痛みはどこで感じているのか。脳の複数領域から見る痛みの正体
セラピスト向け
痛みは、ひとつのスイッチで生まれるわけではない
痛みは、身体のどこかが傷ついた信号をそのまま感じているだけではありません。感覚、情動、記憶、不安、注意が脳内で重なって生まれる体験です。
痛みに関連する脳領域のまとめ。一次体性感覚野、島皮質、前帯状回、視床、前頭前野など、複数の領域が痛みの体験に関わります。
痛みには、感覚だけでなく、情動や認知も関わります。だからこそ、痛みを「損傷の強さ」だけで説明すると、患者さんのつらさを見誤ることがあります。
痛みを考える時、多くの人は身体の一部に意識を向けます。
腰が痛い。
肩が痛い。
膝が痛い。
たしかに、痛みは身体のどこかに感じられます。
しかし、その痛みを「感じている」のは脳です。
もっと言えば、脳のどこか一か所に痛み中枢があるわけではありません。
複数の脳領域が関わり、感覚、情動、記憶、注意、予測などが重なって、痛みという体験が作られます。
ここを理解すると、臨床の見方が変わります。
痛みは、組織損傷の単純な反映ではなく、脳が作り出す複合的な体験として見直す必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
痛みは「痛み中枢」だけで起こるわけではない
画像では、痛みに関連する脳領域が複数紹介されています。
一次体性感覚野、二次体性感覚野、前帯状回、島皮質、視床、前頭前野。
さらに、扁桃体、視床下部、後帯状回、大脳基底核、中脳水道周囲灰白質なども関わります。
これを見ると、痛みが単純な感覚ではないことが分かります。
「どこが痛いか」を処理する領域もあれば、「どれくらい不快か」「怖いか」「注意が向くか」「記憶と結びつくか」に関わる領域もあります。
痛みは、場所を知らせる信号であると同時に、不快さ、警戒、記憶、注意を伴う体験です。
だから、同じ刺激でも人によって痛み方が違います。
同じ画像所見でも、痛みを強く感じる人と感じない人がいます。
同じ動作でも、安心している時と不安が強い時では、痛みの感じ方が変わることがあります。
これは「気のせい」という話ではありません。
脳が痛みを作る以上、痛みには身体だけでなく、感情や認知の処理も関わるという話です。
感覚・情動・認知の3つを分けて考える
痛みを理解するうえで、ざっくり3つの側面に分けると整理しやすくなります。
ひとつ目は、感覚的側面です。
どこが痛いのか。
どのくらい痛いのか。
鋭いのか、重いのか、焼けるようなのか。
こうした痛みの位置や性質に関わります。
ふたつ目は、情動的側面です。
つらい。
怖い。
不快。
また悪くなるのではないか。
こうした感情の部分です。
三つ目は、認知的側面です。
これは何の痛みなのか。
危険なのか。
動いていいのか。
過去の経験とどう結びつくのか。
この意味づけや判断の部分です。
| 痛みの側面 | 主に関わる内容 | 臨床で見たいこと |
|---|---|---|
| 感覚的側面 | 痛みの部位、強さ、性質 | どの動きで変わるか、神経症状があるか、身体所見と合うか |
| 情動的側面 | 不快感、不安、恐怖、警戒 | 痛みへの怖さ、回避行動、生活上の困りごと |
| 認知的側面 | 意味づけ、記憶、注意、予測 | 患者さんが痛みをどう理解し、何を心配しているか |
この3つは別々に存在するわけではありません。
互いに影響し合います。
痛みが強いから怖くなることもあります。
怖いから痛みに注意が向き、さらに強く感じることもあります。
過去のつらい経験があるから、同じような痛みを危険だと判断することもあります。
痛みは、こうした相互作用の中で変化します。
組織だけを見ると、痛みの全体像を見落とす
臨床でよくあるのは、痛みを組織の問題だけで説明することです。
筋肉が硬いから。
関節がずれているから。
姿勢が悪いから。
画像で変性があるから。
もちろん、身体の評価は重要です。
痛みの原因を身体から切り離して考える必要はありません。
ただし、身体だけで痛みを説明しようとすると、患者さんのつらさの大事な部分を見落とすことがあります。
「ここが悪いから痛い」と断定しすぎると、患者さんの身体への不安や警戒を強めてしまうことがあります。痛みには感情や認知も関わるため、説明そのものが痛みの体験に影響します。
たとえば、患者さんが「また壊れるのではないか」と怖がっている場合。
痛みへの注意が過剰になっている場合。
睡眠不足やストレスが強い場合。
過去に強い痛みで仕事を休んだ経験がある場合。
これらは、痛みの体験に影響しうる要素です。
身体の評価だけでなく、痛みをどう受け止めているかも確認する必要があります。
脳が関わることは、「気のせい」ではない
ここで誤解してはいけないことがあります。
痛みに脳が関わると言うと、「つまり心理的な問題ですか」「気にしすぎですか」と受け取られることがあります。
これは違います。
痛みは、脳が作る体験です。
しかし、それは痛みが嘘だという意味ではありません。
むしろ、痛みが本当にその人の中で起きているからこそ、脳の処理を含めて理解する必要があります。
脳が関わる痛みは、偽物ではありません。痛みは主観的な体験であり、身体・感情・記憶・注意が関わるリアルな現象です。
「痛みは脳で作られる」と言う時に、患者さんを責めるような説明をしてはいけません。
「あなたの考え方が悪い」ではありません。
「痛みは身体だけでなく、脳や神経の処理も関わるので、いろいろな方向から良くしていきましょう」という説明が必要です。
これなら、患者さんは自分の痛みを否定されたとは感じにくくなります。
痛みを見る時に、患者さんへ確認したいこと
痛みを脳の複数領域が関わる体験として見るなら、問診も少し変わります。
単に「どこが痛いですか」「いつからですか」だけでは足りません。
その痛みをどう捉えているのか。
何が怖いのか。
何ができなくなって困っているのか。
どんな時に楽になるのか。
過去に似た痛みで嫌な経験があるのか。
こうしたことも、痛みの理解には重要です。
- 痛みの部位、強さ、性質はどうか
- 痛みが出る動き、楽になる動きはあるか
- その痛みを患者さんは何だと思っているか
- 一番心配していることは何か
- 痛みのせいで避けている活動はあるか
- 睡眠、疲労、ストレス、仕事環境との関係はあるか
- 安心できる説明や成功体験が不足していないか
このように聞くことで、身体所見だけでは見えない痛みの背景が見えてきます。
痛みは、評価、説明、運動、生活調整、安心感の提供などを組み合わせて扱う必要があります。
一つの手技だけで完結させるよりも、患者さんの痛みの構造を広く見た方が、介入の選択肢は増えます。
患者さんへの説明は、痛みの体験に影響する
痛みに情動や認知が関わるなら、セラピストの説明も重要です。
「このままだと悪化します」
「骨がずれています」
「筋肉がガチガチだから痛いです」
こうした説明は、場合によっては患者さんの不安や警戒を強めます。
そして、不安や警戒が高まれば、痛みへの注意も強まりやすくなります。
だからこそ、必要以上に怖がらせない説明が大切です。

