統計的に有意なら本当に効くのか?P値だけで判断しない論文の読み方

「統計的に有意です」で、話を終わらせない

論文を読むと、P値や統計的有意という言葉がよく出てきます。ただし、それだけで「効果が高い」「臨床で使える」と判断すると、かなり危ない読み方になります。

P値は大事ですが、万能ではありません。統計的に有意かどうかだけでなく、効果の大きさ、信頼区間、患者さんにとって意味のある変化かどうかまで見たいところです。

エビデンスを大切にしようとすると、論文を読む機会が増えます。

そこで必ず出てくるのが、P値です。

「P<0.05で統計的に有意」

この表現を見ると、なんとなく強い結果のように感じます。

逆に、P値が0.05を超えていると、「効果なし」と判断したくなる。

でも、ここが統計の落とし穴です。

統計的に有意という言葉は、効果が大きいことを意味しているわけではありません。

まなぶ先生
まなぶ先生

P値が0.05未満なら、その治療は効くってことじゃないんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

そこが誤解されやすいです。P値は「効き目の大きさ」ではなく、「偶然っぽさ」を見るための数字です。

P値は、何を見ている数字なのか

P値は、かなりざっくり言えば「本当は差がないと仮定した時に、今回のような結果がどれくらい珍しいか」を見る数字です。

たとえば、新しい運動療法と通常の対応を比べた研究があるとします。

まず「本当は両者に差はない」と仮定します。

その上で、今回のような差が偶然で出る確率がどれくらい低いかを見る。

それがP値です。

よくある誤解 実際に見ていること
P値が小さいほど効果が大きい P値は効果の大きさそのものではありません
P<0.05なら治療効果が証明された 偶然では説明しにくい差が出た、という意味に近いです
P>0.05なら意味がない 効果がないと証明されたわけではありません

つまり、P値は便利ですが、かなり限定された情報です。

論文を読む時にP値だけを見るのは、問診をせず検査ひとつで原因を決めるようなものです。

統計的有意と、臨床的に意味があることは違う

統計的に有意でも、患者さんにとって意味があるとは限りません。

ここが一番大事です。

たとえば、痛みの点数が平均で0.5だけ改善したとします。

大人数の研究なら、それでも統計的に有意になることがあります。

でも、患者さん本人がその変化に気づくでしょうか。

日常生活が変わるでしょうか。

少し辛口に言うと、「統計的に有意でした」だけで患者さんにすすめるのは、数字を読んでいるようで、患者さんを見ていないことがあります。

臨床では、患者さんにとって意味のある変化かどうかを見ます。

痛みが少し変わっただけなのか。

歩ける距離が伸びたのか。

仕事に戻れるようになったのか。

不安が減って、動けるようになったのか。

数字が変わることと、生活が変わることは同じではありません。

効果量を見る

P値の次に見たいのが、効果の大きさです。

どれくらい良くなったのか。

どれくらい差があったのか。

その差は、患者さんにとって意味があるのか。

ここを見ないと、臨床に持ち込めるかどうかは判断しにくいです。

見たい順番

P値で「偶然っぽさ」を見る。効果量で「どれくらい変わったか」を見る。さらに、その変化が患者さんの生活に意味があるかを考える。この順番が大事です。

統計的に有意でも、変化が小さすぎれば臨床では使いにくいことがあります。

逆に、有意差が出ていなくても、効果の方向や大きさ、リスクの少なさから、臨床上の選択肢として考える価値がある場合もあります。

95%信頼区間は、結果のブレを見るために使う

もうひとつ見たいのが、95%信頼区間です。

これは、結果の幅を見るものです。

研究は、同じように見えても毎回ぴったり同じ結果にはなりません。

対象者、測定方法、サンプル数、ばらつき。いろいろな要素で結果は揺れます。

信頼区間は、その揺れを含めて「真の効果がこのあたりにありそう」と示すためのものです。

信頼区間の見方 臨床での受け取り方
幅が狭い 推定が比較的安定していると見やすい
幅が広い 結果の不確実性が大きく、慎重に読む必要がある
改善にも悪化にもまたがる 効果の方向がはっきりしにくい
臨床的に意味のある範囲を超えている P値だけでなく、実際の価値を検討したい

