腱反射・病的反射・表在反射。主訴を神経学的に分解する入口

痛みの訴えを、神経学的にほどいていく

痛い、しびれる、力が入りにくい。この主訴をそのまま受け取るだけでは、臨床の情報としてはまだ粗いです。反射、筋力、感覚、歩き方まで見ると、話が変わることがあります。

最初に

反射は診断名を当てるための道具ではありません。整骨院の現場では、「このまま見ていいのか」「医療機関へつなぐべきなのか」を判断するための、客観的な手がかりとして扱うべきです。

患者さんは、「痛い」「しびれる」「動かしにくい」と訴えます。

もちろん、その言葉を丁寧に聞くことは大切です。

ただ、そのまま「神経っぽいですね」「筋肉ですね」「姿勢ですね」と処理すると、かなり危ないことがあります。

主訴は、患者さんの自覚です。

臨床ではそこから一段進んで、外傷があるのか、運動障害があるのか、感覚障害があるのかを分けて見ます。

その中で反射は、主訴を客観化するための重要な材料になります。

まなぶ先生
まなぶ先生

反射って、膝を叩いて出るかどうかを見る検査ですよね。正直、どこまで臨床で使えばいいのか迷います。

瀬谷崎
瀬谷崎

反射だけで何かを決める必要はないです。ただ、反射を見ないと「なんか変だな」に気づけない場面はあります。特に亢進や病的反射は、整骨院で抱え込む所見ではありません。

主訴は、まだ整理前の情報です

患者さんの主訴は、臨床の入口です。

たとえば「しびれる」という言葉ひとつでも、感覚低下なのか、異常感覚なのか、痛みの表現なのか、不安の言語化なのかは分かりません。

「力が入らない」も同じです。

本当に筋力が落ちているのか、痛みで出力できないのか、恐怖感で動かせないのか、協調運動が崩れているのか。

ここを分けずに話を進めると、患者さんの言葉に引っ張られます。

  • 外傷の有無。
    転倒、尻もち、交通事故、スポーツ外傷など、発症のきっかけを確認します。
  • 運動障害の有無。
    筋力、関節可動域、トーヌス、腱反射、病的反射、表在反射、歩容、眼球運動などを確認します。
  • 感覚障害の有無。
    触覚、圧覚、温度感覚、痛覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚など、症状の性質を見ます。

