休むことに罪悪感がある患者。忍耐回避モデルで考える患者教育の向き
セラピスト向け
患者教育には、逆向きの型もある
痛みが怖くて動けなくなる恐怖回避モデルは、広く知られるようになりました。ではその逆、痛くても無理をして働き続け、休むことに罪悪感を覚えるタイプの患者さんはどうでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に出た相談をもとに、忍耐回避という視点と患者教育の向きを考えます。
相談のもとになった患者さんは、外側上顆炎(テニス肘)と診断された方です。障害者支援系の専門学校を出て、いまは派遣で軽作業に就いています。米の運搬やピッキング、ライブ会場でのチラシ配りなど、仕事の内容は日替わりです。肘の痛みがあり、重い物を持つ動作や字を書く動作で悪化する、という訴えでした。
ところが、疼痛誘発検査や確認検査では症状が変化せず、動作時痛は乏しい。一方で常時じんわりとした痛みがあり、夜間や一人でいる時間に痛みを強く感じる、という経過です。運動療法を続けてよいか、コミュニケーションで気をつけることはあるか。オンラインカンファレンスでの検討を追っていきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎イリタビリティが低ければ、運動療法は続けやすい
疼痛誘発検査で症状が再現されず、動作しても痛みが増悪しない。これはイリタビリティ(刺激感受性)が低い状態と考えられます。この場合、運動療法は続けやすく、むしろ「動いても悪化しなかった」という経験そのものが、痛みの解釈を良い方向に変える材料になり得ます。
痛いと感じることは悪化のサインだ、という受け取り方に傾くより、多少痛くても普段どおりだと思えたほうが、その後の経過に効いてくることが多い印象です。
運動で痛みが強く増悪する場合や、動くことへの恐怖感が強い場合は、いったん中止して負荷や種目を見直します。判断は、痛みの有無ではなく増悪するかどうかで見るのが目安です。なお前腕の筋は押せばどこでも痛むことが多く、圧痛の有無だけを手がかりにしすぎないほうがよさそうです。
恐怖回避モデルのおさらいと、その逆のタイプ
痛みを恐れて動作を避け、活動量が落ち、廃用が進んでさらに痛みに敏感になる。この悪循環が恐怖回避モデルで、対応する患者教育は「動いても大丈夫」を経験してもらう方向になります。
挙がったのは、その逆の可能性でした。痛みがあっても無理をして頑張り続け、休息が取れない。休むことに罪悪感を覚える。こうした反応は、耐え続けてしまうという意味でエンデュランス(忍耐)型と呼ばれます。
もしこのタイプに「動いても大丈夫」と伝えると、かえって頑張らせてしまいかねません。その場合に必要な患者教育は、逆向きの「休んでも大丈夫」になります。
患者教育は一方向ではありません。避けるタイプには「動いても大丈夫」、耐え続けるタイプには「休んでも大丈夫」。同じ慢性的な痛みでも、教育の向きが正反対になることがあります。
見分けの材料は、説明モデルの聴取
どちらのタイプかを見分ける材料は、患者さん自身が痛みをどう捉えているかの聴き取りです。検討では、説明モデルを次の3つの要素で聴くという見方が示されました。
- 痛みをどんな言葉で描写するか
- その痛みの原因を、本人が何だと思っているか
- その痛みが生活の中でどんな機能的な意味を持っているか
たとえば、痛みがあることで初めて休む理由ができる、周囲に気遣ってもらえる、といった意味が背景にあることもあります。
実際の聴き方も具体的に挙がりました。痛いときは休むタイプか、それとも頑張ってしまうタイプか。休んでいる時に、ゆっくり休めてラッキーと思えているのか、それとも焦りや不安が増してくるのか。
この患者さんは、一人でいると不安が増してくる、休むと罪悪感がわく、と話していたそうです。学生時代も、勉強への不安から痛くても徹底的にやってしまう傾向があったといいます。
教子先生
瀬谷崎反証らしきデータが出たときに、モデルに合わせて解釈を寄せるのも、逆にモデルをすぐ手放すのも、どちらも危うさがあります。この症例では、休んだ期間の条件(本人の受け取り方・周囲の状況)まで戻して考えることで、留保付きの見立てに落ち着きました。
動作そのものの修正も並行する
心理面に寄せすぎないことも確認されました。字を書く動作の負担が実際の力学的負荷に見合わないなら、書くときの力の入れ方が過緊張になっていないか、荷物の持ち方に無理がないか、実際にその場で再現してもらって観察する余地があります。
字を書く様子や物の持ち方を実演してもらい、力みが見えれば書き方や持ち方の修正で変わることもあります。この患者さんでは背屈の可動域が左右で大きく違っていたため、自動介助での背屈運動もあわせて検討されました。
- 疼痛誘発検査と増悪の有無でイリタビリティを見積もる
- 低ければ運動療法は続け、「動いても悪化しなかった」経験を積んでもらう
- 説明モデル(描写・原因の捉え方・機能的な意味)を聴き取り、避けるタイプか耐えるタイプかの見当をつける
- 耐えるタイプが疑わしければ「休んでも大丈夫」の教育と、有酸素運動など全身の運動療法を検討する
- 反証らしき情報が出たら、条件をそろえ直してから見立てを更新する
- 日常動作の過緊張は実演で確認し、動作修正も並行する
教育の向きは、患者の反応パターンで選ぶ
動けなくなるタイプと、頑張りすぎるタイプ。どちらも慢性的な痛みの背景になり得ますが、かける言葉は正反対です。
検査で再現できない痛みに出会ったら、イリタビリティで運動療法の可否を見積もりつつ、患者さんの痛みの捉え方を聴き取り、教育の向きを選ぶ。断定を急がず、留保を残しながら次の一手を決める。この二段構えが、検討の落としどころでした。
瀬谷崎Hasenbring MI, Verbunt JA. Fear-avoidance and endurance-related responses to pain: new models of behavior and their consequences for clinical practice. Clin J Pain. 2010.
Vlaeyen JWS, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain. Pain. 2000.
検討の場で扱われた症例。複数の治療院を経て来院した慢性腰痛の患者で、可動域改善のストレッチが自分に合うという確信が強く、運動療法は「基礎ができるまでは早い」と後ろ向きだった。担当者は早期からの運動を勧めたいが、すり合わせに難儀していた。
議論では、無理に運動を促すデメリットとして、プラセボ的な手応えや報酬系による継続動機が損なわれる点、運動翌日の筋肉痛を症状悪化と取り違えて運動そのものを忌避してしまう点が挙がった。一方で患者の希望に合わせ続けると、いいなりの施術に寄り、他の指導も届きにくくなるという指摘も出た。
固定観念の強さには幅があり、関係性を築きながら受け入れの時機を待つ判断、時に説得を保留する判断も選択肢に含めた。患者の信念をどう扱うかという、本記事の患者教育の考え方をそのまま臨床で検討した例です。





