肩関節の凹凸の法則はどこまで使えるか。当てはまる動きと外れる場面、教科書での扱いの変化

凸の関節面は転がりと逆に滑る。この法則を肩の臨床でどう使うか

運動学で一度は習う「凹凸の法則」。肩ではどの動きに当てはまり、どんな場面で外れるのでしょうか。外れる理由と、教科書での扱いの変化、前方滑りが最も出やすい動作まで取り上げます。

この記事について

このコラムでは、当院のカンファレンスで出た質疑をもとに、肩関節の凹凸の法則が今の臨床でどこまで頼れるかを取り上げています。法則が当てはまる基本運動、外れる場面とその理由、教科書での位置づけの変化、前方滑りが最も出やすい動作の順に触れていきます。

著者アイコン 伊藤聡史

法則はあくまで覚えるための道具で、目の前の関節がその通りに動いている保証はありません。ルールと実際の所見がずれたときは、所見の側から考え直すようにしています。

結論:肩の基本運動では凹凸の法則は当てはまると考えて差し支えありません。ただし靭帯や筋の作用・筋の疲労で滑りの向きが変わる場合があり、現在の教科書では法則自体の扱いが小さくなっています。滑りの向きは法則だけで決めつけず、動作と所見を合わせて考えます。

凹凸の法則とは何か

関節が動くとき、関節面の間では「転がり」と「滑り」が組み合わさって起こります。凹凸の法則は、このうち滑りの向きを覚えるためのルールです。凸の関節面が動く場合、滑りは転がりと逆の方向に起こる、とされています。

肩甲上腕関節(肩の球関節)では、上腕骨頭の側が凸面にあたります。骨頭は転がる向きと反対側へ滑りながら動く、というのが法則どおりの説明です。

理学療法士や柔道整復師の養成課程で広く知られてきたルールですが、有名であることと、臨床でそのまま頼れることは別の話です。

肩の基本運動では法則どおりで覚えてよい

検討の場で共有された答えは、肩の基本運動については法則どおりで覚えて差し支えない、というものでした。具体的には次の動きです。

  • 屈曲(腕を前から挙げる)・伸展(腕を後ろへ引く)
  • 外転(腕を横から挙げる)・内転(体側へ戻す)
  • 外旋(腕を外へひねる)・内旋(内へひねる)
  • 水平屈曲(前へ挙げた腕を内側へ水平に振る)

水平伸展(水平に外へ開く動き)で骨頭が前方に滑る点も、法則どおりとされています。まずはこのセットで覚えてよい、というのが検討での結論でした。覚え方の道具として法則を使うぶんには、今も十分に実用的です。

法則から外れる場面と、その理由

一方で、実際の肩が法則に従わない場面もあります。理由として挙げられていたのは、靭帯や筋の作用、それに筋の疲労です。

筋の疲労が関わるということは、滑りの向きが固定的ではないことを意味します。人によって、動かし方によって、その時々の状態によって、滑りの向きが若干変わる可能性がある、という見方が共有されました。

分かりやすい例が外旋です。外旋で骨頭が後方に滑るとされるのは、腕を体側に下ろした肢位(ファーストポジション)での外旋の話です。同じ外旋でも、90度外転して水平伸展した肢位から行えば、前方に滑ると考えられます。

判断の目安

滑りの向きは「動きの名前」だけでは決まらず、肢位とセットで考えます。「外旋=後方滑り」と一律に覚えると、肢位が変わった途端に実際と食い違います。法則と実際の動きが合わないときは、靭帯・筋の作用や疲労など、その肩側の要因を想定します。

教科書では扱いが小さくなっている

もうひとつ共有されたのが、教科書での位置づけの変化です。理学療法士の教科書からは、2〜3年前ごろに凹凸の法則の記載がなくなっていたはずだ、という話でした。

無理に覚えて混乱するくらいなら、覚えないほうがよい。ただ有名な話で知っている人が多いから、あえて話題にしただけ。検討の場での位置づけは、その程度のものです。膝や股関節では法則どおりに動きを説明しにくい、という指摘もあわせて出ていました。

前方滑りが最も出やすいのは水平伸展+外旋

では、単体で押さえておく価値があるのはどこか。検討でそのまま覚えてよいとされたのが、前方への滑りが最も出やすい動作です。

前方滑りが起きやすそうな3〜4種類の動作を観察して比較した研究があり、最も前方滑りを起こしたのは、水平伸展に外旋を加えた動作だったと共有されました。腕を水平に後ろへ開き、さらに外へひねった肢位です。

前方への負担を考えたい肩では、この肢位で滑りが増えやすいことを頭に置いておくと、検査や動作指導で確かめる順番の手がかりになります。

滑りの向きは、法則と所見を合わせて考える

実務に落とすと、こうなります。凹凸の法則は、肩の基本運動の覚え方としては今も有効です。ただし滑りの向きを法則から機械的に決めるのではなく、肢位・動かし方・その肩の状態と合わせて考えます。法則と実際が食い違ったこと自体も、その肩を知るためのひとつの所見として扱えます。

肩の痛みそのものについても同じ姿勢が要ります。中高年の肩の痛みは凍結肩のほかにも原因が分かれるため、痛みが強い場合や長引く場合は、施術と並行して医師の診断を受けることをおすすめします。

著者アイコン 伊藤聡史

「凹凸の法則は使えるか」への答えは、基本は当てはまる、ただし絶対ではない、でした。ルールは出発点にして、最後は目の前の肩の動きで確かめる。その順番なら、古い法則も今の臨床で役に立つと考えています。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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