骨盤矯正は本当に必要なのか?「歪み」という説明をうのみにしないために
瀬谷崎コラム
「骨盤が歪んでいます」で、説明を終わらせない
骨盤矯正という言葉は、とても分かりやすく聞こえます。ただし、分かりやすい説明ほど、どこまで確かめられているのかを一度立ち止まって見た方がいいです。
骨盤の歪みだけで、痛みや不調を説明しきるのは危険です。大切なのは、言葉の分かりやすさではなく、評価の根拠、説明の誠実さ、反証された時に考えを修正できるかです。
整骨院や整体院の広告で、「骨盤の歪み」という言葉を見たことがある方は多いと思います。
腰痛、肩こり、頭痛、産後の不調、足の長さの違い、姿勢の崩れ。
いろいろな不調が、骨盤の歪みで説明されることがあります。
たしかに、身体の使い方や姿勢、左右差を見ることは大切です。
でも、「骨盤が歪んでいるから痛い」「矯正すれば治る」と言い切るなら、その説明にはかなりの責任があります。
少し辛口に言うと、分かりやすい言葉で、分かった気にさせる説明になっていないか。ここは業界全体で見直した方がいいと思っています。

まなぶ先生

瀬谷崎
科学と疑似科学を、簡単には線引きできない
まず大事なのは、「科学か、疑似科学か」を一発で線引きするのは難しいということです。
エビデンスがあるかないか。
論文があるかないか。
患者さんが良くなったと言っているかどうか。
どれも判断材料にはなりますが、それだけで完全に決めることはできません。
科学哲学では、昔から「どこまでが科学で、どこからが疑似科学なのか」という境界問題が議論されてきました。
「科学的です」と言った瞬間に科学になるわけではありませんし、「エビデンスが少ないから全部無価値」とも言い切れません。
だから、ラベル貼りだけでは不十分です。
骨盤矯正という言葉が出てきた時も、「それは全部ダメ」と雑に切るのではなく、その主張がどれくらい信頼できるのかを見ます。
何を歪みと呼んでいるのか。
どう測っているのか。
その歪みと症状の関係はどう確認したのか。
施術で何が変わったのか。
変わらなかった時に、説明を修正できるのか。
ここが大事です。
反証できない説明は、どんどん強く見えてしまう
科学的な主張では、反証可能性という考え方がよく出てきます。
簡単に言えば、「どんな結果なら、その考え方が違うと言えるのか」があるかどうかです。
たとえば、骨盤矯正をして痛みが減ったら「骨盤が整ったから良くなった」と言う。
痛みが減らなかったら「歪みが強すぎた」「生活習慣が悪い」「好転反応だ」と言う。
こうなると、どんな結果でもその理論が守られてしまいます。
良くなっても理論が正しい。良くならなくても理論が正しい。そういう説明は、一見強そうに見えますが、実は検証しにくい説明です。
臨床では、うまくいかないこともあります。
その時に、自分の考えを守るためだけに理由を後づけしてしまうと、次に進めません。
評価が違ったのか。
説明が足りなかったのか。
そもそも骨盤という見立てが症状と関係していなかったのか。
別の要因を見落としていたのか。
こうやって考え直せることが、臨床では大切です。
「歪み」の定義が曖昧だと、何でも説明できてしまう
骨盤の歪みという言葉は、便利です。
ただ、その便利さが問題になることがあります。
前傾、後傾、左右差、捻れ、開き、傾き。
いろいろな表現がありますが、それをどう測るのか、どれくらいの差なら問題なのか、症状とどう関係するのかが曖昧なまま使われることがあります。
さらに、骨盤まわりの触診や位置の評価は、検者間の一致が難しいとされるものもあります。
つまり、施術者によって「歪んでいる」の判断が変わる可能性があります。
| 確認したいこと | 曖昧なままだと起きること | 臨床で必要な視点 |
|---|---|---|
| 歪みの定義 | 何でも歪みとして説明できる | 何をどう測ったのかを明確にする |
| 症状との関係 | 歪みがあるから痛い、と飛躍しやすい | 他の所見と合わせて総合的に見る |
| 施術後の変化 | 良くなった理由を都合よく解釈しやすい | 痛み、動き、生活での変化を分けて見る |
| 反応しなかった時 | 患者さんや生活習慣のせいにしやすい | 見立てや介入を修正する |
骨盤まわりを評価すること自体が悪いわけではありません。
でも、曖昧な言葉を強い説明に変えてしまうと、患者さんに不要な不安を与えます。
「良くなった人がいる」は、根拠の一部でしかない
骨盤矯正を受けて楽になった、という人はいます。
それ自体を否定したいわけではありません。
人の身体は複雑ですし、手で触れられる安心感、説明を受けたことによる納得感、時間経過、運動量の変化など、いろいろな要素で症状は変わります。
だから、体験談は大事です。
ただし、体験談だけで「骨盤の歪みが原因だった」とまでは言えません。

