毎回痛む場所が変わる背部痛。部位の一貫性と身体知覚から考える評価推論
セラピスト向け
その背中の痛みは、なぜ場所が転々と変わるのか
初回は正中寄り、次は明らかに右、介入するとまた少しずれる。しかも本人はその変化をほとんど自覚していない。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった背部痛の相談をもとに、この所見をどう考えるかを掘り下げます。
相談された症例は、発症から数か月の背部痛です。病院の画像検査では問題が見つからず、痛みを誘発する動き自体は初回から一貫していました。ところが痛む部位だけが、施術のたびに、時には施術の最中にも転々と動きます。
施術者の目には明らかに場所が違うのに、患者さんの側にはさっきと違うという感覚がほとんどない。この食い違いをどう扱うかが論点になりました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎部位の一貫性は、痛みの性質を推し量る物差しになる
侵害受容性の典型的な痛み、つまり組織への刺激が中心にある痛みであれば、痛む部位は基本的に一貫するはずです。損傷した組織そのものが数日単位で移動することは、さすがに考えられないからです。部位が動くかどうかは、それ自体がひとつの検査所見のような意味を持ちます。
- 痛みを誘発する動きは初回から一貫している
- 痛む部位は正中から右へ、介入をはさんで転々と変わる
- 場所が変わったことへの本人の自覚が乏しい
侵害受容性の典型であれば部位は一貫するはず。部位が転々と変わり、しかも本人の自覚が乏しい場合は、組織の問題だけで説明せず、身体知覚異常(自分の身体の状態を感じ取る働きの乱れ)の関与を候補に加えます。
動かしていない部位は、脳の中で曖昧になりやすい
身体知覚異常というと痛みが長期化した症例をまず思い浮かべますが、それだけではありません。脳には身体の各部位に対応する体部位再現領域と呼ばれる部分があり、普段あまり動かさない部位ではこの領域が狭小化し、疼痛の範囲が曖昧になりやすいとされています。
ここで注意したいのが運動習慣との関係です。定期的に身体を動かしている方でも、体幹の伸展をほぼ腰椎と頸椎だけで行っていたり、回旋をほぼ股関節で行っていたりすれば、胸椎そのものはあまり動いていないことがあります。
運動習慣があるという申告だけで知覚の問題を候補から外さず、どの部位を実際に動かせているかまで分けて考えたいところです。
身体知覚異常は痛みに関与することもあれば、しないこともあるとされます。心因性と言い換える話ではなく、知覚の側から症状を説明できるかを検討するひとつの枠として使います。
痛みを抑える働きが弱まると、広くぼやけて感じられる
もうひとつの説明として、オンセル・オフセル(疼痛の促進・抑制に関わる細胞)のバランスという視点があります。オフセルの活動が弱まると痛みを抑制する機能が低下し、痛みの輪郭がぼやけて実際より広く感じられることがあるとされています。
感じている範囲が広く曖昧であれば、施術者の目には場所が変わったと映っても、本人の中ではほぼ同じ痛みとして知覚されている可能性があります。自覚が乏しいという所見とも矛盾しません。
二点識別覚検査で左右差を確かめる
知覚の側を疑うなら、二点識別覚検査(皮膚上の2点に同時に触れ、別々の点として識別できる最短距離を調べる検査)で確かめてみる選択肢があります。進め方は次のとおりです。
- 症状のない側で基準を測る痛みのない側の同じ高さの部位で、2点を識別できる距離を測ります。
- 症状側で同じ計測を行う痛みを感じている側で同様に測り、識別できる距離を比べます。
- 左右差の意味を考える症状側だけ識別距離が明らかに広ければ、その部位の知覚が曖昧になっている可能性を支持する材料になります。左右差がなく、たまたま片側に症状が出ている可能性も残して解釈します。
背部の二点識別覚には確立したカットオフ値がなく、検査自体の信頼性も高くないとされます。それでもリスクの低い検査なので、左右差という相対比較に限れば試す価値はあります。単独で確定させず、他の所見と重ねて判断します。
介入の候補は、その部位をよく動かすこと
知覚の側から説明がつきそうなら、介入の第一候補は当該部位、この症例なら胸椎領域をしっかり動かす運動です。動かすことでその部位からの感覚情報が増え、曖昧になっていた知覚が変わっていくことを狙います。
運動への否定的な印象が少ない方であれば、運動中心の進め方は受け入れられやすく、スムーズに改善する可能性もあります。中枢性感作が疑われる症例で受動的介入から能動的介入へ移していく考え方は、別の記事で扱っています。
また、患者さん自身に伝えるときは、身体の感じ方と痛みの関係を平易に書いた記事の言葉づかいが参考になるはずです。
矛盾する所見を、推論の材料に変える
痛む場所が転々と変わるという所見は、一見すると評価を混乱させます。しかし部位の一貫性という物差しを持っていれば、侵害受容性の典型から外れているという情報として活かせます。組織だけを見ず、知覚の側からも説明を試みる。その幅が評価の質を支えます。
瀬谷崎





