エビデンスピラミッドをそのまま信じていいのか?研究の読み方を少しだけ冷静にする

研究の順位表だけで、臨床判断はできない

メタアナリシスが上、症例報告が下。そう覚えると分かりやすいのですが、その分かりやすさが、かえって研究の読み方を雑にすることがあります。

エビデンスピラミッドは、研究デザインの目安にはなります。ただし、それをそのまま「信頼性ランキング」として扱うと、上位の弱い研究を盲信し、下位の価値ある情報を見落とすことがあります。

臨床の勉強をしていると、エビデンスピラミッドという図を一度は見たことがあると思います。

上にメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その下にランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究、症例報告、専門家の意見が並ぶ、あの図です。

たしかに、初学者にとっては分かりやすいです。

ただ、分かりやすい図ほど、雑に使われます。

少し辛口に言うと、「ピラミッドの上だから正しい」「下だから価値が低い」と言っている時点で、研究を読んでいるというより、図に寄りかかっている状態に近いです。

エビデンスピラミッドの注意点を整理した図

エビデンスの階層は、研究を読む入口にはなります。ただし、これだけで研究の価値を決めるにはかなり無理があります。

まなぶ先生
まなぶ先生

でも、メタアナリシスやRCTって、やっぱり一番信頼できるんじゃないですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

研究デザインとして強い場面はあります。ただ、「その研究がちゃんとしているか」と「その患者さんに使えるか」は、また別の話です。

研究デザインと研究の質は、同じではない

まず分けたいのは、研究デザインと研究の質です。

メタアナリシス、システマティックレビュー、RCT、コホート研究、症例対照研究、症例報告。

これらは本来、研究の「やり方」の違いです。

上にあるから自動的に良い研究、下にあるから自動的に悪い研究、という話ではありません。

見たいこと 合いやすい研究 注意したいこと
介入の効果や安全性 RCT、システマティックレビュー ランダム化、盲検化、サンプルサイズ、脱落などを見る
危険因子や長期的な関連 コホート研究、症例対照研究 交絡因子や対象者の背景を確認する
珍しい病態や新しい所見 症例報告、症例シリーズ 一般化は慎重にしつつ、見落とし防止の材料にする