信頼区間を見ると、「この結果はどれくらい確からしいのか」「どれくらいブレる可能性があるのか」が見えてきます。

P値だけより、ずっと臨床に近い読み方になります。

0.05を境目に、白黒をつけすぎない

P値0.049なら意味がある。

P値0.051なら意味がない。

こういう読み方は、かなり危ういです。

数字としてはほとんど変わらないのに、0.05を境目に扱いがガラッと変わる。

これは現実の臨床感覚ともズレます。

まなぶ先生
まなぶ先生

じゃあ、P値の基準って見なくていいんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

見ます。ただ、そこだけで判決を出さないということです。P値は証拠の一部です。

統計の世界でも、P値や統計的有意に頼りすぎることへの注意は以前から出ています。

P値は便利ですが、臨床判断のすべてを背負わせるには荷が重いです。

論文を臨床に使う時の読み方

セラピストが論文を読む時、まず次のように見ると読み違えにくくなります。

  • P値だけで良し悪しを決めていないか
  • 実際の効果量はどれくらいか
  • 95%信頼区間の幅はどれくらいか
  • その変化は患者さんが気づくレベルか
  • 痛みだけでなく、生活や機能に意味があるか
  • 研究対象と目の前の患者さんは似ているか
  • リスクやコストに対して、見合う価値があるか

論文は、臨床判断を助けてくれます。

ただ、論文の数字をそのまま患者さんに貼りつけるわけではありません。

研究の結果を見て、目の前の患者さんにどう使うかを考える。

ここが、エビデンスを読む意味です。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、エビデンスを大切にしています。

ただし、論文に書かれた数字だけで施術を決めるわけではありません。

患者さんの症状、生活、希望、リスク、通える頻度、過去の経験。

こうした情報と、研究で示された結果を合わせて考えます。

統計的に有意だからやる、ではなく、その人にとって意味があるかどうかまで見る。

ここを大切にしたいと思っています。

瀬谷崎の考え方

数字に強くなることは大事です。でも、数字を読めることと、患者さんを見られることはセットで考えたいですね。

施術者が見直したいこと

  • 「有意差あり」を、効果が大きいという意味で使っていないか
  • 「有意差なし」を、効果がないという意味で切り捨てていないか
  • 効果量と信頼区間を確認しているか
  • 患者さんにとって意味のある変化かを考えているか
  • 論文の対象者と、自分の患者さんの違いを見ているか
  • 統計の言葉で、自分の判断を強く見せすぎていないか

P値は入口であって、結論ではない

P値や統計的有意は、論文を読む上で大切な情報です。

でも、それだけで効果の大きさも、臨床での価値も、患者さんにとっての意味も分かるわけではありません。

効果量を見る。信頼区間を見る。患者さんの生活にとって意味があるかを見る。

その上で、目の前の人にどう使うかを考える。

エビデンスを臨床に使うというのは、たぶんそういう作業です。

瀬谷崎
瀬谷崎

P値を読むことより、P値だけで分かった気にならないこと。そこからが、論文を臨床に使う入口だと思います。

参考

  • Wasserstein RL, Lazar NA. The ASA Statement on p-Values: Context, Process, and Purpose. The American Statistician. 2016.
    Taylor & Francis Online
  • Amrhein V, Greenland S, McShane B. Scientists rise up against statistical significance. Nature. 2019.
    Nature
  • Sullivan GM, Feinn R. Using Effect Size-or Why the P Value Is Not Enough. Journal of Graduate Medical Education. 2012.
    PMC
  • Dworkin RH, et al. Interpreting the Clinical Importance of Treatment Outcomes in Chronic Pain Clinical Trials: IMMPACT Recommendations. Journal of Pain. 2008.
    PubMed
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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