中枢性感作がある患者への運動療法。受動的介入から能動的介入へ移す理由
セラピスト向け
感作が疑わしいなら、能動の割合を増やす
押しても揉んでも、なかなか変わらない。痛みの増幅が中枢側で起きている患者さんには、受動的な介入だけでは頭打ちになりやすいものです。中枢性感作が疑われる症例に運動療法をどう組み込むか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスでの検討をもとに、具体的な進め方を確認します。
中枢性感作そのものの概念は中枢性感作とは何かで扱いました。この記事はその続きにあたる、では現場で何をするか、の部分です。実際の検討をもとに進めます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎きっかけになった症例|両下肢の腫れぼったさ
70代後半の女性。主訴は両下肢の違和感で、しびれや痛みというより「腫れぼったい」感覚だといいます。脊柱管狭窄症の既往があり整形外科に通院中。医師からは痛みは取れにくいと言われ、手術も勧められているものの、神経を切って車椅子になるリスクを避けたい、現状維持ができればいい、という希望でした。
感覚検査ではL4・L5・S1領域を確認し、足趾全体に両側性の感覚鈍麻。視診では腫脹も静脈瘤もなく、大腿動脈の拍動は良好、という相談です。
まず器質的な原因や循環障害を確認したうえで、実際には腫れていないのに腫れぼったく感じる点が話題になりました。症状の罹患期間が長く、両側性で、感覚鈍麻を伴う。こうした像は、中枢性感作の関与も考えたいところです。
過去のカルテには膀胱直腸障害の記載もありましたが、直近で排尿の異常は訴えておらず、そこは推測にとどめる、という慎重な扱いでした。
なぜ感作があると、運動療法の価値が上がるのか
中枢性感作が生じている患者さんでは、痛みの増幅に加えて、関節位置覚の誤差や、実際の腫脹がないのに「腫れぼったい」と感じる違和感が出やすいことが知られています。
まなぶ先生
瀬谷崎だとすれば、外から加える刺激よりも、自分で動くことを通じた入力のほうが変化を期待できます。運動そのものに痛みを和らげる仕組みがあることは、EIH(イーアイエイチ・運動誘発性鎮痛)としても知られています。受動的介入で下地を作り、能動的介入で変化を定着させる。その場で共有されたのは、この役割分担でした。
進め方|割合を移す、強度は軽くから
- マッサージ・鍼・電気などの受動的介入は続けつつ、時間配分を運動療法へ寄せていく
- 強度は軽くから。痛みを強く誘発する負荷で始めると、かえって過敏さを助長し得る
- スクワットなど荷重種目が難しければ、非荷重の下肢運動や上肢の運動から始めてよい
- 術後の患者さんでも、種目を選べば運動療法は可能。種目は問わないとされる
- 「腫れぼったさ」「違和感」の変化を、痛みと並ぶ指標として聞き取る
この症例のように高齢で足元が不安定なら、まずは下肢全般の筋力改善を狙います。年齢とともにサルコペニアで筋力が落ちるので、狭窄症の進行予防と合わせて、その維持自体が治療院ベースでできる現状維持になります。
胸腰椎を強く伸展させる種目は、高齢者では圧迫骨折のリスクがあります。伸展方向の運動を入れたい場合も、可動域の端まで強く反らせる種目は避け、負荷の小さい範囲、強度のごく低いものから設計します。
検査の読み方も変わる
感作が疑われる状態では、検査の解釈にも補正が要ります。とんとんの検査体系は再現痛の増減を指標にしますが、痛みが中枢側で増幅されていると、押圧に対する反応が機械的な因果として読みにくくなるからです。
再現痛が当てになる状態かをまず見極める。この前提は再現痛を指標にした確認のやり方でも、通用しにくい場面として挙げたとおりです。検査で白黒つけにくい症例ほど、生活の中の変化、動ける時間や違和感の頻度を指標に切り替えます。
感作を疑うことと、器質的な原因の評価をやめることは違います。アロディニアのような明らかな過敏さがあっても、並行してレッドフラッグと器質的要因の確認は続けます。上の症例でも、狭窄症の既往や膀胱直腸障害の記載があれば、まずそこを丁寧に確かめてから運動療法を組みます。
受動で下地を作り、能動で定着させる
中枢性感作が疑われる患者さんへの方針は、受動的介入を土台にしつつ、運動療法と有酸素運動の割合を増やしていくことです。強度は軽くから、種目は患者さんの状態に合わせて、非荷重や上肢からでも始められます。
変化の指標は、その場の痛みだけでなく、腫れぼったさや違和感、動ける時間。ゆっくりでも能動の比率が上がっていけば、それ自体が改善の経過です。
瀬谷崎Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011.
70代後半女性、脊柱管狭窄症の既往。両下肢の違和感と腫れぼったい感覚を訴えて来院しました。感覚鈍麻は両側のつま先(四趾を中心)に見られましたが、視診で腫れは確認できず、下肢の動脈は触知でき静脈瘤もありませんでした。手術は望まず、現状維持が希望でした。
検討では、実際に腫れていないのに腫れぼったく感じる点をどう捉えるかが論点になりました。循環性の要因を除外したうえで、罹患期間が長いことから中枢性感作の可能性が挙がりました。痛みで動かさずにいると大脳の体部位再現領域が縮小し、関節位置の感覚が障害されて腫れぼったさや、自分が動かしている感覚と実際の動きの誤差が生じることがあります。対応としては、狭窄症の進行予防とサルコペニア対策を兼ねた下肢の運動療法で、能動的に動かす場面を増やす方向が示されました。
受動的な施術だけでなく、中枢性の感作がある患者にこそ能動的な運動へ移していく点は、本記事が扱う運動療法の考え方と同じです。





