痛み日記をどう使うか。数値と出来事をセットで記録して客観視につなげる
セラピスト向け
記録は、痛みを外から眺める道具になる
慢性的な痛みを抱える患者さんに、痛み日記をどう位置づけるか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に検討された相談をもとに、記録の目的と伝え方の工夫を考えます。
相談のもとになったのは、股関節周囲の痛みと下肢のしびれが1年ほど続く31歳の女性のケースでした。整形外科や大学病院、いくつかの治療院を回り、レントゲンでは股関節にも膝にも大きな異常は見つからず、線維筋痛症の可能性を指摘されたこともありましたが、診断はまだ定まっていませんでした。
診断と治療の窓口は医療機関にありますが、通院と並行して痛み日記をつけてもらうことになった、という報告から検討は始まりました。
痛みが広い範囲に及び、しびれのように感じ方そのものが強くなっているケースでは、中枢性感作の関与も考慮に入れておきたいところです。原因を一つの構造に絞りきれないからこそ、記録という形で状態を追う意味が出てきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎痛み日記に書くもの|数値と、その日の出来事をセットで
痛み日記の基本形は、次の2つの組み合わせです。
- 痛みの強さを数値で記録する
- その日にあった出来事を短く書き添える(良い日にはどう過ごしていたか、悪い日には何をしていて、どう感じたか)
数値だけを並べても、後から見返したときに何が痛みに関わっていたのかがわかりません。この記述があってはじめて、数値の上下と生活の中の出来事がつながって見えてきます。
患者さんに渡すときは、正確さより続けやすさを優先します。細かく分析させる書式にすると、それ自体が負担になり長続きしません。数値と一言メモ程度から始めるのが現実的です。
目的はメタ認知|「痛みが強い=悪化している」を見直す材料に
痛み日記の狙いは、痛みを消すことではなく、痛みを外から眺める視点(メタ認知)を持ってもらうことにあります。
慢性的な痛みを抱える患者さんは、痛みが強いときほど「悪くなっている」という結び付けを強くしがちです。しかし痛みが強い日があっても、それがそのまま体の損傷が進んでいることを意味するとは限りません。
再増悪は必ずしも再損傷ではないという視点と合わせて伝えると、記録の変動を見返しやすくなります。
記録を続けて後から見返すと、痛みが強い日と生活の負荷が重なった日が一致していたり、逆に何もしていない日に痛みが強く出ていたりすることに、本人が気づく場面があります。この気づきそのものが、思い込みを緩める材料になります。
まなぶ先生
瀬谷崎期間は2週間から1か月ほどで区切る
この31歳の女性は、10日ほど記録を続けたところで、身内の不幸も重なって体調を崩し、記録も通院も一旦途切れてしまいました。記録そのものが原因だったのかは判断できませんが、負担が重なっていた時期に記録という作業が上乗せされていたことは確かです。
まじめに毎日書こうとするタイプの患者さんには、忍耐回避モデルで見た「休みにくさ」と同じ配慮が要ります。
痛み日記は、続けるほど正確にはなりますが、続けるほど痛みへの注意も強まります。目安として2週間から1か月程度で一区切りにし、そこで一緒に見返す機会を作るほうが、記録が痛みへの固執に変わりにくいと考えています。
宿題として渡すと、書けなかったこと自体が新しい負担になります。「できる日だけ、思い出せる範囲で」と伝え、空白があっても構わないことを先に共有しておきます。忙しさや体調の波で途切れても、そこまでの記録だけで十分に見返せる、という気軽な位置づけで渡すのがコツです。
「ずっと同じくらい痛い」と話す患者さんにこそ使える
もう一つの相談は、慢性的な頸部痛を抱える47歳の女性のケースでした。2年前から症状があり、本人は「楽なタイミングはなく、ずっと一定で感じている」と話していました。可動域訓練や確認検査は一通り行えていて、やるべきことのイメージはあるものの、なかなか変化が出ない状態です。
こういう「常に痛い」と話す患者さんほど、短期間の記録が意味を持ちます。
- 本人の実感としては変動がなくても、実際には強さや性質に波があることが多い
- 記録をつけて見返すと、本人がそれまで気づいていなかった変化に自分で気づく場面がある
- この気づきは、伸展の可動域だけに焦点を当て続けるより、次に何を聞くべきかのヒントになる
痛み日記と合わせて、慢性痛の質問紙のようなツールを組み合わせると、本人の言葉による記録と、数値による評価の両方から状態を見られます。
原因を一つに絞りたがる患者にはBPSモデルで応じる
47歳の女性は、これまで整形外科で骨の変化を、整体で筋肉の硬さを、それぞれ原因として説明されてきましたが、どれも本人の中でしっくりきていない様子でした。原因を一つに特定したい気持ちは自然なものです。
慢性的な痛みでは、生物・心理・社会(BPS)モデルのように、複数の要因が重なって痛みの感じ方に影響している場合が少なくありません。
睡眠時間や仕事の負荷、家庭内の役割といった生活の要素も、痛みの説明の一部として扱えることを伝えると、原因探しに偏っていた話が少し広がります。
記録より前に、親身に関わってくれる人がいるという体験
この回では、体の困りごとと直接関係のなさそうな話を丁寧に聞いたことがきっかけで、もともとの症状が和らいだ例も共有されました。原因を体の構造だけに絞って介入していると見落としてしまう部分がある、という指摘です。
痛み日記も同じ文脈で捉えると理解しやすくなります。記録そのものの効果に加えて、書いたものを毎回一緒に見返してくれる人がいるという経験自体が、患者さんにとっての支えになります。
- 記録は数値化と、その日の出来事・感じ方のセットで書いてもらう
- 目的は痛みの客観視。「痛み=悪化」という思い込みを見直す材料にする
- 期間は2週間から1か月程度で区切り、そこで一緒に見返す
- できる範囲でよいと伝え、気軽な位置づけで渡す
- 「常に痛い」と話す患者さんほど、短期の記録で変動に気づいてもらいやすい
- 原因を一つに絞りたがる患者にはBPSモデルで複数要因の話に広げる
痛み日記は、渡し方まで含めて一つの道具
痛み日記は、渡せばそれだけで効果が出る道具ではありません。何を書いてもらうか、どのくらいの期間で区切るか、途切れたときにどう受け止めるか。この設計まで含めて、はじめて記録は痛みを外から眺めるための道具になります。
別の回では、介護のため2時間おきに起きてしまうが合計では7時間眠れている、という患者さんの睡眠と痛みの関係が話題になりました。
共有されたのは、睡眠不足と痛みの研究では合計の睡眠時間が基準になっており、分割されていてもおそらく大丈夫という見方です。根拠として、睡眠を2時間に制限して痛みの閾値を下げたあと、午前と午後に30分ずつ昼寝をとると閾値がほぼ元に戻ったという研究(2000年頃のものという記憶で共有)が挙がりました。ただし中途覚醒の頻度など睡眠の質と痛みの関連もあるため、時間だけで十分かは分からない、という留保つきです。
睡眠の説明は、昼寝30分で自分でも痛みに手を打てると患者さんが思える点で、コントロール感の回復につながる。この視点も、記録を渡すこの記事の考え方と重なります。
瀬谷崎





