SLRテストの上げ始めだけ腰が痛い。腸腰筋(大腰筋)の関与を疑う初動時痛の読み方

下肢挙上の初動20〜30度だけに出る腰の痛みをどう確かめるか

仰向けで脚を伸ばしたまま持ち上げるSLRテストで、上げ始めだけ腰が痛み、そのまま上げていくと消える。角度が浅いほど痛いという、典型と逆向きの所見の読み方を取り上げます。

この記事について

このコラムでは、当院のカンファレンスで検討した症例をもとに、SLR(下肢伸展挙上テスト)の初動だけに腰の痛みが出る所見の読み方を取り上げています。椎間板や坐骨神経の典型と合わない理由、検査に自動運動が混ざるという視点、腸腰筋(ちょうようきん)の関与を確かめる方法、介入後の変化の見方まで触れています。

著者アイコン 伊藤聡史

検査で出た痛みは、どの角度で、どのタイミングで出たかまで分けて読むようにしています。同じテストでも、痛むタイミングが変わると疑う相手が変わります。

結論:SLRの初動だけに出る腰の痛みは、椎間板や坐骨神経の典型パターンと合いません。患者さんが挙上を手伝うことで腸腰筋(特に大腰筋)の収縮が混ざっている可能性を考え、脱力の条件をそろえた再検査や、座位で股関節を引き上げる動作で裏付けを取ります。

上げ始めだけ腰が痛いSLR所見

前屈(体を前に曲げる動き)で腰が痛むタイプ、いわゆる腰部の屈曲型症候群にあたる方の2回目の施術で、こんな所見がありました。確認テストで骨盤の動きを誘導するとNRS(痛みの強さを10段階で答えてもらう評価)が10から6程度まで下がる。ここまでは屈曲型としてよくある反応です。

読みにくかったのは、仰向けで行ったSLR(下肢伸展挙上テスト。膝を伸ばしたまま脚を持ち上げる検査)のほうでした。

  • 上げ始めの20〜30度で腰に痛みが出る
  • そのまま上げていくと、60度に届く前に痛みが消える
  • 右脚を10cmほど上げた位置で足首を反らす(背屈)と、左の腰に痛みが出る
  • 左脚の挙上では痛みが出ない

脚を上げるほど痛くなるのではなく、浅い角度だけ痛くて、上げると消える。この向きが、よくある型と噛み合いません。

椎間板・坐骨神経の典型と逆向き

SLRで腰やお尻に痛みが出るとき、まず思い浮かぶのは椎間板や坐骨神経です。ところが、どちらの典型とも角度の出方が合いません。

椎間板にかかるストレスは、挙上の角度が上がるほど強くなるのが本来の理屈です。椎間板由来なら、上げるほど痛くなるはずで、上げると消えるのは逆向きです。坐骨神経の緊張をみるラセーグ徴候も、60度前後でピークになるとされます。20〜30度がピークで、その先で消えるのであれば、坐骨神経痛の線はかなり薄くなります。

判断の目安

SLRの痛みは、出た角度とその後の変化まで含めて読みます。挙上とともに強まるなら椎間板や神経の緊張を疑い、初動だけで出て上げると消えるなら、別の要素が混ざっていないかを先に確かめます。

他動のつもりが自動運動になっていないか

検討の場でまず挙がったのが、検査に自動運動が混ざっている可能性でした。他動で(施術者が持ち上げて)SLRを行っているつもりでも、患者さんが挙上を手伝おうとして脚に力を入れてしまうことは珍しくありません。

このとき働くのが、股関節を曲げる腸腰筋、特に大腰筋です。上げ始めは自分でも力を入れやすい一方、挙上が進むと、膝を伸ばしたままの挙上を自動で続けるのは難しくなります。つまり、筋収縮が混ざるのは初動に偏りやすい。初動だけ痛くて上げると消えるという出方と、つじつまが合います。

大腰筋の収縮は体幹への圧迫力に関与する大きな要素です。だからといって、それが前屈時の腰痛の直接の原因かどうかまでは分かりません。ここは留保がつきます。ただ、少なくともSLRの初動の痛みには腸腰筋が関与していそうだ、という見方はできます。

腸腰筋の関与を裏付ける確かめ方

疑いを裏付けるには、条件を変えて同じ痛みが動くかをみます。検討で挙がった確かめ方は次のとおりです。

  1. 脱力の条件をそろえて再検査する脚の力を完全に抜いてもらい、腸腰筋に収縮が入らない条件でもう一度SLRを行います。純粋な他動運動で痛みが消えるなら、初動の痛みに筋収縮が混ざっていた可能性が高まります。
  2. 座位で股関節を引き上げる動作をみる座った姿勢で股関節を引き上げると、腸腰筋が強く働きます。この方は右の股関節を引き上げたときに左の腰部の痛みが再現されており、腸腰筋への施術後にはこの痛みがほぼ緩和していました。
  3. 介入の前後で同じ検査を比べる腸腰筋へのハイボルテージ(高電圧の電気刺激)のあとに再検査すると、SLR初動の痛みは緩和しました。

ひとつ注意があります。腰痛では、腸腰筋にハイボルテージをかけると楽になるケースがもともと多く、汎用性が高い介入です。電気で楽になったという結果だけを決め手にせず、検査の出方や動作での再現とあわせて総合的に判断します。仰向けから起き上がる瞬間に腰が痛むタイプが腸腰筋への介入で変化しやすいというのも、検討の場で共有された臨床印象で、今回はそれに近い病態ではないかという見立てでした。

前屈時痛そのものには多裂筋も併せてみる

SLR初動の痛みに腸腰筋が関与していそうだとしても、主訴である前屈時の腰痛がそれで説明できたことにはなりません。立位の前屈は重力で体が下りていく動きで、腸腰筋が収縮して体を曲げるわけではないからです。前屈の場面では、むしろ多裂筋(腰椎を支える背中側の深い筋肉)の収縮のほうが強く働きます。

そこで、腰椎を支えると症状が軽くなる場合には、多裂筋に短時間の収縮運動を入れて変化をみるという確かめ方も挙がりました。この方も、前屈の初動で腰椎が曲がらないように支える確認テストで痛みが軽くなっており、腸腰筋へのハイボルテージに加えて、腹圧を高めるトレーニングを組み合わせて経過をみる方針になりました。

補足

屈曲型の腰痛と腸腰筋の関係は、人によって反応がばらつきます。腰椎が平坦な場合には腰椎を屈曲方向に動かす作用もあるとされますが、傾向として決めてかかれるものではなく、その都度検査で確かめる対象です。

痛みが続くとき・しびれを伴うときは医療機関へ

今回の所見は坐骨神経痛の典型とは合いませんでしたが、それを最終的に判断するのは医師の領分です。脚のしびれや力の入りにくさを伴う場合、施術後も痛みが変わらず続く場合には、整形外科での画像検査を含めた診察をおすすめします。検査で確かめた内容は、受診の際の判断材料としてそのままお伝えできます。

著者アイコン 伊藤聡史

電気で楽になったからこの筋が原因だ、と一足飛びに結論づけるのではなく、脱力の条件をそろえた再検査や別の動作での再現とあわせて読む。この積み重ねが、説明のつく施術につながると考えています。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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