頭部前方位姿勢(FHP)と胸鎖乳突筋。首の前方偏位を筋の走行から考える

スマホ首やデスクワークで頭が前に出る、胸鎖乳突筋という前側の一因

頭が前に出た姿勢(頭部前方位姿勢、FHP=フォワード・ヘッド・ポスチャー)は、首の痛みや動かしづらさと関連することが報告されています。ここで着目したいのが、耳の後ろから鎖骨・胸骨へ走る胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)です。その走行から、頭を前に引っぱってFHPを強める側面があります。

この記事について

頭部前方位姿勢(FHP)と胸鎖乳突筋の関係を、筋の走行と力のかかり方から整理します。姿勢そのものの評価や治し方の全体像はストレートネックの記事へつなぎ、ここではなぜ胸鎖乳突筋に着目するのか、その一点に絞ります。

伊藤聡史 伊藤聡史

頭が前に出る姿勢を、背中や肩の丸まりだけで考えると見落としが出ます。首の前を通る胸鎖乳突筋がどう走っているかを一度おさえておくと、なぜ頭が前に引かれるのかが見えやすくなります。

結論:頭部前方位姿勢(FHP)を考えるときは、胸鎖乳突筋の走行と、頭を前へ引く力のかかり方を合わせて読みます。首の後ろのこりだけでなく、前を通る筋の働きも視野に入れます。

頭部前方位姿勢(FHP)とは

頭部前方位姿勢(FHP)は、横から見たときに頭が体の中心線より前へ出た状態を指します。長時間のデスクワークやスマートフォンの操作など、前かがみの姿勢が続くことで生じやすいとされ、首の痛みや首まわりの動かしづらさとの関連が報告されています。

頭は体重のおよそ8%ほどの重さがあり、前へ出るほど首の後ろの筋肉がそれを支える負担は増えます。そのため対策というと首の後ろに目が向きがちですが、頭を前へ引く側の働きも合わせて見ておきたいところです。その主役になりうるのが胸鎖乳突筋です。

胸鎖乳突筋の走行を確認する

胸鎖乳突筋は、耳の後ろの出っぱり(乳様突起、にゅうようとっき)から始まり、前下方へ斜めに走って、胸骨(きょうこつ)と鎖骨(さこつ)につきます。首の横で触れる、太く目立つ筋です。両側が同時に働くと頭を前に倒し、片側だけ働くと顔を反対側へ向けます。

胸鎖乳突筋の走行と牽引方向を示した頭頚部の図
胸鎖乳突筋は乳様突起から胸骨・鎖骨へ前下方に走る。付着部を結ぶ方向(黄)に筋が縮むと、頭を前へ引く成分(緑)が生まれる。

ここで大切なのは、始まりの乳様突起が、首を支える回転の中心(環椎後頭関節、かんついこうとうかんせつ)よりも後ろにある一方で、つく先の胸骨・鎖骨は前下方にあるという位置関係です。つまり筋が縮むと、頭を前へ倒す・引く方向に力がかかりやすくなります。

なぜFHPを誘発しうるのか

頭が正しい位置にあるときと、前へ出たときとでは、胸鎖乳突筋のかかり方が変わります。頭が前へ移動すると、乳様突起と胸骨を結ぶ線の傾きが変わり、筋が縮んだときに頭をさらに前へ引く成分が大きくなりやすくなります。

正常な頭位と頭部前方位での力のかかり方を比べた図
左が標準的な頭位、右が頭部前方位(FHP)。頭が前へ出るほど、胸鎖乳突筋が頭を前へ引く成分(黄の矢印)が働きやすくなる。

前かがみの姿勢が続くと、この胸鎖乳突筋が縮んだまま働き続けやすくなります。すると頭を前へ引く力がかかり続け、頭部前方位姿勢を強める向きに働く可能性があります。頭が前に出る→胸鎖乳突筋がさらに引く、という関係が起こりうるということです。

もちろん、頭が前に出る姿勢は胸鎖乳突筋だけで決まるわけではありません。胸椎の丸まり(後弯、こうわん)や、肩が前に入る巻き肩、首の後ろの筋の働きなど、複数の要素が重なって生まれます。胸鎖乳突筋は、そのなかで見落とされやすい前側の一因として押さえておく、という位置づけです。

評価で見ておきたいこと

胸鎖乳突筋に着目するといっても、そこだけを評価するわけではありません。姿勢の全体像を見たうえで、前側の要素として胸鎖乳突筋の状態を合わせて確認します。見ておきたい観点を整理します。

頭の位置

横から見て、耳の位置が肩の中心より前に出ていないかを確認します。前へ出るほど首の後ろの負担が増えます。

胸鎖乳突筋の張り

首の横で触れる胸鎖乳突筋の緊張や太さ、押したときの感じ方に左右差がないかを見ます。

首を引く動き

あごを軽く引いて頭を後ろへ戻す動き(あご引き)がしにくくないか、動きの範囲を確認します。

背中・肩の要素

胸椎の丸まりや巻き肩が重なっていないか。前側だけでなく土台の姿勢も合わせて見ます。

胸鎖乳突筋は前を通り、頭を前へ引く成分を持つ筋です。首の後ろのこりや張りにばかり目を向けず、前側の働きも合わせて読むと、頭が前へ出る姿勢の見え方が変わってきます。

見落とさないために確認しておくこと

首の症状には、姿勢や筋の問題だけでは説明できないものもあります。次のような場合は、施術で反応を見る前に医療機関での確認を優先する場面があります。

  • 手や腕に広がるしびれ、力の入りにくさをともなう
  • 強い頭痛やめまい、ふらつきが続く
  • 外傷やケガのあとに首の痛みや動かしにくさが出てきた
  • 安静にしていても強い痛みがある、夜間に強まる
  • 発熱をともなう、だんだん悪くなっている
重要

胸鎖乳突筋は頭部前方位姿勢を考えるうえで押さえておきたい前側の一因ですが、それだけで姿勢や首の症状が決まるわけではありません。姿勢の全体像と合わせて読み、しびれや強い頭痛、外傷後の症状などがある場合は、医療機関での評価を優先します。

首の後ろだけでなく、前を通る筋も合わせて見る

頭部前方位姿勢(FHP)は、首の痛みや動かしづらさと関連します。その成り立ちには、耳の後ろから胸骨・鎖骨へ走る胸鎖乳突筋が、頭を前へ引く一因として関わりうると考えられます。

頭が前に出ているか、胸鎖乳突筋の張りに左右差はないか、あご引きの動きはしやすいか。首の後ろのこりだけでなく、前側の働きも合わせて読むことが、姿勢を丁寧にみる一歩になります。

伊藤聡史 伊藤聡史

頭が前に出る姿勢を、首の後ろの負担としてだけ見ると片手落ちです。前を通る胸鎖乳突筋の走行と引く方向を頭に入れておくと、なぜ前に引かれ続けるのかが整理できます。前後の両面から見るのがおすすめです。

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伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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