しびれが神経の走行に合わない時、何を疑うか

地図に合わない痛みほど、評価の順番がものを言う

神経痛らしい訴えがあっても、すぐに神経の問題と決める必要はありません。まずは神経の走行に合うのか、感覚・筋力・反射・絞扼部位が同じ方向を向いているのかを見ます。

デルマトームは大切ですが、それだけでは足りません。しびれや神経痛らしい症状は、ミオトーム、腱反射、チネル徴候、絞扼部位、レッドフラッグを合わせて評価する必要があります。

「神経痛っぽいですね」

「坐骨神経痛かもしれません」

「頚椎からきているかもしれません」

臨床では、こうした言葉がよく使われます。

もちろん、神経の関与が疑われる症状はあります。

ビリビリする。ジンジンする。感覚が鈍い。力が入りにくい。首や腰から腕・脚へ症状が広がる。

ただし、患者さんが「しびれ」と表現したからといって、すぐに神経障害性疼痛や神経根症と決めるのは危険です。

まず見るべきなのは、その症状が神経解剖学的にもっともらしい分布をしているかどうかです。

まなぶ先生
まなぶ先生

しびれがあるなら、まずデルマトームに当てはめればいいんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

デルマトームは入口として大事です。ただ、実際の感覚領域には個人差や重なりがあります。だから、ミオトームや反射まで見て整合性を確認したいですね。

神経症状を見る時の4つの材料

神経障害を疑う時、最初から複雑に考えすぎる必要はありません。

まずは、次の4つを順番に見ます。

1
感覚の地図
しびれや感覚低下がデルマトーム、または末梢神経領域に近いかを見る。
2
筋の地図
ミオトームを見て、特定の神経根に関わる筋力低下があるかを見る。
3
反射
腱反射の低下や亢進を、左右差と合わせて見る。
4
絞扼部位
疑わしい部位にチネル徴候や誘発テストを使い、末梢神経の関与を見る。

この4つが同じ方向を向いている時、神経の関与は疑いやすくなります。

反対に、症状の場所、筋力、反射、絞扼部位の反応がバラバラなら、「本当に神経の問題なのか」を一度立ち止まって考えます。

神経の走行に合わない症状は、「神経性疼痛ではない可能性」を考えるきっかけになります。ただし、デルマトームは教科書通りにきれいに出るとは限りません。

デルマトームは入口、決定打ではない

デルマトームは、皮膚感覚と神経根の関係を整理するための地図です。

たとえば、腕や脚のどこにしびれがあるのかを聞くことで、どの神経根が関係していそうかを考えます。

この地図がないと、神経症状の話はかなり曖昧になります。

一方で、デルマトームには限界があります。

実際の感覚領域には重なりがあり、個人差もあります。

上肢では特に、きれいな皮膚分節だけで判断しにくい場面があります。

使い方

デルマトームは「どの神経根を疑うか」を絞るための入口です。「この場所だから絶対にC6」「この足の甲だから絶対にL5」と断定するための道具ではありません。

神経障害性疼痛の評価でも、痛みや感覚障害が神経解剖学的にもっともらしい分布をしているかは重要です。

ただし、痛みの言葉だけで決めない。

「ジンジンする」「ビリビリする」という表現があっても、分布や感覚所見、筋力、反射が合わなければ別の機序も考えます。

上肢症状では、ミオトームが助けになる

ミオトームは、筋肉の働きと神経根の関係を整理する考え方です。

上肢のデルマトームは個人差が大きく、症状の場所だけでは迷うことがあります。

そのため、僧帽筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、前腕の屈筋・伸筋、骨間筋など、筋力評価を合わせることが大切になります。

神経根の目安 見たい動き・筋 臨床での読み方
C3・C4・副神経 僧帽筋 肩甲帯の挙上や安定性を見ます。首肩まわりの症状と合わせて確認します。
C5・C6 三角筋、上腕二頭筋 肩外転や肘屈曲の左右差を見ます。痛みによる抑制との区別が必要です。
C6・C7・C8 上腕三頭筋 肘伸展の低下があるかを見ます。C7周辺の評価で重要になります。
C7・C8・T1 深指屈筋、骨間筋 指の屈曲や開閉、細かい手の動きの低下を確認します。
L2・L3・L4 大腿四頭筋 膝伸展の力を見ます。膝痛や股関節痛による抑制に注意します。
L4・L5・S1 長・短母趾伸筋、前脛骨筋など 足首や母趾の動きから腰椎神経根の関与を疑う材料になります。
L5・S1・S2 腓腹筋、ヒラメ筋 つま先立ちや底屈力を見ます。アキレス腱反射とも合わせます。

ミオトームを見る時の注意点は、筋力低下の原因を一つに決めないことです。

痛みで力が入らないのか。

恐怖や緊張で出力が落ちているのか。

本当に神経根由来の筋力低下を疑うのか。

ここを分けずに「筋力が弱い=神経」とすると、評価は粗くなります。

神経障害を疑う時の評価手順

実際の臨床では、次のような順番で考えると整理しやすくなります。

  1. 症状の分布を聞くしびれ、痛み、感覚低下がどこにあるかを確認し、デルマトームや末梢神経領域と照らし合わせます。
  2. 筋力と反射を見る徒手筋力検査(MMT)で筋力低下を確認し、腱反射の低下や亢進がないかを見ます。亢進がある場合は中枢神経系も考えます。
  3. 絞扼部位を絞る肘部管、手根管、ギヨン管、梨状筋下孔など、疑われる部位にチネル徴候や誘発テストを使います。
  4. 複数箇所の障害を考える首と末梢、腰と末梢など、ダブルクラッシュ症候群のように複数箇所で神経が影響を受ける可能性も考えます。
  5. 赤旗と中枢のサインを外さない急な脱力、広範囲の神経症状、反射亢進、歩行障害、排尿・排便異常などは医療機関での確認が必要です。
まなぶ先生
まなぶ先生

