肩の調整手技はどの肩に使ってよいか。脱臼歴・関節唇損傷・ルーズショルダーで分ける適応判断
セラピスト向け
効く手技ほど、使ってよい肩の条件を先に確かめる
講習で共有された肩関節の調整手技をめぐって、「過去に脱臼したことのある肩に使ってよいのか」という質問が挙がりました。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスでのやり取りをもとに、手技の手順ではなく、使ってよい肩とそうでない肩をどう分けるか、適応判断の考え方をたどります。
相談のきっかけは、講習を受けたセラピストの率直な感想でした。手技そのものは体験して手応えがあった。ただ、実際の患者さんにやろうとすると思い切れない。とくに、脱臼の既往がある肩に使ってよいのかが分からない、というものです。
切れ味のある手技ほど、この迷いは健全です。検討の場で話されたのも、手技のやり方の復習ではなく「どの肩なら使ってよいか」という条件のほうでした。この記事でも手技の具体的な手順や名称には踏み込まず、適応判断の考え方だけを扱います。
ここで扱う手技は、脱臼した肩をもとの位置に戻す「整復」ではありません。外傷で脱臼が疑われる場面への対応は、医科および応急処置の領分です。この記事で言う手技は、痛みや不安定感のある肩の関節の動きに働きかける、機能的な調整手技を指します。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎脱臼直後と陳旧性で、適応の見立てが分かれる
検討の場で共有された臨床印象では、同じ脱臼歴でも受傷からの時間で見立てが分かれます。受傷から間もない時期の肩には適応になりやすい一方、1年、2年と経過した陳旧性のケースには適応しないことが多い、という感触です。
実際に、受傷から数日以内の肩にこの手技を受けて経過が良かったという経験談も共有されました。ただしそれも「直後だったから良かった」という条件付きの話です。時間が経った肩では関節唇や関節包の状態が変わっている可能性があり、同じ扱いはできません。もともと不安定性の強い肩に使うのは怖い、という慎重な意見も添えられていました。
関節唇の損傷が確認されている肩は、そもそもこの手技の適応外とされました。だからこそ、画像所見と既往の確認が、手技の実施より前に来ます。
関節唇損傷の確認は、手技より先に置く
関節唇の損傷は、徒手検査だけでは確定できません。確認の材料になるのは、MRI(磁気共鳴画像)などの画像検査と医師の診断、そして既往の聴取です。いつ、何回外れたのか。整復はどこで受けたのか。外れそうな感覚がその後も続いているのか。
脱臼を繰り返している方や、外れそうな感覚が続いているのに画像評価を受けていない方には、手技の適応を考える前に整形外科の受診を勧めるのが順番です。診断は医師の領分であり、私たちの適応判断はその情報の上に載せるものです。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎はまりがよいのは、不安定感と結帯動作の代償が出る肩
一方で、はまりがよいと共有されたのは、脱臼歴の有無にかかわらず、肩に不安定感のあるケースです。ひとつは、apprehension(アプリヘンション)と呼ばれる、外れそうな不安感が誘発される所見のある肩。
もうひとつが結帯動作、つまり帯を結ぶときのように手を腰の後ろへ回す動作で、痛みや不安感を訴えるケースです。他動で内旋の可動域を確かめると、肩甲骨ごと動いて逃げるような代償が出る。こうした型の肩には現場でのはまりがよい、という臨床印象が共有されました。
- 脱臼の既往の有無と、受傷からの経過期間(直後か、1年以上経過した陳旧性か)
- 関節唇損傷の有無(画像検査・医師の診断・既往の聴取で確認)
- apprehension(アプリヘンション)に類する、外れそうな不安感の誘発の有無
- 結帯動作での痛み・不安感と、肩甲骨で逃げる代償動作の有無
- 全身の関節の緩さ(ルーズショルダーの体質かどうか)
ルーズショルダーの選手には、別のアプローチを検討する
検討では、夏の大会を控えた高校生の野球選手の話も挙がりました。ヘッドスライディングで肩に抜け感が出た選手で、もともとルーズショルダー、つまり全身的に関節の緩い体質だったといいます。
こうした緩さが土台にある肩には、今回の手技はあまり使えないかもしれない、というのが検討の場での見立てでした。外傷をきっかけに不安定になった肩と、体質として緩い肩では、見た目の不安定感が似ていても成り立ちが違います。後者には安定性を高める別のアプローチを検討する、という方向で話が進みました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎手技の前に置く、適応確認の順番
検討の内容を、施術前の確認の流れとして並べるとこうなります。どの段階でも引っかかりが残るうちは、手技を保留して確認を優先します。
- 既往の聴取脱臼歴の有無・時期・回数を確かめます。受傷から1年以上経過した陳旧性のケースには、適応しないことが多いという前提で慎重に。
- 画像と診断の確認関節唇損傷が確認されていれば適応外。未評価で疑いが濃い場合は、手技より先に整形外科の受診を勧めます。
- 体質の評価全身の関節弛緩(ルーズショルダー)があれば、この手技以外の選択肢を検討します。
- 動作での確認結帯動作の痛み・不安感、肩甲骨の代償、外れそうな不安感の誘発所見。この型に当てはまるなら、適応の候補になります。
検討の場では、受ける側には急に大きな力がかかるように感じられ、驚きを伴うという感想も共有されました。適応と判断した場合でも、事前の説明と同意は丁寧に。取り扱いに注意が要る手技ほど、この一手間が信頼につながります。
瀬谷崎





