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良くなったり戻ったりする経過をどう説明するか。再増悪は再損傷とは限らない

戻る日があることを、先に伝えておく

施術のたびに良くなるのに、数日でぶり返す。順調だったのに車の運転で再燃した。経過が一進一退する患者さんに、その揺れをどう説明するか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に出た相談をもとに、経過の波の読み方と伝え方をたどります。

相談のもとになったのは37歳男性、来院の5日ほど前から出てきた左殿部から腰にかけての痛みです。特徴的だったのは、座っていると痛くて、歩いたり動いたりする分にはむしろ楽だという訴えでした。

初診時は朝がいちばんひどく、立位での前屈・後屈・側屈はどれも大きな異常はなく、少し固いだけで痛みもあまり誘発されません。仰向けでのエスエルアール(下肢伸展挙上テスト)も陰性でした。

決め手になった所見

手応えのある所見が出たのはここからです。両膝を同時に曲げて膝を抱え込み、腰椎を屈曲させる姿勢で痛みが誘発される。ところが片脚ずつ同じことをすると痛みは出ない。両側性の腰椎屈曲が引き金になっていると絞り込み、その肢位を保った介入を入れると症状はだいぶ軽減しました。

ぼやっとした訴えの中から、一貫した誘発動作を見つけ出せたわけです。

まなぶ先生まなぶ先生

誘発動作も軽減する介入も見つかっているのに、数日でぶり返す。この繰り返しになると、自分の評価が外れているのかと不安になります。

教子先生教子先生

患者さん側はもっと不安だと思います。良くなったと感じたのに戻ると「また傷めた」と受け取ってしまう。この方も1年前に治ったと思ったぶり返しで来ていますし、そこで通院が途切れやすいですよね。

瀬谷崎瀬谷崎

検討での見立ては、むしろ前向きでした。ぼやっとした訴えから誘発動作を特定できて、軽減する介入も見つかっている。ここは大きな進歩だと思います。揺れ自体は想定の範囲で、あとはその揺れを患者さんとどう共有するか、という話になりそうです。

誘発動作が見つかっていること自体が進歩

一進一退の経過に引っ張られると、評価まで疑いたくなります。ただこのケースでは、両膝屈曲での腰椎屈曲という明確な誘発動作があり、その肢位での介入で軽減するという再現性のある手応えもある。評価の軸は立っています。経過が揺れることと、評価が外れていることは、分けて考えたいところです。

実際の経過も見ておきます。

  1. 初回軽減し、翌日も良好。ところが2日ほどで戻る。
  2. 2回目(初回の4日後)鍼に加えて大殿筋・腹斜筋・多裂筋のトレーニングを入れると、やった後は良い状態になった。
  3. 3回目朝の痛みが、初めを10とすると3くらいまで下がる。数字の上では着実に良い方向。

それでも3回目の翌々日に車を2時間運転したら、また強い痛みが戻りました。負荷がかかれば揺り戻す、という段階だと読めます。

付け加えるなら、痛む部位が転々とするケースでは、中殿筋などのトリガーポイント由来の関連痛が見落とされやすい要因として挙がりました。押した局所から腰へ響くような放散を確かめてみる価値はある、という指摘です。揺れる経過のときほど、評価に1つ視点を足しておきたいところです。

再増悪は、再損傷とは限らない

ここが検討の中心でした。症状の一時的な悪化は、時間経過や特定しきれない要因で起こるもので、組織をまた傷めたことを必ずしも意味しません。その日の疲れや生活の忙しさなど、こちらで把握しきれない要素は数多くあります。数日から週の単位で、症状には自然な増減があると考えておくほうが実態に近いはずです。

要点

再発イコール再損傷とは限りません。組織損傷と痛みは同じものではなく、患部が悪化していなくても痛みが出ることはあるし、患部が完全に戻っていなくても他の要素で楽になることもあります。

この方は1年前に痛みが出て、別の整骨院に半年ほど通い、頻度を少しずつ空けながら改善しています。骨盤を調整してもらって治ったと思っていたら、半年経たずに再発した。だから今度こそ根本的にという主訴で来ています。

この見方を患者さんと共有できていないと、ぶり返すたびに「施術が効いていない」「悪化した」という解釈になり、不安と通院の中断につながります。共有できていれば、戻った日も想定の範囲として通過できます。悪化した日を再損傷と結び付けて体を動かさなくなる流れは、恐怖回避モデルの悪循環そのものでもあります。

伝え方の例

「この痛みは、良くなる途中で何度か戻る日があります。戻っても、傷が広がったわけではないことがほとんどです。逆に、たまたま調子が良い日で油断するのも避けてください。戻った日の様子はむしろ教えてください。次の評価の材料になります」

伝えるタイミングは、結果が出た後

この事前説明を、いつ話すか。挙がった原則は、施術で結果が出た後、です。

伝えるタイミングの原則

目安としては9割がた施術後に回すという話でした。初回の施術前に「戻ることもあります」から入ると、予防線にしか聞こえかねません。一度でも軽減を体感してもらった後なら、同じ言葉が経過の見通しとして届きます。

ただし急性腰痛などで、今日の今日では結果が出しにくいと見込まれる場合は、先に「今日すぐには変わらないかもしれませんが、続ければ良くなります」と施術前に伝えることもあります。

この方のように週2回ペースで通ってもらう予定なら、次回までの経過の揺れについては、結果が出た施術後に話すのがなじみやすいはずです。悪化しても気にしなくてよいと事前に共有しておくことは、離反のリスクを下げるうえでも効いてきます。

1年前にも同様の痛みを経験している患者さんなら、前回の経過を思い出してもらうのも有効です。繰り返す腰痛の経過についてはぎっくり腰は癖になるのかで、期間で区切らない痛みの見方は慢性疼痛は「3ヶ月以上」で決まるのかで扱っています。

  • 誘発動作と軽減する介入が特定できているかを、経過の揺れと切り離して確かめる
  • 一時的な再増悪は再損傷とは限らないことを、結果が出た後に事前説明しておく
  • 戻った日の状況を報告してもらい、評価の材料に変える
  • 痛む部位が移動するときは、トリガーポイント由来の関連痛も確かめる
  • 繰り返している痛みは、期間ではなく経過の性質から慢性痛的な解釈も検討する

経過の波を、患者さんと同じ地点から見る

一進一退の経過で試されるのは、施術の腕だけでなく説明の設計です。評価が立っているなら、揺れは想定の範囲であること、戻る日があること、それが再損傷とは限らないことを、結果が出たタイミングで共有しておく。それだけで、同じ経過でも患者さんの体験は大きく変わります。

瀬谷崎瀬谷崎

右肩上がりに治る痛みのほうが、たぶん少数派です。波を先に共有しておけば、戻った日は失敗ではなく情報になる。患者さんと同じ見通しを持てているかを、施術と同じ重さで確かめておきたいところです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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