痛みが怖いと動けない?恐怖回避モデルを今の臨床でどう読むか
瀬谷崎コラム
痛みが怖い人は、必ず動かないのか
恐怖回避モデルは、痛みが長引く仕組みを考える上で有名なモデルです。ただし、痛みへの恐怖があるから必ず回避する、という単純な話ではありません。
痛みへの恐怖は、回避行動といつも一直線につながるわけではありません。仕事、家族、趣味、責任感など、他の大切な目標との葛藤の中で行動は決まります。
痛みがあると、動くのが怖くなることがあります。
また痛くなったらどうしよう。
悪化したらどうしよう。
このまま治らなかったらどうしよう。
こうした不安や恐怖は、とても自然な反応です。
臨床では、痛みそのものだけでなく、「痛みに対する恐怖」や「避ける行動」が回復に影響することがあります。
その考え方として有名なのが、恐怖回避モデルです。
ただ、最近の理解では、ここをもう少し丁寧に見た方がいいとされています。
痛みが怖いから動かないだけでは、人の行動は説明しきれません。


まなぶ先生

瀬谷崎
古典的な恐怖回避モデルの流れ
恐怖回避モデルは、痛みが慢性化する流れを説明するモデルとしてよく使われてきました。
ざっくり言うと、痛みを危険なものとして強く解釈する。
動くことが怖くなる。
動作や活動を避ける。
活動量が減る。
身体機能や自信が落ちる。
さらに痛みや不安が強くなる。
こうした悪循環を説明する考え方です。
「痛いから動かない」ではなく、「痛みを危険と解釈し、怖くなり、避けることで生活が狭くなる」という流れを見るモデルです。
このモデルは、痛みを身体だけの問題として見ないために、とても役立ちます。
特に、痛みが長引いていて、動くことへの恐怖が強く、生活範囲が狭くなっている人では、大切な視点になります。
ただし、モデルは現実そのものではありません。
人の行動は、モデルよりずっと複雑です。
恐怖があっても、必ず避けるとは限らない
2016年に、Vlaeyenらは恐怖回避モデルについて改めて整理しています。
そこで重要なのは、痛みに関連する恐怖が必ずしも回避行動と一直線につながるわけではない、という点です。
たとえば、腰が痛くて動くのが怖い。
でも、子どもを迎えに行かなければならない。
仕事を休めない。
大切なイベントに参加したい。
趣味のスポーツを続けたい。
こういう時、人は痛みを避ける目標と、別の大切な目標の間で揺れます。
痛みに関連する恐怖回避は、痛みを避けたい目標と、仕事・家族・趣味など別の個人的目標が競合する状況で起こるものとして考える必要があります。
つまり、「怖いなら避けるはず」と決めつけると、患者さんの行動を見誤ります。
怖くても動いている人がいます。
痛みを我慢して頑張りすぎている人もいます。
逆に、痛みの強さはそこまででも、過去の経験から強く避けている人もいます。
ここを丁寧に聞く必要があります。
患者さんは、複数の目標を同時に持っている
臨床でよくあるのは、患者さんの中に複数の目標があることです。
痛みを悪化させたくない。
でも仕事は続けたい。
家事もしたい。
子どもを抱っこしたい。
運動も再開したい。
人に迷惑をかけたくない。
これらは全部、その人にとって本当に大事なことです。
痛みを避けることだけが目標ではありません。
| 患者さんの目標 | 起こりやすい葛藤 | 臨床で確認したいこと |
|---|---|---|
| 痛みを悪化させたくない | 動くことを避けすぎる | どの動きが怖いのか、どこまでなら許容できるか |
| 仕事を続けたい | 無理をして悪化させる | 仕事内容、休憩、姿勢、負荷の調整 |
| 家族の役割を果たしたい | 痛くても我慢して動く | 代替動作や周囲のサポートを使えるか |
| 運動や趣味を再開したい | 怖くて再開できない、または急に戻しすぎる | 段階的な再開計画を作れるか |
このように見ると、患者さんの行動は「怖いから避けている」だけでは説明できません。
何を守りたいのか。
何を失いたくないのか。
どの目標がぶつかっているのか。
そこまで見ると、介入の方向性が変わります。
怖がらせない説明と、無理をさせない計画
痛みへの恐怖がある人に対して、ただ「怖がらなくていいですよ」と言ってもあまり意味がありません。
怖い理由があります。
過去に痛みが悪化した経験があるかもしれません。
医療機関で強い説明を受けたかもしれません。
動いた翌日に痛みが増えた経験があるかもしれません。
だから、まずはその怖さを否定しないことが大事です。
その上で、どの動きは避けた方がよく、どの動きは少しずつ慣らせるのかを一緒に見ます。
痛みが怖いのは自然です。ただ、全部の動きを避けると生活が狭くなることがあります。痛みの出方や残り方を見ながら、必要な動きから少しずつ戻していきましょう。
一方で、頑張りすぎている人には逆の説明が必要です。
怖いけれど仕事だから動く。
家族のために無理をする。
こういう人に「もっと動きましょう」と言うと、かえって負担が増えることがあります。
その場合は、動くことより、休むこと、頼ること、負荷を下げることが介入になります。