この3つに分けるだけでも、「痛いから揉む」「しびれるから神経を伸ばす」という短絡から離れやすくなります。

反射は、この中でも運動障害を客観的に見るためのひとつの入口です。

腱反射・病的反射・表在反射は、同じものを見ていない

反射とひとことで言っても、見るべき意味は同じではありません。

深部腱反射は、筋紡錘、末梢神経、脊髄、運動神経、下行路の影響を受けます。

病的反射は、成人で出現した場合に中枢神経系の関与を疑う材料になります。

表在反射は、皮膚刺激に対する反応で、錐体路障害などで減弱・消失することがあります。

深部腱反射
弱い・強い・左右差を見る

膝蓋腱反射やアキレス腱反射など。低下だけでなく、亢進や左右差も重要です。

病的反射
出てはいけない反応を見る

バビンスキー反射など。成人で陽性なら錐体路障害を疑う材料になります。

表在反射
皮膚刺激への反応を見る

腹壁反射など。反応の低下や消失は、他の所見と合わせて解釈します。

注意

反射は、単独で疾患名を決めるものではありません。左右差、筋力、感覚、歩容、トーヌス、発症様式、経過と合わせて読みます。

錐体路・末梢神経・機能性を雑に混ぜない

反射を見る意味は、細かい診断名を当てることではありません。

まずは、大枠を雑に混ぜないことです。

たとえば、錐体路障害を疑う所見と、末梢神経障害を疑う所見では、臨床での扱いが変わります。

錐体路障害
反射は強く、病的反射が出ることがある

バビンスキー反射陽性、腱反射亢進、表在反射の減弱や消失などが手がかりになります。

末梢神経障害
反射は弱くなる方向に出やすい

深部腱反射、表在反射ともに減弱・消失することがあり、病的反射は通常みられません。

機能性障害
所見の整合性を見る

足底反射や病的反射、腱反射、腹壁反射などが、主訴や運動所見と矛盾しないかを確認します。

ここで大切なのは、「錐体路障害っぽいから自分で何とかしよう」ではありません。

むしろ逆です。

成人で病的反射が出る、反射が明らかに亢進している、筋緊張や歩行の異常を伴う。

こうした場合は、整骨院の中で完結させる話ではなくなります。

頭頚部痛では、反射だけ見ても足りない

頭頚部痛では、神経学的な局所徴候を見落とさないことが重要です。

首が痛い、頭が痛い、肩がこる。

そう聞くと、筋肉や姿勢に意識が向きがちです。

しかし、重篤な疾患の入口として頭頚部痛が出ることもあります。

  • 頭蓋内圧亢進を疑う症状がないか
  • 歩き方やふらつきに変化がないか
  • 呂律が回りにくい、言葉が出にくいなどがないか
  • 眼症状や眼球運動の異常がないか
  • 認知症様症状、急な性格変化、意識の違和感がないか
  • 感覚障害、運動麻痺、深部腱反射、病的反射の異常がないか

これらは慣れれば、型にして確認できます。

逆に言えば、型がないと「肩こりですね」「寝違いですね」で通り過ぎる可能性があります。

頭頚部痛で怖いのは、よくある症状の顔をして重篤な疾患が混ざることです。

バビンスキー陽性は、現場で迷わないために見ておく

バビンスキー反射は、2歳未満ではみられることがあります。

しかし成人で陽性所見が出る場合、錐体路障害を疑う重要な材料になります。

実際の陽性反応を見る機会は多くありません。

だからこそ、動画や教材で所見を確認しておく意味があります。

いざ現場で見たときに、「これ、見たことがある」と思えるかどうかは大きいです。

現場感

反射所見は、毎日派手に役立つものではありません。ただ、出会った時に見逃すと重い。だから、日常の臨床で使える程度には型にしておきたいところです。

病的反射がないから安全、とも言い切れない

ここも大切です。

病的反射がないから、脊髄や中枢の問題がないと断定できるわけではありません。

たとえば頚椎に軽度の脊柱管狭窄があり、転倒や尻もちをきっかけに脊髄へ影響が出るケースでは、両上下肢の神経症状や痛みが出ることがあります。

一方で、病的反射やクローヌスが明確に出ない場面もあります。

つまり、反射は重要ですが、反射だけで安心してはいけません。

まなぶ先生
まなぶ先生

反射が正常なら大丈夫、ではないんですね。

瀬谷崎
瀬谷崎

そうです。反射が異常なら強い手がかりになりますが、正常だから全部否定できるわけではありません。経過、外傷、歩行、筋力、感覚、違和感まで合わせて見ます。

整骨院での役割は、診断ではなく見逃さないこと

整骨院の現場で反射を見る目的は、診断名を確定することではありません。

医師の代わりをすることでもありません。

大切なのは、目の前の主訴を客観的に分解し、「このまま介入していいのか」「医療機関で確認してもらうべきか」を判断することです。

  • 痛みやしびれの訴えを、そのまま疾患名に変換しない
  • 外傷、運動障害、感覚障害に分けて確認する
  • 腱反射、病的反射、表在反射を同じ意味で扱わない
  • 反射の左右差、亢進、減弱、消失を他の所見と照らし合わせる
  • 歩行、呂律、眼症状、認知症様症状なども頭頚部痛では確認する
  • おかしいと思ったら、抱え込まず医療機関へつなぐ

反射は、派手な手技ではありません。

患者さんに「すごい」と言われるものでもないかもしれません。

でも、こういう地味な所見を見られるかどうかで、臨床の安全性はかなり変わります。

反射は、患者さんを守るための地味な武器です

反射検査は、単独で答えを出すものではありません。

しかし、腱反射、病的反射、表在反射を知っていると、患者さんの主訴を少し客観的に扱えるようになります。

痛みなのか、感覚障害なのか、運動障害なのか。

末梢神経なのか、中枢神経なのか。

このまま介入していいのか、医療機関へつなぐべきなのか。

そういう判断の精度を上げるために、反射は使います。

「なんとなく神経っぽい」で終わらせず、最低限の神経学的所見を確認する。

それは、整骨院で臨床をするうえでかなり大切な姿勢だと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

反射は「診断名を当てる道具」ではなく、「これは抱え込んでいいのか」を考える材料です。痛い、しびれる、動かしにくいという主訴を、ちゃんと客観化する癖は持っておきたいですね。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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