慢性疼痛の歩行療法にハイボルト(高電圧電気刺激)を併用する。体験から認知に働きかける組み立て
セラピスト向け
電気で痛みを抑えて歩く。悪化しない体験を治療の材料にする
罹病期間が数年単位の慢性疼痛。2千歩ほど歩くと痛みが増すのに、ハイボルト(高電圧電気刺激)をかけながらなら痛みはあっても増悪しない。この状態をどう治療に活かすか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに挙がった相談から、痛みの教育(疼痛神経科学教育)と電気を併用した歩行療法の組み立てを考えます。
相談されたのは、罹病期間が数年単位という慢性疼痛の患者さんです。感覚の検査では、2点識別覚(皮膚の2点を触り分ける感覚)が10センチほど離しても1点と感じる状態で、検討の場でも、感覚の変化まで及んだ難しさのある症例という受け止めでした。
歩行は2千歩ほどで痛みが増してきます。ところが、ハイボルテージをかけながら歩くと、痛みはあるものの増悪はしない。担当者はここに着目し、「痛みが少ない状態で歩ける」という認知を先に作る方向を考えました。検討でも、この目的設定は妥当だろうという反応でした。
- 罹病期間は数年単位で、経過が長い
- 2点識別覚は10センチ程度で1点と感じるまで低下している
- 2千歩ほどの歩行で痛みが増してくる
- ハイボルトをかけながらの歩行では、痛みはあるが増悪しない
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎鎮痛が目的ではなく、悪化しない体験を積むための電気
実際のメニューは、電気をかけながらひたすら足踏みをするというものでした。最初のうちは電気をかけていても10分ほどで増悪していましたが、10回目前後の時点では増悪が出なくなってきています。
ここでのハイボルトは、痛みを抑えること自体がゴールではありません。痛みが少ない状態で歩けたという体験が積み重なると、「歩けば悪化する」という予測が少しずつ崩れていきます。痛みの教育(疼痛神経科学教育)が言葉で伝える内容を、体験の側から支える使い方です。この患者さんには以前、バイオメカニクス(身体力学)的な原因探しに寄りすぎる説明の害についても話がされており、説明と体験の両方で認知に働きかける流れになっています。
「痛み=体の危険」という学習が強い患者さんには、言葉の説明だけでは届きにくいことがあります。電気で痛みを抑えた条件を作り、悪化しない運動の反復を体験してもらう。説明と体験をセットにするのがこの介入の芯です。
重症度を数値化する質問紙で、運動療法の適応を確かめる
検討では、進める前の確認として、重症度を数値化する質問紙でスコアを取る方法が共有されました。共有された目安では、合計スコアが15以上だと運動療法の適用から外れるとのことです。ただしこれは検討の場で記憶をもとに共有された目安なので、実際に使う際は質問紙の原典でカットオフ値を確かめる前提です。
スコアの使い道は適応判定だけではありません。点数の水準を踏まえて通院期間の見通しを立て、患者さんと共有する材料にもなります。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎罹病期間が数年なら、時間軸は半年から
検討で示された時間軸は、罹病期間が数年単位なら、週1回程度の来院を最低でも半年ほど続けて経過を見るというものでした。数年かけて作られた状態が数回で動くとは考えにくく、時間の見積もりを最初に共有しておくことが、途中での失望や中断を減らすことにつながります。
この患者さん自身も、治らないかもしれないことは分かっているとした上で、それでもこのまま放置するのは嫌だ、ほかに行くところがない、と話していたそうです。だからこそ掲げる目標は、痛みを消すことより先に、できることを増やすことでした。痛みがあっても意外とできた、という経験を積んでいく方針です。
①電気の併用など、悪化しない条件で動けた体験を作る ②できる活動の範囲を少しずつ広げる ③痛みそのものの変化は、経過の中で確かめる。この順番を患者さんと共有してから始めます。
痛みを消すことより先に、できることを増やす
この症例は10回目前後で、電気をかけながらの足踏みで増悪が出なくなってきた段階です。ここから歩数や場面を広げていく方針になりました。もちろん前提として、器質的な疾患の除外は医科の領分です。経過の途中で症状の質が変わったり、これまでにない所見が出てきた場合には、医療機関の受診を挟んでから続きを組み立てます。
瀬谷崎





