慢性痛で使う質問紙の読み方。カットオフ値と臨床所見を重ねる
セラピスト向け
数値は材料、決め手は臨床所見
破局的思考、運動恐怖、中枢性感作、身体イメージの変容。慢性痛の心理社会面を測る質問紙は種類が増えましたが、点数の扱い方を誤ると、評価にも患者さんとの関係にも悪く働きます。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスでの検討をもとに、質問紙の選び方と読み方、そして質問紙に頼らない臨床の見方をたどります。
もとになった相談は、10年来の腰痛で他院を渡り歩いてきた患者さんのケースです。変形やヘルニアのせいだと言われ続けてきた経緯があり、痛みへの反すう、拡大視、無力感といった破局的思考が強く疑われます。この破局的思考は、三つの要素で捉えられます。
- 反すう|痛みを頭の中で繰り返し考え続ける状態
- 拡大視|放っておけば治る程度の痛みを「もう治らない」と極端に大きく捉えること
- 無力感|「変形のせい」「年のせい」と思うほど強く出やすい
この心理面をどう評価し、どう介入につなぐかという検討の中で、質問紙の使い方が具体的に挙がりました。
まず道具の顔ぶれ
- PCS(ピーシーエス・痛みの破局的思考尺度): 反すう・拡大視・無力感を測る
- TSK(ティーエスケー・運動恐怖の質問紙): 動くことへの恐れの強さを測る
- CSI(シーエスアイ・中枢性感作インベントリー): 感作に関連する症状の広がりを測る
- フレバック系(身体知覚の質問紙): 身体イメージの変容を測る。腰はフレバック、膝はフレカク、肩はフレサクと、部位ごとに版がある
いずれも点数で結果が出るため、一見それだけで判定できそうに見えます。検討で確認されたのは、その受け取り方への注意でした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎カットオフ値だけで判定に飛ばない
カットオフ値は、その基準で切ると見分けの成績が良かったという統計的な区切りで、個々の患者さんの確定判定ではありません。しかも具体的な値は研究や版によって異なります。
カンファレンスでは目安として、PCSでおよそ30点、TSKでおよそ37点、CSIでおよそ40点といった数字が話に出ました。ただし文献や翻訳版で変わりうるので、固定の合格ラインとして扱わないほうが安全です。カットオフ値以下でもその人にとっては異常なことがあり、明らかに超えていてもその人の中では正常な範囲ということもあります。
この性質はカットオフ値とROC曲線で扱ったとおりで、質問紙でも同じです。点数が高ければ、問診での言葉の使い方、痛みの広がり方、中枢性感作を疑わせる過敏さなどの所見と突き合わせます。逆に所見が乏しいのに点数だけ高いときは、質問の受け取り方や回答時の状況も考えます。
初診でいきなり出さない
心理面の質問紙は、渡し方を誤ると「痛みを気持ちの問題にされた」という受け取りになり、信頼関係を損ねます。特に、他院で説明に納得できなかった経験を持つ患者さんには慎重に。
全員へ一律に配れば偽陽性が増え、本当は関係のない人まで疑わしく見えてしまう心配もあります。まず身体の評価と施術で関係を作り、心理社会面を扱う理由を共有できてから導入する、という順序が確認されました。
なぜ痛みが強く出るのか、経路で捉える
まなぶ先生
瀬谷崎
教子先生
瀬谷崎質問紙の代わりになる臨床の見方
身体イメージの変容は、質問紙を使わなくても臨床的に確かめられます。挙がった具体的な手技は次の三つです。
- 2点識別覚: 触れた2点の間隔を実際より長く申告する傾向が出やすい。左右差も手がかりになる
- 部位当てテスト: 対象部位を目を閉じてもらって触れ、どこを触っているか当ててもらう。変容があると大きく外す
- 関節位置覚: まっすぐ伸ばしたつもりの肘や膝が曲がっている、指定した角度と実際がずれる、といった食い違いを見る
これらの所見は身体の感じ方と痛みの関係で扱った内容とも重なります。道具がなくても評価は始められますし、問診で活動量の少なさや長期の経過を聞き取るだけでも、当たりはつけられます。
評価した後の出口
評価は介入につながって意味を持ちます。破局的思考や感作が疑わしいときの方向は、痛みの神経生理を伝えるPNE(ピーエヌイー・痛みの神経生理学的教育)で「損傷イコール痛みではない」ことを共有し、能動的な運動療法へ比率を移しながら、ペーシング(活動量の配分)を意識して少しずつ活動を広げていくことです。
徒手介入は運動療法のきっかけ程度に位置付け、悪化リスクが上回るならあえて行わない判断もあります。
他院を渡り歩いてきた患者さんへの対応として、前医の批判をしないこと、共感しすぎて依存の受け皿にならないこと、事実ベースの傾聴に留めることも併せて確認されました。評価の道具より先に、この土台が要ります。
質問紙は、対話の入り方まで含めて設計する
PCS・TSK・CSIといった質問紙は、慢性痛の心理社会面を扱う強力な道具です。ただし、カットオフ値は材料であって判定機ではなく、値そのものも版によって変わる。出すタイミングを誤れば関係を損ねます。点数と臨床所見を重ね、渡す順序まで設計して初めて、道具として働きます。
瀬谷崎Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011.
Hasenbring MI, Verbunt JA. Fear-avoidance and endurance-related responses to pain. Clin J Pain. 2010.





