徒手検査の陽性・陰性だけで判断しないための感度・特異度・尤度比の話

検査で陽性なら、それで答えは出たのか

徒手検査は、臨床でとても大切です。ただし、「陽性だからこの疾患」「陰性だから関係ない」と短く結論づけると、評価の意味をかなり取り違えることがあります。

検査は、答えを一発で当てる道具ではありません。感度・特異度・尤度比は、可能性を上げたり下げたりするための材料です。ほかの所見と合わせて、少しずつ判断を絞っていきます。

整骨院やリハビリ、整形外科領域では、いろいろな徒手検査が使われます。

腰の症状ならSLRテスト。肩ならインピンジメント系の検査。膝や足首にも、たくさんの検査があります。

検査はとても大切です。

ただ、検査をした瞬間に「はい、原因はこれです」と言い切れるかというと、そこまで単純ではありません。

ここで出てくるのが、感度、特異度、尤度比という言葉です。

名前だけ聞くと、ちょっと眠くなります。

でも、臨床での考え方としてはかなり大事です。

まなぶ先生
まなぶ先生

検査で陽性が出たら、その疾患っぽいって考えていいんじゃないですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

「っぽさ」は上がるかもしれません。でも、どれくらい上がるのかは検査ごとに違います。そこを見ないと危ないです。

陽性・陰性だけで考えると、かなり雑になる

検査には、陽性と陰性があります。

陽性なら関与がありそう。陰性なら関与は少なそう。

ざっくり言えばそうなのですが、問題は「どのくらいそう言えるのか」です。

ここを見ずに、陽性だから原因、陰性だから除外、と言ってしまうと、かなり危うい判断になります。

少し辛口に言うと、検査名をたくさん知っていても、結果の意味を読めなければ臨床判断は荒くなります。検査は数ではなく、解釈です。

たとえば、腰椎椎間板ヘルニアや神経根症状の評価で使われるSLRテストを考えます。

SLRは感度が高めとされる一方で、特異度は高くないと報告されることがあります。

つまり、陰性なら可能性を下げる材料にはなりやすいけれど、陽性だからといってそれだけで原因を特定する力は強くありません。

感度と特異度を、かなりざっくり言うと

まず、感度と特異度です。

言葉は難しそうですが、考え方はシンプルです。

指標 ざっくりした意味 臨床での使い方
感度 その状態がある人に、検査がどれくらい陽性になるか 高い感度の検査が陰性なら、その状態の可能性を低く見積もる材料になる
特異度 その状態がない人に、検査がどれくらい陰性になるか 高い特異度の検査が陽性なら、その状態の関与を疑う材料になりやすい
尤度比 検査結果によって、可能性がどれくらい動くか 検査前の見立てを、検査後にどれくらい更新するかを考える
感度

意味:その状態がある人に、検査がどれくらい陽性になるか。

使い方:高い感度の検査が陰性なら、その状態の可能性を低く見積もる材料になります。

特異度

意味:その状態がない人に、検査がどれくらい陰性になるか。

使い方:高い特異度の検査が陽性なら、その状態の関与を疑う材料になりやすくなります。

尤度比

意味:検査結果によって、可能性がどれくらい動くか。

使い方:検査前の見立てを、検査後にどれくらい更新するかを考えます。

感度が高い検査は、陰性の時に強い。

特異度が高い検査は、陽性の時に強い。

こう覚えると入り口としては分かりやすいです。

ただし、これだけで終わるとまだ荒いです。

よくある誤解

感度85%だから、陽性なら85%その疾患という意味ではありません。感度は「疾患がある人の中で陽性になる割合」です。陽性になった人の中に、実際どれくらい疾患があるかとは別の話です。

SLR陽性だけで、ヘルニアとは言い切れない

SLRテストは、腰から脚にかけての症状を見る時によく使われます。

文献によって数値には幅がありますが、非手術例を含むレビューでは、SLRの感度が0.85、特異度が0.52とまとめられているものがあります。

この数字を、臨床っぽく言い換えてみます。

SLRの指標例 意味 瀬谷崎的な読み方
感度 0.85 該当する状態がある人では、陽性になりやすい 陰性なら、その関与を低く見積もる材料になりやすい
特異度 0.52 該当する状態がない人でも、陽性になることがある 陽性だけで、原因を決めつけるには弱い
検査単独の限界 陽性・陰性だけでは状態を説明しきれない 問診、神経所見、痛みの範囲、経過と合わせて見る
感度 0.85