まなぶ先生

瀬谷崎
介入は、生活上の目標から逆算する
恐怖回避を考える時、介入の目的は「怖さをゼロにすること」ではありません。
痛みがあっても、その人が大事にしている生活へ少しずつ戻れるようにすることです。
仕事に戻る。
買い物に行ける。
子どもを抱っこできる。
階段を上れる。
趣味を再開できる。
こうした具体的な目標から逆算すると、運動やセルフケアの意味が変わります。
ただ筋肉を鍛えるのではなく、患者さんの生活で必要な動きを取り戻すための練習になります。
「痛みを避ける」だけでなく、「何を取り戻したいか」を一緒に確認します。そこが分かると、段階的に戻すべき動きや負荷が見えやすくなります。
これは、患者さんを根性論で動かす話ではありません。
怖さを理解しながら、生活上の目標に向けて、安全に段階を作る話です。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、痛みへの恐怖を「気にしすぎ」と片づけないようにしています。
何が怖いのか。
どの動きで不安が出るのか。
過去にどんな経験があったのか。
反対に、痛くても無理して続けていることはないか。
仕事や家庭で避けられない動きはあるか。
こうしたことを聞いた上で、施術、運動、セルフケア、生活上の工夫を考えます。
痛みが怖い人を、ただ動かすわけではありません。怖さを否定せず、その人の生活上の目標と照らし合わせながら、戻す動きを一緒に決めます。
こんな方は一度ご相談ください
- 痛みが怖くて、動く範囲が小さくなっている
- また悪化するのではと不安で運動を再開できない
- 仕事や家事のために、痛くても無理して動いている
- 休んだ方がいいのか、動かした方がいいのか分からない
- 痛みと生活上の目標を整理しながら回復したい
強い痛みが急に出た、しびれや脱力が強い、発熱や外傷を伴う、安静時にも強い痛みが続く、排尿・排便の異常がある場合などは、まず医療機関での確認が必要になることがあります。
怖さだけで、人の行動は決まらない
痛みへの恐怖は、回復に影響します。
でも、恐怖があるから必ず避けるわけではありません。
人には、痛みを避けたい気持ちと同時に、守りたい生活があります。
仕事、家族、趣味、自分らしさ。
そういう目標と痛みへの恐怖がぶつかる中で、行動は決まります。
だから、恐怖回避モデルを使う時は、患者さんを「怖がっている人」とだけ見ないことです。
何を避けたいのか。
何を取り戻したいのか。
その両方を聞くことが、臨床では大切だと思っています。

瀬谷崎
参考
- Vlaeyen JWS, Crombez G, Linton SJ. The fear-avoidance model of pain. PAIN. 2016.
PubMed - The fear-avoidance model of pain. PAIN full text.
PAIN - Claes N, et al. Competing goals attenuate avoidance behavior in the context of pain. J Pain. 2014.
Maastricht University - Zale EL, Ditre JW. Pain-Related Fear, Disability, and the Fear-Avoidance Model of Chronic Pain. Curr Opin Psychol. 2015.
PMC













