座ったときだけ出る殿部のピリピリしたしびれ。典型テストが陰性の難治例で内科系除外をどう進めるか
セラピスト向け
運動器の型に当てはまらないしびれ、除外の順番
座っているときにだけ殿部のピリピリしたしびれが出て、殿部への直接の刺激ではむしろ悪化する。梨状筋症候群を疑っても、典型のテストは陰性。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、運動器の型に合わない難治例の除外の進め方を考えます。
相談されたのは50代女性の症例です。4月下旬から殿部のしびれが出はじめ、座って数分たつときつくなり、座っていられなくなります。股関節や腰椎をどう動かしても誘発されず、症状が出るのは座位のときだけでした。
経過には特徴がありました。腰部周囲の筋へのリラクセーションで症状は落ち着き、6時間の運転にも耐えられるところまで一度は回復しています。ところが殿部への鍼で強く悪化し、回復後にも殿部へのストレッチなどの介入で再び悪化。相談の時点では、2分ほどしか座れない状態でした。
- 誘発されるのは座位のみ。股関節・腰椎の動作では再現されない
- 症状の質は深い痛みではなく、表面のピリピリした感覚
- 腰部周囲への施術では改善する一方、殿部への直接刺激で2回悪化している
- 圧で誘発されるのは坐骨結節の周囲で、殿部の上のほうでは出ない
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎絞扼系の典型テストがそろって陰性、という情報の重み
殿部のしびれと座位での悪化なら、まず候補に挙がるのは梨状筋症候群やDGS(深殿部症候群)です。典型であれば、梨状筋の伸長テストや収縮テストで症状が再現されます。本例はどちらも陰性でした。伸ばされて硬い感じは出るものの、それは普段しびれを感じている場所とは別でした。
圧で誘発される位置も典型と合いません。再現されるのは坐骨結節の周囲で、梨状筋の高さより下です。後ろのポケットの持ち物やクッションといった物理的な圧迫の線も確かめましたが、はっきりした変化はありませんでした。梨状筋まわりの検査の選び方はフェアテストと優先順位の記事で扱っています。
テストがひとつ陰性でも、仮説はすぐには捨てられません。ただ、伸長・収縮・圧痛の位置までそろって典型から外れるなら、運動器の型に当てはまっていないこと自体を、ひとつの所見として扱えます。
誘発条件の一貫性を、所見として扱う
本例には、経過を通じて崩れない傾向がありました。症状が出るのは座位のときだけで、動作では誘発されず、就寝中にも出ない。この一貫性です。動作で再現できない症状は、力学的なストレスとの結びつきが弱い可能性を残します。
症状の質が表面のピリピリした感覚だったことを合わせると、神経の症状か、内科系疾患による関連痛かという二つの線が残ります。消化器の疾患で殿部に関連痛が出るとされる例もあり、座位で強まり動作では変わらないという出方は、それと矛盾しません。
50代という年齢も、大腸のがんが増えはじめる世代と重なります。あくまで除外しておきたい可能性のひとつという位置づけですが、確かめないまま殿部への施術を重ねる選択は取りにくくなります。関連痛の考え方は内臓由来の関連痛の記事を、誘発条件を評価に使う視点は部位の一貫性の記事をどうぞ。
レッドフラッグは一度に全部そろえる必要はありません。本例では、次の項目を順に確かめていきます。
- 体重減少:最近痩せたという自覚は、いまのところなし
- 微熱:未確認。日々の体温は測っていない
- 夜間痛:就寝中に症状は出ない
- 朝の症状:朝に強く、立ったまま朝食をとった日がある(要確認項目)
- 家族の癌歴:未確認
- 腹部の症状:食事は問題なくとれている
内科系の問診は、段階を踏んで進める
確かめたい項目が並んでも、「がんが心配です」と切り出せば患者さんの不安をあおるだけです。日常の体調の話から始めて、確認の水準を少しずつ上げていきます。
- 体重と食事最近痩せていないか、食欲や食事は普段どおりか。日常会話の高さで聞けます。
- 微熱続く微熱がないか。体温を測る習慣がなければ、数日測ってもらいます。
- 健診歴直近の健康診断を受けているか、結果に指摘はなかったか。
- 家族歴ご家族に癌の既往がある方はいないか。本例でも未確認のまま残っていた項目です。
皮膚の状態の確認も候補に挙がりました。乳がんで患部表面がカサカサして赤くなる例があるとされます(確立した根拠のある方法ではありません)。直接肌を見るのが難しい部位なので、ご自身で気になる変化がないか確かめてもらう形が現実的です。
危険なものの除外が済んでから、施術の続きへ
病態がつかめていないときの原則は、危険なものからの除外を先に置くことです。運動器の典型パターンに合致せず、誘発条件が座位に限られ、朝の症状の強さのような要確認項目も残っている。この条件がそろったら、内科系のスクリーニングが施術より先になります。
症状が思わしくなければ内科の受診を勧め、大丈夫だと判断できる材料がそろってから、施術の続きを組み立てます。レッドフラッグを実際の症例でどう拾ったかは、実例で学ぶレッドフラッグの記事でも扱っています。
瀬谷崎





