NRS(数値評価スケール)が下がらない肩こり頭痛。QOL(生活の質)の向上を先に狙った実例
セラピスト向け
痛みの数値ではなく、できることを増やす。目標の置き場所を変えた肩こり頭痛の経過
NRS(数値評価スケール)8程度の肩こりと、肩こりによる頭痛。動作時痛ははっきりせず、施術直後は楽でも帰宅すると戻る。数値がなかなか動かないこの患者さんに、痛みの数値ではなくQOL(生活の質)の向上を先の目標に置いた経過が、とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで共有されました。目標設定の順番という切り口で考えます。
共有されたのは、NRS8程度の強い肩こりと、肩こりによる頭痛を訴える患者さんです。よくある動作時痛は特になく、動かさなくてもずっとつらい。動診を取れば突っ張りや痛みが何かしらは出るものの、それが主訴の頭痛に直結しているのかはよくわからない。確認のテストをしても、症状が出ているのかいないのかつかみにくいタイプでした。
- NRS(数値評価スケール)8程度の肩こりと、肩こりによる頭痛。主訴は頭痛
- 動作時痛ははっきりせず、徒手的に原因をひとつに絞り込むのが難しい
- 施術直後は比較的楽になるが、家に帰ると戻る
- 処方されている鎮痛剤(座薬)を使うと少し楽になる。ただし本人は使うことを良く思っていない
- 頭痛が出ると悪化が怖くなり、ランニングなどの運動をやめてしまう
動くと痛い、この検査で再現する、と手がかりがはっきりしていれば、原因の組織を絞り込んでいく通常の道筋に乗せられます。この方はそれが使えない。そこで検討では、徒手的に原因を絞り込むこと自体をいったん諦める、という判断がまず共有されました。そのうえで浮かび上がったのが、鎮痛剤への価値観と、運動による悪化への恐怖という2つの要因です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎痛み止めが「最後の手段」になっている
この患者さんは、鎮痛剤の座薬を処方されていて、使えば少し楽になります。ところが薬を使うこと自体を良く思っておらず、頭痛が強くなって「もう痛み止めを使わないとどうしようもない」となってから、ようやく使う。効く薬を持っているのに、位置づけは常に最後の手段で、使うタイミングも毎回後手に回っていました。
使えば楽になるのに、使うたびに薬に頼ってしまったという感覚が残る。頭痛が来るたびに、薬を我慢するか、罪悪感とともに使うかの二択になります。これでは薬が効いても安心にはつながりません。
担当スタッフはこの方といろいろ話し、試しては経過を観察することを重ねました。そのなかで共有されたのが、この位置づけを逆にする働きかけです。「痛み止めを使わないとどうしようもない」ではなく、「痛み止めさえ使えば大丈夫」。同じ薬、同じ効き目でも、頭痛が来たときの構えがまるで変わります。
まなぶ先生
瀬谷崎服薬の判断や用法・用量は、処方した医師と薬剤師の領分です。施術者ができるのは、処方薬を必要以上に怖がっている状態に気づくことと、罪悪感で使えていないようなら処方医や薬剤師への相談を後押しすることまで。薬の使い方そのものへの助言はしません。
「悪化しない」を実体験してもらう
もうひとつの働きかけは運動でした。もともとよく体を動かす方ですが、頭痛が出ると悪化への恐怖が先に立ち、痛くてランニングができなくなります。動かないので生活はさらに狭くなります。
ここでの声かけは「ちょっと試しにやってみてくれ」でした。理屈の説明で恐怖を解こうとするのではなく、まず何回か走ってもらう。結果は、別に良くはならなかったけれど、悪化もしない。この「悪化しない」という実体験がきいて、痛いけど動こう、に変わっていきます。
本人の実感は「今ちょっと走ってちょっと響くけど、これは別に長続きするものではないんだな」という言葉で報告されていました。響く感覚そのものは消えていないのに、その意味づけが変わったことで、走れるようになったわけです。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎数値を聞くほど、双方が「変わらない」に引っ張られる
報告では、この2つの価値観が少し変わったことで、頭痛はかなり楽になったとのことでした。ところが興味深いのはここからです。この方にNRSを聞くと、数値はあまり変わっていません。それでも本人は「少しずつ楽になってきました」と話すのです。薬への不安が減り、運動が戻り、できることは増えているのに、数値だけは動かない。
ここで毎回数値を確認し続けるとどうなるか。患者さんは8のままである事実を毎回自覚させられ、施術者も変えられていない事実を突きつけられます。数値を聞く行為そのものが、双方の注意を痛みに固定してしまうわけです。
痛みの数値には当面注目せず、QOL(生活の質)の向上だけにフォーカスする。できることが増えた先で、結果としてのNRS(数値評価スケール)の低下を狙う。数値の改善を目標の最初ではなく最後に置く、順番の戦略です。
変化の測り方を工夫する方法としては、指標動作をひとつ決めるやり方を別の記事で扱っています。また、記録や質問が症状への注目を強めてしまう場合がある点は、痛み日記の記事と重なるところです。
数値が動かないとき、目標の順番を入れ替えてみる
徒手的に原因を絞り込めず、NRSも動かない。それでも、薬とのつきあい方と運動への恐怖という2点に働きかけたら、生活のほうが先に広がりはじめた。あくまでひとつの症例の経過ですが、数値が動かない患者さんへの選択肢として共有する価値があると考えています。
休むことへの罪悪感を含めた患者教育の枠組みは、忍耐回避モデルの記事で扱っています。薬を使うことへの罪悪感も、我慢を良しとする価値観という意味で、根は同じところにあるのかもしれません。
瀬谷崎





