も違います。
医師の診察や画像検査によって、重大な病態の可能性が下がることがあります。
これは、整骨院にとっても大きな安心材料です。
「異常なし」は、患者さんの痛みが気のせいという意味ではありません。画像や診察で明らかな重大所見が見つからなかったという情報であり、次に何を見るかを考えるための材料です。
レッドフラッグは、疾患名を当てる競技ではない
レッドフラッグの鑑別というと、疾患名を当てることだと思われがちです。
でも、整骨院の立場で最も大事なのは、そこではありません。
僕らがやるべきことは、疾患名が明確になるまで評価し続けることではありません。
「なにかおかしい」と感じたら、適切に病院へ紹介することです。
あとは医師に任せる。
この線引きがかなり大事です。
自己満足的に余計な評価を重ねることで、患者さんを危険な目に合わせる可能性もあります。
整骨院で分かる範囲を超えているなら、抱え込まない。
ここは臨床家としての謙虚さが必要です。
疾患名を当てることではなく、整骨院で抱えてはいけない可能性に気づくこと。
「なにかおかしい」と感じた時点で、医療機関への相談や紹介を考える。
整骨院で確定させようとしすぎない。必要な部分は医師に任せる。
違和感を放置しないためのサイン
腰痛の多くは、重篤な疾患ではありません。
その一方で、ごく一部に悪性腫瘍、感染、骨折、馬尾症候群、内臓疾患などが隠れていることがあります。
だから、すべての患者さんを過剰に怖がらせる必要はありません。
ただし、以下のような所見が複数重なる場合は、違和感を持てるようにしておきたいです。
- 悪性腫瘍の既往がある
- 原因不明の体重減少がある
- 発熱や全身倦怠感などの全身症状がある
- 安静時痛や夜間痛が強い
- 時間経過とともに悪化している
- 動作や姿勢で痛みがあまり変化しない
- 広範囲の神経症状や進行性の筋力低下がある
- 外傷歴や骨粗鬆症、ステロイド使用など骨折リスクがある
レッドフラッグは単独で万能ではありません。ひとつ当てはまっただけで必ず重篤疾患というわけではなく、逆に何も当てはまらなければ絶対安全とも言い切れません。大事なのは、複数の情報と経過を合わせて違和感を拾うことです。
「なんか変だな」を臨床で捨てない
臨床では、明確なレッドフラッグに当てはまる前に、違和感が先に来ることがあります。
疼痛誘発動作がいつものパターンと違う。
施術前後の変化が不自然。
経過が想定と合わない。
患者さんの訴え方に引っかかる。
良くなっているようで、どこか説明がつかない。
こういう「なんか変だな」は、臨床ではかなり大切です。
以前、腰痛の患者さんを数回見ている中で、疼痛誘発動作や施術後の変化、経過に違和感があり、病院へ紹介したら圧迫骨折が見つかったことがありました。
あの時、違和感を放置して腰部の施術を継続していたらと思うと、かなり怖いです。
違和感は、経験則だけで片付けるものではありません。ただ、臨床で積み重ねた「いつもと違う」は大事な情報です。違和感があるなら、無理に整骨院内で完結させない方がいいです。
悪性腫瘍を見落とすリスクを知っておく
腰痛や手足の痛みの中に、悪性腫瘍が隠れていることがあります。
もちろん頻度としては多くありません。
だから、すべての痛みを悪性腫瘍のように扱う必要はありません。
ただし、見落とした時の影響は非常に大きいです。
悪性腫瘍の既往、原因不明の体重減少、安静時痛、夜間痛、発熱、進行性の疼痛などは、必ず確認しておきたいところです。
患者さんによっては、悪性腫瘍の既往を自分から言わないこともあります。
だから、問診で聞く必要があります。
整骨院勤務のセラピストが、医師の診断なく介入する場面では、このリスクを知ったうえで臨床に当たる必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
患者さんの背景まで巻き込む
痛みは、本人だけの問題として閉じないことがあります。
家族や配偶者の理解がないことで、不安や破局的思考が強まることもあります。
たとえば、慢性痛の患者さんで、家族が痛みを理解していない。
あるいは、必要な活動やセルフケアに協力が得られない。
こうした場合、患者さん本人だけに説明しても、生活の中でうまくいかないことがあります。
定期的にご家族にも一緒に説明を聞いてもらう。
痛み教育を共有してもらう。
病院受診や紹介が必要な時に、家族にも状況を理解してもらう。
これも臨床の一部です。
病院と整骨院は、敵同士ではない
病院で「異常なし」と言われた患者さんが、整骨院で改善することはあります。
だからといって、病院がダメなわけではありません。
整骨院で良くならなかった患者さんが、病院で重大な疾患を見つけてもらうこともあります。
だからといって、整骨院が全部ダメなわけでもありません。
役割が違うだけです。
整骨院の仕事は、すべてを自分たちで完結させることではありません。
整骨院で見てよい状態か。
医師に任せるべき状態か。
病院で得られた情報をどう活かすか。
この判断が大切です。
「病院では異常なしでした」と言われた時、病院批判で患者さんの気持ちを取るのではなく、その情報をありがたく受け取り、次に何を確認するかを考える。
その方が、患者さんにとっても、業界にとっても、ずっと健全だと思います。

瀬谷崎
とんとん整骨院では、痛みの原因を決めつけず、病院での検査結果や経過、レッドフラッグの有無を確認しながら、必要に応じて医療機関への相談も提案します。
参考資料
- Henschke N, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013.
- Henschke N, et al. Screening for malignancy in low back pain patients: a systematic review. Eur Spine J. 2007.
- StatPearls: Low Back Pain: Evaluation and Management. NCBI Bookshelf.
- NICE Quality statement 2: Referrals for imaging. Low back pain and sciatica in over 16s.













