慢性疼痛では、あえて痛みに注目する時期もある。痛みの波に気づくための会話

痛みを見ないために、少しだけ痛みを見る

慢性疼痛では、痛みに意識を向けすぎないことが大切です。ただし初期には、あえて痛みの変化を観察することで、「痛い=壊れている」とは限らないという気づきが生まれることがあります。

痛みを記録する目的は、痛みに縛られることではありません。「ずっと痛い」と感じている状態から、痛みには波があること、睡眠や活動と関係することに気づくための補助として使います。

慢性疼痛では、基本的に「痛みにフォーカスしすぎない」ことが大切です。

痛みばかりを確認し続けると、生活の中心が痛みになってしまうことがあります。

そのため、痛みをゼロにすることだけを目標にせず、活動量、睡眠、仕事、趣味、人との関わりなど、生活全体を見ていく必要があります。

ただし、いつも痛みに注目しない方がいい、というわけでもありません。

特に初期には、あえて一日や一週間の中で痛みを観察してもらうことで、患者さん自身が「自分の痛みには波がある」と気づけることがあります。

まなぶ先生
まなぶ先生

慢性疼痛では、痛みにフォーカスしない方がいいんですよね?

瀬谷崎
瀬谷崎

基本はそうです。ただ初期には、あえて少し観察することで「痛みはずっと同じではない」「壊れているとは限らない」と気づけることがあります。

慢性疼痛では「痛みだけ」を見すぎない

慢性疼痛の支援では、痛みの強さだけを毎回追いかけすぎると、かえって不安や警戒心が強くなることがあります。

「今日は何点ですか」「まだ痛いですか」「どこが痛いですか」と確認し続けるほど、患者さんの注意が痛みに固定されることもあります。

だから、慢性疼痛では痛みだけでなく、生活の中でできていること、動けた時間、眠れた日、気分が少し楽だった場面にも目を向けます。

痛みだけを見る

痛みの強さが生活の中心になりやすい。

生活も一緒に見る

睡眠、活動、気分、仕事との関係を整理しやすい。

変化を見つける

「常に同じ」ではなく、波や条件に気づきやすい。

ただ、患者さんが「常に痛い」「変わらない」と感じている段階では、いきなり痛みから注意を外すことが難しい場合もあります。

その時は、痛みにフォーカスしないための準備として、短期間だけ痛みを観察するという使い方があります。

「痛みには色々な要因がある」だけで終わらせない

痛みの説明で、「痛みには身体だけでなく、心理的・社会的な要因も関係します」と伝えることがあります。

これは大切な説明です。

ただ、それだけで終わると、患者さんにとっては少し抽象的です。

本当に大切なのは、そこから一歩進んで、痛みがあるからといって、必ずしも組織が壊れているとは限らないと気づけることです。

患者さん
患者さん

痛いということは、やっぱりどこか傷んでいるんですよね?動いたら悪くなりそうで怖いです。

セラピスト
セラピスト

そう感じるのは自然です。ただ、痛みは組織の損傷だけで決まるものではありません。痛みが強い日でも、身体がさらに壊れているとは限らないんです。

気づきの前

痛いから壊れている。動くと悪化する。だからできるだけ動かない方がいい。

気づきの後

痛みには波がある。睡眠や活動とも関係する。少し動いても悪化しない場面がある。

この気づきがあると、痛みの意味が少し変わります。

「痛みがあるから危険」ではなく、「痛みはあるけれど、身体の状態を見ながら少し動けるかもしれない」と考えやすくなります。

その結果、運動への恐怖が少し下がり、活動量を増やすきっかけになります。

慢性疼痛の支援では、この流れがとても大切です。

ここが本質

痛みには色々な要因がある。だから、侵害受容や構造異常だけが痛みの原因とは限らない。組織損傷と痛みは同じではない。この理解が、運動恐怖を減らし、活動量を取り戻す入り口になります。

あえて痛みを見ると役立つケース

痛みの記録が役立つのは、「痛みを細かく管理するため」ではありません。

患者さんが自分の痛みについて、新しい事実に気づくためです。

例えば、朝は痛みが強いけれど、しばらく動くと楽になる。

寝不足の日は痛みが強い。

忙しくて休憩が取れなかった日は、夕方に強くなる。

逆に、よく眠れた翌日は少し楽になる。

こうした情報は、患者さんにとっても、治療者にとっても重要です。

観察の目的

「痛みをずっと気にしてもらう」のではなく、「痛みが変わる条件を一緒に探す」ために使います。期間も内容も、必要最小限にするのがポイントです。

会話で見る、痛みの波の見つけ方

実際の臨床では、記録用紙を渡すだけではうまくいきません。

患者さんが「何を見ればいいのか」「なぜ記録するのか」を理解していることが大切です。

ここでは、患者さんとのやり取りとして整理してみます。

患者さん
患者さん

ずっと痛いので、もう何をしても変わらない気がします。

セラピスト
セラピスト

ずっと同じように痛い感じがするんですね。少しだけ、痛みの波を一緒に見てみてもいいですか?