意味:該当する状態がある人では、陽性になりやすい。

読み方:陰性なら、その関与を低く見積もる材料になりやすい。

特異度 0.52

意味:該当する状態がない人でも、陽性になることがある。

読み方:陽性だけで、原因を決めつけるには弱い。

検査単独の限界

意味:陽性・陰性だけでは状態を説明しきれない。

読み方:問診、神経所見、痛みの範囲、経過と合わせて見ます。

つまり、SLRが陽性だから「ヘルニアです」と言うのは飛びすぎです。

一方で、SLRが陰性だから全部関係ない、と言い切るのも慎重に見た方がいいです。

検査は、可能性を動かすものです。

答えを一発で決めるものではありません。

まなぶ先生
まなぶ先生

じゃあ、検査って何のためにやるんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

最初の見立てを、少し良くするためです。ゼロか100かを当てるためではありません。

検査の前に、すでに見立ては始まっている

検査結果を読む時に大事なのが、検査前確率です。

簡単に言えば、検査をする前の時点で「この状態がどれくらいありそうか」という見立てです。

年齢、症状の出方、発症のきっかけ、痛みやしびれの範囲、神経学的な所見、生活で困っていること。

こうした情報を聞いた時点で、すでに可能性の高いものと低いものがあります。

そこに検査を足して、見立てを更新します。

イメージ

問診で「少し怪しい」と思った状態に対して検査を行う。陽性なら可能性を上げる。陰性なら可能性を下げる。これを繰り返して、判断の精度を少しずつ上げていきます。

検査前の見立てがほとんどない状態で、やみくもに検査を増やしても、結果の意味はぼやけます。

先に問いがあって、その問いに対して検査を使う。

この順番が大事です。

尤度比は、可能性がどれくらい動くかを見る道具

尤度比という言葉は、少しとっつきにくいです。

ただ、臨床的には「検査結果で見立てがどれくらい動くか」を見るものだと思うと分かりやすいです。

陽性尤度比は、陽性結果が出た時に可能性をどれくらい上げるか。

陰性尤度比は、陰性結果が出た時に可能性をどれくらい下げるか。

指標 読み方
陽性尤度比 感度 / (1 – 特異度) 大きいほど、陽性結果の意味が強くなる
陰性尤度比 (1 – 感度) / 特異度 小さいほど、陰性結果の意味が強くなる
陽性尤度比

式:感度 / (1 – 特異度)

読み方:大きいほど、陽性結果の意味が強くなります。

陰性尤度比

式:(1 – 感度) / 特異度

読み方:小さいほど、陰性結果の意味が強くなります。

SLRの感度0.85、特異度0.52でざっくり計算すると、陽性尤度比は約1.8、陰性尤度比は約0.29です。

陽性になっても可能性は少し上がる程度。陰性なら可能性をそれなりに下げる。

こう読むと、「SLR陽性だからヘルニア」と短絡しにくくなります。

分かりやすい説明ほど、飛びつきたくなる

人間は、分かりやすい説明が好きです。

「ここが硬いから痛い」

「この神経が引っ張られている」

「この検査が陽性だから原因はこれ」

こういう説明は、聞いた瞬間に納得しやすいです。

でも、納得しやすいことと、正確であることは別です。

きれいな図や分かりやすい言葉は、臨床の助けになります。ただ、それだけで判断が正しくなるわけではありません。

検査結果も同じです。

陽性という言葉は強いです。

つい原因を見つけた気になります。

でも、そこでもう一度立ち止まる必要があります。

この検査は何に強いのか。何に弱いのか。偽陽性や偽陰性はどれくらい起こるのか。

ここまで見るのが、検査を使うということです。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、問診と検査を大切にしています。

ただし、ひとつの検査だけで状態を決めつけることはしません。

痛みの場所、症状の出方、神経の反応、生活動作、経過、必要に応じた医療機関での確認。

こうした情報を合わせて、その人にとって何が関係していそうかを考えます。

瀬谷崎の考え方

検査は、患者さんを不安にさせるためのものではありません。今の状態をより正確に見て、必要な対応を選ぶための材料です。

施術者が見直したいこと

  • 検査の陽性だけで原因を言い切っていないか
  • 陰性結果を、可能性を低く見積もる材料として使えているか
  • 感度と特異度の意味を混同していないか
  • 検査前の見立てを持ってから検査しているか
  • 患者さんに、不安を増やす言葉で説明していないか
  • 必要に応じて医療機関での確認も選択肢に入れているか

検査は、確率を少しずつ動かすもの

徒手検査は大切です。

ただ、陽性・陰性という結果だけで、身体の状態を全部説明できるわけではありません。

感度、特異度、尤度比を知ると、検査結果の読み方が少し慎重になります。

それは、患者さんに曖昧な説明をするためではありません。むしろ、必要以上に決めつけず、より誠実に判断するためです。

瀬谷崎
瀬谷崎

検査は答え合わせではなく、見立てを更新する作業です。そこを間違えないだけで、臨床の説明はかなり変わります。

参考

  • Diagnostic Testing Accuracy: Sensitivity, Specificity, Predictive Values and Likelihood Ratios. StatPearls. NCBI Bookshelf.
    NCBI Bookshelf
  • Physical examination for the diagnosis of lumbar radiculopathy due to disc herniation in patients with low-back pain and sciatica. Cochrane.
    Cochrane
  • Diagnostic value of history and physical examination in patients suspected of sciatica due to disc herniation. CRD Database.
    CRD Database
  • Likelihood ratios. Health Knowledge.
    Health Knowledge
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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