まなぶ先生

瀬谷崎
患者さんに伝えたいのは、「痛みがあるから身体が壊れている」とは限らないということです。
もちろん危険な疾患やレッドフラッグは見逃してはいけません。
そのうえで、痛みの感度が上がっていること、注意や不安が関わること、少しずつ安全な経験を積むことで変化することを伝えます。
これは、痛みを軽く扱う説明ではありません。
痛みをより正確に扱うための説明です。
痛みはネットワークとして見る
痛みに関わる脳領域を知ると、痛みがとても複雑に見えるかもしれません。
実際、複雑です。
しかし、臨床では難しく考えすぎる必要はありません。
まずは、痛みを一つの原因に押し込めないことです。
筋肉だけ。
関節だけ。
画像所見だけ。
メンタルだけ。
どれか一つだけで説明しようとすると、必ず無理が出ます。
身体の情報、感情の反応、患者さんの理解、生活背景を合わせて見る。
これが、痛みをネットワークとして見るということです。
痛みを脳の複数領域が関わる体験として見ると、評価は身体だけで終わりません。患者さんの不安、注意、記憶、生活の困りごとも、臨床で扱うべき情報になります。
痛みを、身体だけに閉じ込めない
痛みは、身体に感じられるものです。
だから身体を評価することは必要です。
ただし、痛みは身体だけで完結しません。
一次体性感覚野は痛みの部位に関わります。
島皮質や前帯状回は不快感や情動と関わります。
前頭前野は意味づけや認知と関わります。
扁桃体や視床下部は恐怖や不安、自律神経反応にも関わります。
こうした複数の働きが重なって、痛みの体験は作られます。
だからこそ、臨床では「どこが悪いか」だけでなく、「その痛みが患者さんの中でどう経験されているか」を見たいです。
痛みを身体だけに閉じ込めない。
脳や神経の働きまで含めて、患者さんの痛みを丁寧に理解する。
それが、慢性痛や原因がはっきりしない痛みを見るうえで重要な姿勢だと思います。

瀬谷崎
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