慢性疼痛は「3ヶ月以上の痛み」だけで定義していいのか

3ヶ月という線引きを、絶対視しない

慢性疼痛は「3ヶ月以上続く痛み」と説明されることが多いですが、それだけで臨床判断を終えるのは危険です。期間は便利な目安であって、痛みの病態そのものではありません。

定義は臨床を助ける道具です。しかし、定義を真理のように扱うと、目の前の患者さんの病態や機序を見落とすことがあります。

慢性疼痛は、一般的に「3ヶ月以上続く痛み」と説明されます。

実際、ICD-11周辺の慢性疼痛分類でも、慢性疼痛は「3ヶ月を超えて持続または再発する痛み」として運用されています。

これは非常に分かりやすい基準です。

急性痛か慢性痛かを大まかに分ける時、期間は便利です。

ただ、その便利さに引っ張られすぎると、臨床では少し危うくなります。

まなぶ先生
まなぶ先生

3ヶ月以上続いていたら慢性疼痛、3ヶ月未満なら急性痛。そう覚えておけばいいんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

目安としては使えます。ただ、それだけで判断すると病態を見誤ることがあります。期間だけでなく、何が起きている痛みなのかを見たいですね。

慢性疼痛の定義は、主に期間を見ている

慢性疼痛の定義では、痛みが期待される治癒期間を超えて続くこと、あるいは3ヶ月以上続くことが強調されます。

この定義の良いところは、臨床、研究、保険制度、疫学調査などで共通の言葉として使いやすいことです。

「どこから慢性と呼ぶのか」を決めないと、研究も分類も進めにくくなります。

便利なところ

3ヶ月という基準は、慢性疼痛を一定のルールで扱うためには便利です。研究や分類では、こうした操作的な定義が必要になります。

ただし、便利であることと、臨床的に常に十分であることは別です。

3ヶ月という線を越えた瞬間に、痛みの性質が急に変わるわけではありません。

逆に、3ヶ月未満だからといって、単純な急性痛として扱ってよいとも限りません。

期間だけで分けることの難しさ

痛みの経過は、人によってかなり違います。

同じ手術後の痛みでも、2〜3週間で落ち着く人もいれば、数ヶ月残る人もいます。

同じ腰痛でも、初発の一過性の痛みもあれば、長く続いている痛みの一部として起きた増悪もあります。

この違いを、単純に日数だけで整理するのは難しいです。

期間だけで見た判断

3ヶ月未満だから急性。3ヶ月以上だから慢性。そこで思考を止める。

臨床で見たい判断

期間を参考にしつつ、痛みの背景、病態、神経系の関与、生活への影響も合わせて見る。

たとえば、慢性的に腰痛を持っている患者さんが、ある日ぎっくり腰のような強い痛みを起こした場合。

これは急性痛でしょうか。

それとも慢性腰痛の急性増悪でしょうか。

また、外傷がないのに「ここ数日座っていると腰が痛い」という患者さんは、単純な急性腰痛でしょうか。

こうした場面では、期間だけでは判断しきれません。

病態や機序からも考える

痛みを考える時、期間だけでなく、どのような機序が関与していそうかも重要です。

侵害受容性疼痛なのか。

神経障害性疼痛なのか。

痛覚変調性疼痛、または心理社会的要因の影響が強い痛みなのか。

もちろん、実際の患者さんではこれらがきれいに分かれるとは限りません。

ただ、少なくとも「何ヶ月続いているか」だけでなく、「何が痛みを維持していそうか」を考える必要があります。

慢性か急性かを分けることより、その痛みを今どう理解し、どう介入するかの方が重要な場面があります。

期間は、痛みの一側面です。

しかし、病態そのものではありません。

3ヶ月という数字を見て、病態理解を省略してしまうと、臨床推論が粗くなります。

区別しない方がいい場面もある

個人的には、慢性か急性かを必ずしも区別しなくてよい場面もあると思います。

もちろん、分類が役に立つ場面はあります。

しかし、患者さんの前で「これは慢性ですね」とラベルを貼ることが、必ずしもプラスになるとは限りません。

慢性という言葉には、「長引く」「治りにくい」「ずっと続く」というイメージがつきまといます。

その言葉が患者さんの不安を増やすなら、説明の仕方には注意が必要です。

ラベルの扱い

慢性という分類は医療者側の整理には役立ちます。ただし、患者さんに伝える時は、その言葉がどのような意味づけになるかを考える必要があります。

「3ヶ月以上だから慢性疼痛です」と伝えること自体は間違いではないかもしれません。

しかし、それだけでは患者さんの理解は進みません。

なぜ痛みが続いているのか。

何が痛みを強めているのか。

どの要素なら変えていけそうか。

そこまで説明して初めて、分類が臨床に役立ちます。

定義は真理ではなく道具である

IASPやICD-11の定義は非常に重要です。

慢性疼痛を分類し、研究し、医療制度の中で扱うための共通言語になります。

ただし、定義は真理そのものではありません。

定義は、現実の複雑さを扱うために作られた道具です。

道具である以上、使いどころと限界があります。

  • 研究や分類では、3ヶ月という基準が役に立つ
  • 臨床では、期間だけでなく病態や機序を見る必要がある
  • 患者説明では、慢性という言葉の影響も考える
  • 痛みを分類することと、痛みを理解することは同じではない

定義を知っていることは大切です。

ただ、それ以上に大切なのは、定義をどこまで信じ、どこから疑うかです。

期間で分け、期間に縛られない

慢性疼痛を「3ヶ月以上続く痛み」と整理することは、間違いではありません。

ただ、その定義だけで痛みを理解したつもりになるのは危険です。

3ヶ月という線引きは、便利な目安です。

しかし、患者さんの痛みは、日数だけで説明できません。

痛みが続く背景には、組織の状態、神経系の変化、睡眠、ストレス、活動量、恐怖、環境など、さまざまな要素が関わります。

だからこそ、期間で分ける。

でも、期間に縛られない。

その距離感が、慢性疼痛の定義を臨床で使う時には大切だと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

定義を覚えることは大切です。でも、定義に患者さんを押し込める必要はありません。3ヶ月という目安を使いながら、目の前の痛みがどういう機序で続いているのかを考えたいですね。

参考:ICD-11関連の慢性疼痛分類では、慢性疼痛は「3ヶ月を超えて持続または再発する痛み」として操作的に定義されています。一方で、慢性疼痛分類では慢性一次性疼痛や慢性二次性疼痛など、病態や背景に基づく分類も重視されています。

IASP: ICD-11 Pain Classification

Chronic Pain in the ICD-11: New Diagnoses That Clinical Psychologists Should Know About

IASP: Chronic Pain

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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