神経の走行と合わない痛みは、神経の問題ではないと考えていいですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

可能性は下がります。ただ、すぐに否定もしません。デルマトームには個人差がありますし、中枢性感作や複数箇所の障害で分布が分かりにくくなることもあります。

デルマトームに沿わない痛みで考えたいこと

痛みやしびれが、単一の神経根や末梢神経の走行に合わないことがあります。

その場合、「よく分からないから神経痛」とまとめるのではなく、別の可能性を考えます。

  • 筋・関節・腱・靭帯など、局所組織由来の痛み
  • 痛みによる防御収縮や出力低下
  • 中枢性感作による広範な痛みや過敏性
  • 複数箇所で神経が影響を受けるダブルクラッシュ症候群
  • 脳・脊髄など中枢神経系の問題
  • 血管性、炎症性、内科的な問題

中枢性感作では、侵害刺激の程度に釣り合わない痛みや、デルマトームに沿わない広範な痛みが見られることがあります。

ただし、中枢性感作という言葉も雑に使ってはいけません。

神経の評価をせずに「これは中枢性感作ですね」と決めるのも、神経の走行だけで何でも決めるのと同じくらい危ういです。

バランス

神経解剖に合わないから神経ではない、と即断しない。神経解剖に合いそうだから神経で確定、とも即断しない。複数の材料で確率を上げ下げする姿勢が大切です。

反射の亢進や広範囲の症状は注意する

末梢性の神経障害では、腱反射の低下や感覚低下、筋力低下が評価材料になります。

一方で、反射の亢進、広範囲の神経症状、歩きにくさ、急な脱力などがある場合は、末梢だけで説明しない方がよいことがあります。

脳や脊髄など中枢神経系の問題が隠れている場合もあるからです。

受診を急ぐサイン

急な強い脱力、歩行障害、排尿・排便の異常、広範囲のしびれ、反射亢進、ろれつが回らない、顔や片側の手足の異常などがある場合は、整骨院だけで判断せず医療機関での確認が必要です。

神経症状の評価は、手技の当て合いではありません。

「どこを押せば反応するか」だけではなく、「その反応がどの神経学的ストーリーと合うか」を見る必要があります。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、しびれや神経痛らしい症状を、ひとつの言葉で片づけないことを大切にしています。

デルマトームを見ます。

ミオトームを見ます。

反射や感覚、絞扼部位、動作での変化を見ます。

それでも合わない時は、別の機序や医療機関での確認が必要なサインも考えます。

患者さんにとって大事なのは、「何神経か」を当てることだけではありません。

危ないものを見逃さず、今の症状をできるだけ納得できる形で説明し、必要な対応につなげることです。

臨床の姿勢

神経の評価は、暗記した表を当てはめる作業ではありません。症状の分布、筋力、反射、誘発所見、経過をつなげて、目の前の人に合う説明を探します。

こんなしびれは一度ご相談ください

  • 手足のしびれが続いている
  • 首や腰の痛みと一緒に腕・脚へ症状が広がる
  • しびれの範囲がよく分からず、不安が強い
  • 力が入りにくい感じがある
  • 神経の問題なのか、筋肉や関節の問題なのか説明してほしい
医療機関について

症状が急に悪化している、強い脱力がある、歩行が不安定、排尿・排便の異常がある、脳卒中を疑う症状がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

神経の地図は、答えではなく照合表

デルマトームも、ミオトームも、腱反射も大切です。

でも、それぞれは単独で答えを出すものではありません。

しびれの場所が神経の走行に近いのか。

筋力低下が同じ神経根のストーリーと合うのか。

反射やチネル徴候が補強しているのか。

それとも、神経だけでは説明しにくい広がり方なのか。

こうした照合を重ねることで、神経症状の見立ては少しずつ精度が上がります。

神経の表を覚えることより、表と目の前の症状のズレを読めること。

そこが臨床では大切だと思っています。

瀬谷崎
瀬谷崎

神経痛に見える症状ほど、地図だけで決めないことです。感覚、筋力、反射、絞扼部位がどれくらい同じ方向を向いているかを見ると、かなり整理しやすくなります。

参考

  • Finnerup NB, et al. Neuropathic pain: an updated grading system for research and clinical practice.
    PMC
  • International Association for the Study of Pain. Identifying Neuropathic Pain in the Clinic: A Guide for Clinicians.
    IASP
  • Anatomy, Skin, Dermatomes. StatPearls. NCBI Bookshelf.
    NCBI Bookshelf
  • Cervical Radiculopathy. StatPearls. NCBI Bookshelf.
    NCBI Bookshelf
  • Schmid AB, et al. Reliability of clinical tests to evaluate nerve function and mechanosensitivity of the upper limb peripheral nervous system.
    PMC
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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