たとえば、新しい薬の効果を見るならRCTはかなり相性が良いです。

一方で、喫煙と肺がん、食生活と心疾患のような長期的なリスクを調べるなら、観察研究が大きな意味を持ちます。

珍しい疾患や、現場であまり見ない反応を知るなら、症例報告がきっかけになることもあります。

だから、研究を読む時は「上か下か」より先に、その問いに対して、その研究デザインが合っているのかを見たいところです。

RCTでも、弱い研究はある

RCTは、介入の効果を検討するうえで重要な研究デザインです。

ただし、RCTだから常に信頼できるわけではありません。

サンプルサイズが小さい。ランダム化の方法が不十分。盲検化ができていない。脱落が多い。結果の解釈が強すぎる。都合の良いアウトカムだけを強調している。

こういう研究なら、ピラミッド上では高い位置にあっても、臨床でそのまま使うには慎重になります。

ここを混同しない

RCTという形式は大事です。でも、RCTという名前だけで中身の質までは保証されません。研究デザインは入口であって、読み終わりではありません。

これはシステマティックレビューやメタアナリシスでも同じです。

元になっている研究の質が低ければ、それを集めて統合しても、きれいな見た目の弱い結論になることがあります。

しかも、レビューは時間とともに古くなります。

ある時点では妥当だった結論が、新しい研究によって修正されることもあります。

出版バイアスと、きれいすぎる結論

研究には、出版バイアスという問題もあります。

ざっくり言えば、統計的に有意な差が出た研究の方が、論文として世に出やすい傾向があるということです。

差が出なかった研究、地味な結果だった研究は、表に出にくいことがあります。

すると、文献を集めたレビューの中にも、最初から少し偏った材料が入りやすくなります。

研究を読む時は、「何が書かれているか」だけでなく、「何が見えていない可能性があるか」も考える必要があります。

もちろん、だから全部信用できない、という話ではありません。

むしろ逆です。

信頼したいからこそ、どういう条件で出た結論なのかを確認します。

対象者は誰か。介入は何か。比較対象は何か。アウトカムは臨床的に意味があるか。結果は患者さんにどう関係するか。

ここを飛ばして「メタアナリシスだから強い」と言うのは、ちょっと乱暴です。

下位の情報を、雑に切り捨てない

ピラミッドの誤用で困るのは、上を盲信することだけではありません。

下にある情報を雑に切り捨てることも問題です。

症例報告や専門家の意見は、たしかに一般化には向きません。

でも、珍しい疾患、見逃しやすい所見、まだ研究が少ない領域では、臨床の注意を向けるきっかけになります。

まなぶ先生
まなぶ先生

症例報告は弱いから読まなくていい、ではないんですね。

瀬谷崎
瀬谷崎

一般化は慎重に。でも、知らなければ疑えないものもあります。弱い情報と、不要な情報は同じではありません。

臨床では、頻度が低いものほど見落としやすいです。

その時に、症例報告で見たことがある、専門家が注意喚起していた、という情報が役に立つことがあります。

大事なのは、症例報告を「これで証明された」と使わないことです。

評価の参考にする。鑑別の候補に入れる。医療機関での確認が必要な可能性を考える。

そういう使い方なら、十分に価値があります。

臨床では、患者さんに使えるかまで見る

研究を読む時に忘れたくないのは、目の前の患者さんに使えるかどうかです。

研究の対象者は、今見ている人と似ているのか。

年齢、性別、症状の期間、重症度、併存疾患、生活背景は近いのか。

アウトカムは本当に患者さんが困っていることと一致しているのか。

統計的に有意でも、日常生活で意味のある変化なのか。

ここを見ないと、エビデンスは現場に降りてきません。

臨床で見るポイント

研究デザイン、研究の質、対象者、効果の大きさ、害、患者さんの価値観。このあたりを合わせて見ると、ピラミッドだけでは見えない判断がしやすくなります。

ガイドラインやレビューは、臨床判断を助けてくれます。

ただし、それは「考えなくていい」という意味ではありません。

患者さんによって、優先したいことは違います。

痛みを少しでも減らしたい人もいれば、仕事に戻ることを優先したい人もいます。副作用や費用、通院の負担を重く見る人もいます。

研究は大事です。でも、研究だけで臨床は完結しません。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、エビデンスを大切にします。

ただし、論文の種類やピラミッドの位置だけで、患者さんへの説明や施術を決めることはしません。

問診で困りごとを聞き、身体の状態を評価し、必要な場合は医療機関での確認が必要な可能性も考えます。

その上で、研究で分かっていること、まだはっきりしないこと、患者さんにとって現実的な選択肢を分けて説明します。

  • 研究デザインだけで信頼性を決めつけない
  • 上位の研究でも中身を確認する
  • 症例報告や臨床経験も、使い方を間違えず評価の参考にする
  • 統計的な差と、患者さんにとって意味のある変化を分ける
  • 研究と目の前の患者さんの背景を照らし合わせる

図に頼りすぎず、中身を読む

エビデンスピラミッドは、完全に無意味な図ではありません。

研究デザインをざっくり理解する入口としては使えます。

ただ、その図を信頼性ランキングとして使いすぎると、研究を読む目が粗くなります。

上にあるから正しい。

下にあるから弱い。

そうやって済ませると、臨床で本当に必要な情報を取りこぼします。

研究は、形式ではなく中身を読む。

そして、その中身を患者さんの状態に合わせて使う。

地味ですが、ここを外さないことが大事だと思っています。

瀬谷崎
瀬谷崎

ピラミッドは便利です。でも、便利な図ほど思考停止に使われます。研究は順位ではなく、中身と使いどころを見たいですね。

参考

  • Murad MH, et al. New evidence pyramid. Evidence Based Medicine. 2016.
    PMC
  • Blunt C. The Pyramid Schema: The Origins and Impact of Evidence Pyramids.
    SSRN
  • Shojania KG, et al. How quickly do systematic reviews go out of date? Ann Intern Med. 2007.
    PubMed
  • Beller EM, et al. Are systematic reviews up-to-date at the time of publication? Systematic Reviews. 2013.
    Systematic Reviews
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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