初回

セラピスト
セラピスト

一日の中や一週間の中で、痛みが強い時間帯や弱い時間帯はありますか?

患者さん
患者さん

あまり分かりません。いつも痛い気がします。

セラピスト
セラピスト

では数日だけ、痛みをよく観察してみましょう。強さだけでなく、睡眠、仕事量、休憩、動いた時間も簡単にメモしてみてください。

数日後

患者さん
患者さん

記録してみると、朝は強いけど、しばらく動くと少し弱くなることに気づきました。

セラピスト
セラピスト

大切な気づきですね。他に、痛みが強い日と楽な日の違いはありましたか?

患者さん
患者さん

二日前と四日前は痛みが強かったです。どちらも前夜に仕事が遅くて、睡眠が4時間くらいでした。

セラピスト
セラピスト

そうすると、睡眠時間が痛みに関係している可能性がありますね。逆に、しっかり眠れた日はありましたか?

患者さん
患者さん

昨日は早く帰れたので7時間眠れました。今日は二日前や四日前より楽です。

この会話で大切なのは、患者さんに「痛みは全部あなたの生活習慣のせいです」と言うことではありません。

痛みには波があり、睡眠や活動、休憩、ストレスなどと関係しているかもしれないと、一緒に見つけていくことです。

記録するなら、痛みだけにしない

痛みの点数だけを記録すると、どうしても点数に一喜一憂しやすくなります。

記録するなら、痛みの強さと一緒に、生活の情報も簡単に入れた方が役に立ちます。

痛み
朝は強い
昼は少し楽
夕方にまた強い
睡眠
寝た時間
起きた時の感じ
途中で起きた回数
活動
仕事量
歩いた時間
休憩できたか

このように見ると、痛みの記録は「痛みを監視する作業」ではなくなります。

自分の身体がどう反応しているのかを知るための観察になります。

記録が負担になるなら、やめていい

痛みの記録は、全員に必要なものではありません。

記録することで不安が強くなる人もいます。

毎回の点数に落ち込んだり、痛みの変化を探しすぎて生活が狭くなるなら、その記録は逆効果です。

注意したいサイン

記録がつらい、痛みを考える時間が増えた、点数が悪いと一日が台無しになる、記録しないと不安になる。このような場合は、記録の方法や期間を見直した方がいいです。

大切なのは、目的をはっきりさせることです。

いつまでも記録を続けるためではなく、痛みの波や関係しそうな要因に気づくために、短期間だけ使う。

気づきが得られたら、次は行動に戻していきます。

気づいたら、行動に戻す

痛みと睡眠の関係が見えてきたら、睡眠時間を少し確保する。

同じ姿勢が長く続いた日に痛みが強いなら、休憩の入れ方を調整する。

動き始めると少し楽になるなら、朝の短い運動を試す。

こうして記録から得た情報を、生活の調整に戻していきます。

  • 痛みが強い時間帯を知る
  • 睡眠や活動との関係を探す
  • 楽な日・悪い日の違いを見つける
  • できそうな行動を一つだけ決める
  • 記録が負担なら期間を短くする

痛みにフォーカスする目的は、痛みに支配されることではありません。痛みの波を知り、少しずつ生活を取り戻すためです。

痛みを見るのは、痛みに支配されないため

慢性疼痛では、痛みに意識を向けすぎないことが基本です。

ただし、初期にはあえて痛みを観察することで、「常に痛いわけではない」「楽な時間帯もある」「睡眠や活動と関係しているかもしれない」と気づけることがあります。

この気づきは、患者さんにとって大きな意味を持ちます。

自分の痛みをただ怖がるのではなく、少し観察できるようになる。

観察した情報をもとに、睡眠や活動を調整してみる。

その結果、痛みとの付き合い方が少し変わる。

そして、「痛みがあるから何もできない」ではなく、「痛みがあっても、少しずつ自分で動きを選べる」と感じられるようになる。

この感覚が、運動恐怖を減らし、活動量を取り戻し、痛みに立ち向かうための土台になります。

この流れを作るために、短期間の痛みの記録が役に立つことがあります。

瀬谷崎
瀬谷崎

痛みを見る時間は、長くなくて大丈夫です。大事なのは、痛みの波や生活との関係に気づいて、「壊れているから動けない」という思い込みを少しずつほどいていくことです。

慢性的な痛みは、痛みの場所だけでなく、睡眠、活動、仕事、気分との関係まで整理して考えることが大切です。長引く痛みでお困りの方は、お気軽にご相談ください。

ご予約・お問い合わせ

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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