肩鎖関節脱臼タイプ3を保存で診る。肩甲骨コントロールを軸に段階を踏むリハビリ
セラピスト向け
手術か保存か分かれるタイプ3、保存を選んだあとの進め方
趣味のサッカーで受傷した肩鎖関節脱臼のタイプ3。手術はせず、保存療法でいくと決まった患者のリハビリをどう組み立てるか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、固定明けからスポーツ復帰までの段階の踏み方を考えます。
相談したのは、骨折や脱臼の対応経験がまだ浅い担当セラピストです。検討の場でもその点を率直に伝えたうえで、「少しわかるくらいの知識で、なんとか安全に介入できてはいると思う」と現状を報告し、ここから先の進め方について助言を求めました。経験の浅さを隠さずに相談の場へ持ち込んだことが、この検討を実のあるものにしています。
相談されたのは40代後半の男性です。趣味のサッカーでセンタリングに合わせてダイビングヘッドをし、手をついた瞬間に「パキッ」と音がして受傷。起き上がると肩の上がはっきり変形していたといいます。
整形外科では肩鎖関節脱臼のタイプ3と判断されました。肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯(CC靭帯)の断裂を伴い、鎖骨外端の段差がはっきり出ています。腕を吊る固定を約4週間続け、ワイヤーなどを入れる手術はせず、ご本人も「このままいきたい」と話していて、保存療法で進める方針になりました。
もともと月1回のメンテナンスで通っていた患者さんで、担当セラピストが保存期のフォローに関わることになりました。実はその約1ヶ月前にも、別の患者さんがタイプ2の肩鎖関節脱臼で来院しており、肩鎖関節の症例が立て続けに重なった時期でした。担当者はこれを学ぶ機会と捉えて、次の3点を尋ねています。
- ここからどんなふうに介入していけばよいか
- 気をつけることは何か
- 優先順位、つまり最重要のタスクはどれか
相談時点の状況は次のとおりです。受傷から約1ヶ月。三角筋の前部繊維と僧帽筋の上部繊維に硬さがあり、鍼で対応しています。可動域は十分に出ています。担当者自身は、動画教材で学んだ僧帽筋の下部繊維の出力回復が大事だと考え、その徒手療法を毎回入れているとのことでした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎タイプ3は、手術と保存の判断が分かれる際どいライン
肩鎖関節脱臼はRockwood(ロックウッド)分類で重症度を分けます。検討の場でも、進め方の話に入る前に「タイプ3で間違いないですか」とタイプの確認から始まりました。担当者の答えはタイプ3。主治医の側でも「手術をするドクターもしないドクターもいるらしい」と聞いている、との共有でした。タイプ1・2は基本的に保存療法、それより重いタイプは手術適応とされるのに対し、タイプ3はちょうどその中間で、施設や医師によって判断が割れる位置にあります。
裏を返せば、手術適応の判断は医師の領分だということです。保存でいくと決まった症例では、主治医の方針との整合を前提にリハビリを組み立て、経過中に気になる変化があれば整形外科への相談を促します。
手術か保存かを決めるのは主治医です。私たちの仕事は、決まった方針の中で回復の質を上げること。保存を選んだ以上は、一般的な脱臼後リハビリの流れに沿って進めてよい、というのが検討での結論でした。
検討の場では、肩鎖関節は固定の難しい関節だという経験談も出ました。受傷からだいぶ時間が経ってから来院された例では「今さら固定と言われても」となりやすく、初期の固定管理が十分にできないまま経過してしまうことがあるといいます。その点、本例は受傷約1ヶ月・整形外科での約4週間の固定を経てのフォローです。初期対応の土台がある状態から関われるのは、保存療法にとって条件のよいスタートだといえます。
最重要は、僧帽筋・前鋸筋による肩甲骨コントロール
担当者が最重要と考えていたのは僧帽筋の下部繊維の出力回復でした。これに対する検討での答えは、僧帽筋と前鋸筋を中心とした肩甲骨コントロールの再獲得です。着眼の方向は重なっていて、そこに前鋸筋まで含めて広げた形になります。肩鎖関節は肩甲骨と鎖骨をつなぐ関節なので、肩甲骨の動きの質がそのまま患部へのストレスに反映されます。
進め方の軸は、初期は可動域を大きく出さない範囲にとどめながら、運動の主体を段階的に患者さん自身へ移していくことです。
- 他動運動施術者が動かします。可動域を大きく出さず、痛みのない範囲で肩甲骨の動きをつくります。
- 自動介助運動介助を加えながら、患者さん自身の筋出力を少しずつ参加させます。
- 自動運動患者さん自身の力でコントロールし、僧帽筋・前鋸筋の出力を高めていきます。
この3段階を、1〜2ヶ月かけて踏んでいきます。担当者が着目していた僧帽筋の下部繊維の出力回復も、この流れの中に自然に置ける取り組みです。
あわせて、痛みなく腕が上がるところまで機能が戻れば「あとは何でもいい」、つまりその先の運動内容を細かく制限しなくてよい、という見立ても共有されました。段階を踏む期間のゴールとして、わかりやすい置きどころです。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎本例はすでに可動域が出ており、鍼と徒手療法も入っています。疼痛誘発動作を再現しながら「関連しているのかな」と疑われる筋を一つずつ確かめることで、どの筋に手を掛けるかの根拠を持てます。
筋緊張の残存には、対症的なケアとセルフエクササイズ
肩周辺の筋緊張や症状の残存は、脱臼後の経過で起こりやすいものとして検討でも共有されました。実際、回答した側が過去に診た肩鎖関節脱臼はおよそ10年前の1例だけですが、その方は受傷から1〜2年経ってもなお「この辺が痛くて」という訴えが続いていたそうです。数を診る機会が少ない外傷でも、症状が長く残った実例を一つ知っているだけで、経過の見通しは変わります。
対症的なケアで改善をはかるのに加えて、本例のように運動習慣のある方なら、セルフエクササイズの習慣化が向いています。筋緊張の緩和と疼痛の減弱を患者さん自身で維持できると、感作を起こさずに経過を進めやすくなる、というのが検討の場で共有された臨床印象です。
外観と機能を分けて共有し、復帰は慎重に見る
保存療法では、鎖骨外端の段差といった外観の変化が残ることが多くあります。検討でも「外観の変化が残るのは、そういう前提で保存を選んだということですよね」と確認が入り、担当者は即答でそのとおりだと答えています。保存を選んだ時点でそこは引き受けている、という認識を患者さんとあらかじめ共有しておくと、経過中の受け止め方が変わります。
機能のゴールは、痛みなく腕が上がることです。見た目と機能を分けて説明することが、保存期の患者さんを支える説明の柱になります。
スポーツ復帰の目安は、検討の場では「だいたい2ヶ月以内、1〜2ヶ月くらい」と共有されました。ただしこれは臨床印象を含む目安です。復帰のタイミングは慎重に見きわめ、主治医の診察と合わせて判断していきます。
瀬谷崎





