全身のRed flagを見落とさない。違和感を拾うための9つの着目点

Red flagは、ひとつの所見で決めつけない

外傷起因、急な発症、強い痛み、夜間痛、全身症状、広範囲な神経症状。Red flagは丸暗記するためのリストではなく、複数の違和感を重ねて危険な病態を見落とさないための視点です。

Red flagは「この項目が1つあれば即危険」と単純に扱うものではありません。大切なのは、いつもの運動器疾患らしくない情報が複数重なった時に、違和感を持てることです。

痛みを訴える患者さんを見た時、多くは筋骨格系の問題として対応できます。

しかし、すべてを「筋肉が硬い」「関節が動いていない」「姿勢が悪い」で説明してよいわけではありません。

外傷、感染、悪性腫瘍、血管性疾患、神経疾患、内科的疾患など、我々の守備範囲を超える病態が隠れていることがあります。

その入口で見るべきものがRed flagです。

まなぶ先生
まなぶ先生

Red flagって、項目を全部覚えておけば大丈夫ですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

覚えることも大事ですが、それ以上に「複数重なった時に違和感を持てるか」が大事です。単発の所見だけで過剰に怖がるのも、全部スルーするのも危ないですね。

Red flagを見る目的

Red flagは、目の前の患者さんを怖がらせるための言葉ではありません。

また、セラピストが診断名を確定するための道具でもありません。

目的は、自分たちが対応してよい運動器疾患なのか、それとも医療機関での評価を優先すべき状態なのかを見極めることです。

Red flagは「診断するための答え」ではなく、「立ち止まるための違和感」です。

特に重要なのは、Red flagが単独では弱いことがあるという点です。

たとえば夜間痛だけ、既往歴だけ、強い痛みだけで直ちに重篤疾患と決めることはできません。

しかし、複数の所見が同じ方向を向いた時は話が変わります。

その時に「いつもの腰痛や肩こりとは違うかもしれない」と感じられるかが、臨床の安全性に直結します。

全身で見る9つの着目点

全身のRed flagを見る時は、部位別の細かい疾患名に入る前に、まず大きな違和感を拾います。

以下のような項目が複数重なる場合は、普段の筋骨格系の痛みとして扱ってよいのかを一度立ち止まって考えたいところです。

01

外傷起因

転倒、交通事故、スポーツ外傷など、明確な外力がある場合は骨折や靱帯損傷、神経血管損傷を考えます。

02

急な発症

突然の激痛、突然の神経症状、急激な機能低下は、血管性・神経性・内科的な病態も含めて考えます。

03

非常に強い痛み

通常の運動器痛として説明しにくい強さ、冷汗を伴う痛み、姿勢で逃げられない痛みは注意が必要です。

04

時間経過と共に悪化

数日から数週間で明らかに悪化している場合、単純な自然経過と見なさず再評価します。

05

安静時痛・夜間痛

動かして痛いだけでなく、安静にしても強い、夜間に増悪する、寝返りでは説明しにくい痛みは要注意です。

06

全身症状

発熱、悪寒、寝汗、原因不明の体重減少、強い倦怠感などは感染や悪性疾患なども考慮します。

07

認知症様症状・構音障害

急な会話の違和感、ろれつが回らない、理解が悪い、意識がぼんやりするなどは神経学的評価を優先します。

08

広範囲な神経症状

単一神経では説明しにくいしびれ、両側性の脱力、歩行障害、膀胱直腸障害などは慎重に扱います。

09

重大疾患の既往

癌、糖尿病、免疫抑制、感染リスク、骨粗鬆症などの既往は、同じ痛みでも解釈を変えます。

臨床での見方

Red flagは「1つあったら即アウト」というより、背景、経過、症状の強さ、神経所見、全身症状がどのように重なっているかを見る視点です。

単独所見だけで判断しない

Red flagの難しさは、ひとつひとつの所見だけでは判断が難しいことです。

夜間痛がある人すべてに重篤疾患があるわけではありません。

癌の既往がある人の痛みが、すべて転移による痛みというわけでもありません。

強い痛みがあっても、筋骨格系の急性痛として説明できることもあります。

だからこそ、Red flagは「丸暗記したチェック項目」ではなく、「違和感の重なり」として扱います。

避けたい判断

夜間痛があるから、すぐに重大疾患だ。癌の既往があるから、今の痛みも必ず癌だ。

目指したい判断

夜間痛に加えて、体重減少、既往歴、進行性の悪化がある。これは普段の運動器痛として扱ってよいか再評価しよう。

Red flagは、過剰に怖がるためのものではありません。

しかし、見落としてよいものでもありません。

過剰反応と見落としの間で、どの情報がどれくらい重なっているかを丁寧に見る必要があります。

違和感が強くなる組み合わせ

Red flagは組み合わせで考えると、臨床で使いやすくなります。

たとえば、以下のような組み合わせでは、単純な筋骨格系の痛みとして流さず、医療機関での評価や対診を検討しやすくなります。

  • 高齢者の転倒後に、強い局所痛と荷重困難がある
  • 安静時痛や夜間痛に、原因不明の体重減少や発熱が重なる
  • 急な発症の頭頚部痛に、構音障害やふらつきが重なる
  • 腰下肢痛に、両側性の神経症状や排尿・排便の異常が重なる
  • 糖尿病や免疫抑制の背景に、発熱や局所の強い痛みが重なる
  • 時間経過とともに痛みが悪化し、通常の経過から外れている

もちろん、このリストだけで判断が完結するわけではありません。

ただ、複数のRed flagが同じ方向を向いている時は、普段の施術を続ける前に一度立ち止まる価値があります。

患者さんへの伝え方も大切

Red flagを拾った時に、患者さんへどう伝えるかも重要です。

「これは危ないです」「大変な病気かもしれません」と不安だけを煽る説明は避けたいところです。

一方で、違和感があるのに「たぶん大丈夫です」と軽く扱うのも危険です。

大切なのは、なぜ医療機関での確認が必要なのかを、落ち着いて説明することです。

説明の例

筋肉や関節だけで説明しきれない所見がいくつか重なっています。念のため、先に医療機関で確認してもらった方が安全だと思います。

Red flagを拾う力は、知識だけでなくコミュニケーションにも関わります。

患者さんを怖がらせず、それでも必要な行動につなげる説明力が必要です。

Red flagは、違和感を言語化するための視点

全身のRed flagを見る時、重要なのは疾患名を一発で当てることではありません。

外傷起因、急な発症、非常に強い痛み、時間経過と共に悪化する痛み。

安静時痛や夜間痛、発熱や体重減少などの全身症状。

認知症様症状、構音障害、広範囲な神経症状、重大疾患の既往。

これらが複数重なった時に、「いつもの痛みとして扱ってよいのか」と違和感を持てること。

その違和感を、患者さんの安全のために行動へつなげること。

それがRed flagを学ぶ意味だと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

Red flagは、当てはめチェックではなく違和感を拾うための視点です。複数重なった時に立ち止まれるかどうかが、患者さんの不利益を防ぐうえでかなり大切だと思います。

参考:筋骨格系診療におけるRed flag、腰痛・頚部痛の重篤病態スクリーニング、全身症状・神経症状の扱いに関するガイドライン・レビューを参照して整理しています。

Standardized Definition of Red Flags in Musculoskeletal Care

NICE: Low back pain and sciatica in over 16s

NCBI Bookshelf: Low Back Pain: Evaluation and Management

Merck Manual Professional: Evaluation of Neck and Back Pain

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