施術直後は良いのにすぐ戻る。確認検査を飛ばした推論を立て直す
セラピスト向け
その場で効いたのに、なぜ戻るのか
施術直後は痛みが軽くなるのに、翌日にはまた戻ってしまう。よくある相談ですが、その裏側には確認検査を飛ばした推論が隠れていることがあります。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に出た相談をもとに、仮説と検査の順序を立て直す考え方を確認します。
相談のもとになったのは、看護の仕事をしている患者さんのケースでした。抱え上げ動作や立ち上がり動作のときに、腰から殿部にかけて痛みが出るという訴えです。
硬くなったハムストリングスと大腿四頭筋、それに大殿筋周辺にあのテストが出たため、そこへ施術を進めました。その場では痛みがかなり軽くなるものの、翌日仕事をするとまた戻ってしまい、なかなか改善しない、という相談です。
動作痛を詳しく聞くと、前屈は30度あたりから90度あたりまでが痛く、そこを超えて曲げ切ると痛みが消えるという返答でした。中腰の姿勢がつらく、しゃがみ切ってしまえば楽になる。FFD(指床間距離・立位で前屈したときの指先と床の距離)はこぶし1個分ほどで、体が硬いというほどの数値ではありませんでした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「途中だけ痛い」は屈曲そのものが原因と考えにくい
動作痛の聞き取りでは、前屈30度から90度あたりまでが痛く、最終域まで曲げ切ると痛みが消えるという返答でした。もし腰椎の屈曲が過剰になって痛みが出ているのだとしたら、屈曲を強めるほど症状は増していくはずです。
ところが実際は逆で、最後まで曲げたほうが楽になる。この所見からは、屈曲という動作そのものより、可動域の途中のどこかで一時的に負荷がかかっている、という見方のほうが素直に合います。
ハムストリングスや大腿四頭筋が硬く、股関節の屈曲が制限されているために腰椎が代償して過剰屈曲している、という仮説は自然に立てたくなるものです。ただ、その仮説が正しいなら最終域でより痛むはずで、今回の所見はむしろ食い違っている可能性があります。
確認検査を飛ばした先に、答えだけが残る
相談では、股関節の中殿筋周辺を押さえながら一緒に前屈させると痛みが軽くなる、という所見も出ていました。ただこれは、股関節の屈曲を徒手的に補助した状態での確認であって、想定した原因の関節運動を取り除いた状態で症状が消えるかどうかを見る確認検査そのものではありません。
骨盤の前傾を誘導する確認検査を行わないまま、原因筋を押圧で絞り込むあのテストに進んでしまうと、股関節屈曲の代償という仮説が本当に正しかったのかどうかは、あとから振り返っても確かめようがなくなります。
あのテストでハムストリングスや大腿四頭筋に反応が出たとしても、それは仮説を検証した結果ではなく、検証を挟まないまま答えだけが残っている状態に近くなります。
施術直後の変化が仮説の正しさを裏付けているように見えても、確認検査を挟んでいない以上、その変化を推論の裏付けとして扱うのは早いということです。
あのテストの検査としての位置付けのとおり、あのテストは原因筋を絞り込む最後の一手であって、前段の確認検査を省く手順ではありません。
伸展方向の負荷を疑い直す
痛みの範囲を聞くと、仙腸関節周辺から第5腰椎(L5)あたりにかけての広い範囲で、指一本で示せるような一点ではないという答えでした。右の腸骨稜付近を押すと痛みが再現されるという訴えもあり、当初は仙腸関節障害を軸に考えていました。
ただ、仙腸関節に特異的とされる誘発テストは一通り行われておらず、屈曲の途中だけで痛みが出て最終域では出ないという所見と合わせて考えると、屈曲方向の負荷というより、後屈(伸展)方向の負荷を疑い直す余地が残ります。
腰殿部への刺激が周辺の筋緊張を高め、結果として前屈の途中に痛みが出ているのだとすれば、屈曲そのものよりも伸展系の負荷パターンを軸に評価をやり直したほうが、所見の説明はつきやすくなります。仙腸関節障害の疼痛誘発テストを一通り確認しておくと、仙腸関節が原因かどうかの切り分けにも役立ちます。
その場で効いてすぐ戻る経過には二つの可能性があります。ひとつは、施術の中身にかかわらず、その場では何をしても変化が出やすいという一時的な反応。もうひとつは、施術自体に効果はあるものの、その効果が1日程度しか続かないという可能性です。
この患者さんは、仕事が休みの日には痛みが戻りにくい傾向があり、動作による再増悪というより、効果の持続時間が1日程度という見方とも合います。
分けて考えると、続けるべき施術とやめるべき施術の判断がつきやすくなります。
日常動作は評価に不向きなノイズを含む
抱え上げ動作や立ち上がり、中腰といった日常動作は含まれる情報が多く、痛みの原因を一つに絞りにくいという性質があります。
- 基本動作に分解する体幹の前屈・後屈のような、こちらが判断しやすい基本動作に分解して評価すると、変数が減り、仮説と確認検査の対応関係がはっきりします。
- 評価は基本動作まで戻す日常動作から仮説を立てるにしても、確認する評価は基本動作まで戻す。これを徹底するだけで、確認検査を飛ばしたと感じる相談は減ります。
再現痛を指標にした確認のやり方も、この順序を前提にしています。
- 日常動作(抱え上げ・立ち上がり・中腰)の訴えを、体幹の前屈・後屈など基本動作に分解する
- 基本動作の中で、痛みが出る範囲と出ない範囲を具体的に聞き取る(今回は前屈30〜90度)
- 想定した原因の関節運動を徒手的に取り除いた状態で症状が消えるかを見る、確認検査を必ず挟む
- 確認検査で仮説を裏付けてから、原因筋を絞り込むあのテストに進む
- 施術直後の変化が、その場限りの反応か、効果の持続時間の問題かを分けて考える
- 屈曲・伸展どちらの負荷パターンかを、痛みの範囲とタイミングから見直す
推論の近道は、誰にでも起こる
忙しい臨床の中で、聞き取った動作痛からすぐにあのテストへ進みたくなるのは自然なことです。ただ、その間に確認検査をひとつ挟むだけで、施術直後の変化が仮説を裏付けているのか、別の理由でその場だけ良くなっているのかを見分けられるようになります。
効いたのにすぐ戻る経過に出会ったときほど、基本動作まで評価を戻して、仮説と確認の順序を立て直してみてください。
瀬谷崎1年以上の腰痛で、他院の整体では受けた直後は楽になるが翌日には戻る、を半年繰り返してから来院した方の相談です。当院でも初回は伸展痛がほぼ消えたものの、2〜3回目は施術直後に変化が出てもすぐ元へ戻る状態になりました。
立位と座位、右回旋と左回旋で痛む条件が入り組み、担当者は膝と股関節にまたがる大腿直筋の関与を思い浮かべて施術し、結果的に改善しました。ただ、その場面で大腿直筋の確認検査を通していなかったため、なぜ効いたのかを後から詰め切れずにいた、という振り返りでした。
直後の変化に頼らず、推論を確認検査で裏づけ直す。「施術直後は良いのにすぐ戻る」を立て直す本記事の手順と同じ検討でした。