まなぶ先生

瀬谷崎
臨床では、結果が出ることは大事です。
ただ、結果が出た理由を誤って理解すると、次の患者さんに同じ説明を強く使ってしまいます。
そして、うまくいかなかった時に修正できなくなります。
疑わしい主張を見分ける時のポイント
科学と疑似科学を完全に線引きすることは難しいです。
それでも、疑わしい主張にはいくつかの特徴があります。
骨盤矯正に限らず、施術や健康法を見る時は、次のような点を確認すると良いです。
- 用語の定義がはっきりしているか
- 測定や評価の方法が説明されているか
- うまくいかなかった時に、理論を修正できるか
- 既存の解剖学や生理学と大きく矛盾していないか
- 批判や再検証を受け入れる姿勢があるか
- 患者さんの不安をあおって通院や契約につなげていないか
ひとつ当てはまったから即アウト、という話ではありません。
ただ、複数重なるなら慎重に見た方がいいです。
特に「放置すると大変なことになる」「歪みがある限り治らない」といった強い説明には注意が必要です。
患者さんを不安にさせる説明は避けたい
「骨盤が歪んでいます」と言われると、患者さんは不安になります。
自分の身体が壊れているように感じる人もいます。
ずっと通わないと戻ってしまうのではないか、と感じる人もいます。
もちろん、身体の状態を説明することは必要です。
でも、その説明が患者さんの回復につながっているのか、不安を増やしているだけなのかは、施術者側が気をつけるべきです。
身体の左右差や姿勢の特徴を伝える時は、それが症状とどう関係していそうか、どこまで分かっていて、どこからは推測なのかを分けて伝える必要があります。
「歪みがあります」だけでは説明として足りません。
どの評価でそう見たのか。
その所見が今の症状にどう関係している可能性があるのか。
施術で何を変えたいのか。
患者さんが家で何をすればいいのか。
ここまで伝えて、初めて臨床の説明になります。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、患者さんの身体をひとつの言葉で片づけないことを大切にしています。
腰痛なら腰だけ。肩こりなら肩だけ。歪みなら骨盤だけ。
そういう単純な説明で済ませると、分かりやすい反面、見落とすものが増えます。
問診をして、動きを見て、必要な検査をして、生活で何に困っているかを聞く。
医療機関での確認が必要な可能性があれば、その可能性も伝える。
その上で、施術や運動、セルフケアを考えます。
分かりやすい説明をすることは大事です。ただし、分かりやすさのために不確かなことを断定しない。ここを大切にしています。
こんな説明を受けて不安になった方へ
- 骨盤の歪みが原因と言われたが、根拠がよく分からない
- 毎回「また歪んでいる」と言われて不安になっている
- 矯正を続けないと悪くなると言われた
- 痛みやしびれが長引いていて、評価を受け直したい
- 姿勢や左右差と症状の関係を分かりやすく説明してほしい
強い痛みが急に出た、しびれや脱力が強い、排尿・排便の異常がある、発熱や外傷を伴う、安静にしていても強い痛みが続くなどの場合は、まず医療機関での確認が必要になることがあります。
ラベルより、見直せる姿勢が大事
骨盤矯正という言葉を使うかどうかよりも、もっと大事なことがあります。
その説明は反証できるのか。
うまくいかなかった時に見立てを修正できるのか。
患者さんを不安にさせすぎていないか。
既存の解剖学や生理学と大きくズレていないか。
ここを見続けることです。
臨床は、いつも不確実です。
だからこそ、強い言葉で決めつけるより、評価し、説明し、必要なら修正する。
その姿勢の方が、患者さんに対して誠実だと思っています。

瀬谷崎
参考
- Stanford Encyclopedia of Philosophy. Science and Pseudo-Science.
Stanford Encyclopedia of Philosophy - Pseudoscience and the Demarcation Problem.
Internet Encyclopedia of Philosophy - Cooperstein R, Hickey M. The reliability of palpating the posterior superior iliac spine: a systematic review.
PMC - Goode A, et al. Three-Dimensional Movements of the Sacroiliac Joint: A Systematic Review of the Literature and Assessment of Clinical Utility.
PMC













