首の痛みを、いきなり揉まない。主訴を客観化するための簡易スクリーニング
瀬谷崎コラム
首の痛みを、主訴だけで判断しない
「首が痛い」「腕がしびれる」という訴えを聞いた時、すぐに筋肉や関節へ飛びつくのは危険です。まず外傷の有無、運動障害、感覚障害を分けて、主訴を客観的な所見に変換する必要があります。
主訴は入口であって、診断名ではありません。頚部痛を安全に見るには、「何が痛いか」より先に「何を見落としてはいけないか」を整理することが大切です。
患者さんは、たいてい主訴で来院します。
首が痛い。肩が重い。腕がしびれる。動かすとつらい。
しかし、その言葉だけでは病態は分かりません。
同じ「首が痛い」でも、外傷後の痛み、頚椎由来の神経根症、脊髄障害、胸郭出口症候群、非特異的な頚部痛では、見るべきものが違います。
だからこそ、主訴をいきなり施術対象にするのではなく、まず客観的な指標に分解する必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
主訴は、客観的な所見に分解する
主訴を客観的に見る時、まず大きく3つに分けると整理しやすくなります。
ひとつ目は、外傷の有無。
ふたつ目は、運動障害の有無。
みっつ目は、感覚障害の有無です。
この3つを雑に飛ばすと、単なる筋緊張や寝違いのように見えていたものの中に、神経根症や脊髄障害、血管性の問題が混ざる可能性があります。
1. 外傷の有無
転倒、交通事故、スポーツ外傷など、力学的なきっかけがあるかを確認します。外傷後の頚部痛では、骨折や不安定性などを除外する視点が必要です。
2. 運動障害の有無
筋力低下、腱反射の変化、病的反射、表在反射、トーヌス、関節可動域、眼球運動などを確認します。
3. 感覚障害の有無
触覚、圧覚、温度感覚、痛覚だけでなく、視覚・聴覚・嗅覚・味覚の異常も、神経学的な評価の中では重要な情報になります。
もちろん、整骨院や整体院の現場で全てを精密に評価できるわけではありません。
ただ、「自分の守備範囲ではない可能性」を拾うための入口として、この分解はかなり重要です。
運動障害は、反射と筋力だけでは終わらない
運動障害と聞くと、筋力低下だけをイメージしがちです。
しかし臨床では、腱反射、病的反射、表在反射、筋緊張、関節可動域、協調運動などを合わせて見る必要があります。
頚椎由来の神経根症では、筋力低下や腱反射低下、デルマトームに沿った感覚異常などが手がかりになります。
一方、脊髄障害では、手の巧緻運動障害、歩行障害、下肢症状、病的反射など、神経根症とは違う所見が混ざることがあります。
頚部障害でも、下肢症状や歩行の変化が出ることがあります。首が痛い患者さんでも、必要に応じて下肢や歩行まで見る視点が必要です。
「首が痛いから首を見る」だけでは足りません。
上肢だけでなく、下肢の症状や全身の神経学的所見を確認することで、脊髄障害の可能性を見逃しにくくなります。
感覚障害は、しびれの場所だけで決めない
感覚障害では、患者さんの「しびれる」という言葉をそのまま診断名にしてはいけません。
触覚、痛覚、温度感覚などを確認し、どの領域に、どの種類の感覚変化があるのかを整理します。
頚椎神経根症なのか、末梢神経障害なのか、胸郭出口症候群のような神経血管束の問題なのか。
ここを分けないと、「腕がしびれる=頚椎」と短絡しやすくなります。
危ない見方
しびれの場所だけを見て、すぐに頚椎椎間板ヘルニアや胸郭出口症候群と決める。
見たい見方
感覚の種類、運動障害、反射、血行性症状、姿勢や肢位による変化を合わせて考える。
感覚障害は、単体では解釈がぶれやすい所見です。
だからこそ、運動障害や反射、血行性症状と合わせて見ます。
非外傷性頚部障害の簡易スクリーニング
非外傷性の頚部障害では、まず運動制限の有無で大きく分けると整理しやすくなります。
運動制限がある場合は、さらに神経症状の有無を見ます。
運動制限がない場合でも、神経障害や血行性症状があれば、胸郭出口症候群などの可能性を考えます。
- 運動制限があるかを見る。
頚部の可動域制限がある場合、頚椎由来の病態や非特異的頚部痛を含めて考えます。 - 運動神経障害があるかを見る。
筋力低下や腱反射の変化があれば、頚椎椎間板ヘルニアなどによる神経根症を疑います。 - 感覚神経障害があるかを見る。
感覚障害が目立つ場合、変形性頚椎症などの退行変性による神経症状も候補になります。 - 脊髄障害と下肢症状を確認する。
手の使いにくさ、歩行障害、下肢症状、病的反射などがあれば、OPLLや黄色靱帯骨化症なども含めて医療機関での評価が必要です。 - 神経症状がなければ、非特異的な頚部痛も考える。
いわゆる寝違いのような状態でも、経過や症状の変化は追う必要があります。 - 運動制限がなくても、神経障害や血行性症状があればTOSを考える。
胸郭出口症候群は診断が難しく、神経性では筋萎縮を伴うこともあるため注意が必要です。
このスクリーニングは診断を確定するものではありません。危険な病態を見逃さないために、主訴を整理し、必要な対診につなげるための入口です。
TOSは、首が動くから安心ではない
胸郭出口症候群は、頚部の運動制限が目立たないこともあります。
そのため、頚部可動域だけを見て「首は問題ない」と判断すると見落とす可能性があります。
神経性TOSでは、しびれ、脱力感、だるさ、筋萎縮などが問題になることがあります。
血管性TOSでは、色調変化、冷感、腫脹、拍動の変化などを伴うことがあります。
いずれも、頚部痛だけでなく、上肢症状や肢位による変化を含めて観察する必要があります。
首が動くかどうかだけで、頚部由来かどうかを判断しない。神経症状と血行性症状を分けて見ることが大切です。
特に神経性TOSでは、筋萎縮が出るケースもあります。
「なんとなく腕がだるい」「手が使いにくい」という訴えの奥に、神経障害が隠れていないかを確認したいところです。
揉む前に、分ける
頚部痛の患者さんを前にすると、つい痛い場所を触りたくなります。
しかし、主訴はまだ入口です。
外傷はあるのか。
運動障害はあるのか。
感覚障害はあるのか。
脊髄障害や血行性症状は疑わしいのか。
自分の守備範囲で見てよい状態なのか。
そこを整理してから、施術に入るべきです。
主訴をそのまま施術対象にするのではなく、客観的な所見へ分解する。
これだけで、頚部障害の見方はかなり安全になります。

瀬谷崎
参考:頚椎神経根症、胸郭出口症候群、神経性TOS、頚部痛の鑑別に関するレビュー・解説を参照し、簡易スクリーニングとして整理しています。
NCBI Bookshelf: Cervical Radiculopathy
Neurogenic Thoracic Outlet Syndrome: Presentation, Diagnosis, and Treatment
Diagnosing Thoracic Outlet Syndrome: Current Approaches and Future Directions












