ストレッチで全部の筋肉を伸ばせるわけではない。伸長感が出にくい筋をどう考えるか

伸びている感じがしない筋肉もある

ストレッチは便利な指導ですが、すべての筋肉で分かりやすい伸長感が出るわけではありません。「伸びないならもっと強く」ではなく、その筋肉を狙うこと自体が適切かを考える必要があります。

最初に整理したいこと

「ストレッチしにくい筋」=「ストレッチが無意味な筋」ではありません。

ここで見たいのは、効果の有無ではなく、狙った筋に十分な伸長感を出せる構造かどうかです。

患者さんにストレッチを指導していると、「ここが伸びている感じがしません」と言われることがあります。

そこで、もっと角度を強くしたり、反動をつけたり、押し込んだりしたくなるかもしれません。

でも、筋肉によっては、そもそも狙って伸長感を出しにくいものがあります。

筋肉の位置、関節の構造、身体同士の接触、伸びる前に別の組織が制限になることなどが関係します。

つまり、伸びている感じがしないのは、患者さんのやり方が悪いからとは限りません。

まなぶ先生
まなぶ先生

大殿筋のストレッチってよく聞きますけど、あれも伸びにくいんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

効果がないかどうかは別です。ただ、大殿筋に分かりやすい伸長感が出る前に、大腿部と体幹が接触して動きが止まりやすいんです。

すべての筋肉を、同じようには伸ばせない

ストレッチというと、「筋肉を伸ばすもの」と考えます。

もちろん大枠としてはその通りです。

ただし、臨床で大事なのは「その動きで本当に狙った筋が伸ばされているのか」です。

たとえば、股関節を曲げて大殿筋を伸ばそうとしても、途中で太ももがお腹や胸に当たることがあります。

この場合、本人はお尻を伸ばしたいのに、構造的にはそこで動きが止まります。

さらに、股関節周囲の別の組織や、腰背部、ハムストリングス、深部外旋筋などの感覚が先に出ることもあります。

大事な分け方

ストレッチで変化が出るかどうかと、狙った筋に伸長感が出るかどうかは別の話です。伸長感がないから無効とも言えませんし、伸長感があるから狙い通りとも言えません。

伸長感を出しにくいとされる筋

以下の筋は、部分的にしか伸ばしにくい、あるいは伸ばしても分かりやすい伸長感を得にくい筋として考えられます。

もちろん、個人差や肢位、目的によって変わります。ここでは「強く伸ばせばいい」と考えすぎないための整理として見てください。

頭頚部・顔面

  • 咬筋
  • 側頭筋
  • 後頭下筋
肩甲帯・胸郭

  • 棘上筋
  • 小胸筋
  • 広背筋
  • 胸椎傍脊柱起立筋
上肢

  • 回外筋
  • 上腕筋
股関節・下肢

  • 大殿筋
  • 大腿四頭筋(大腿直筋以外)
  • 前脛骨筋
  • 膝窩筋

たとえば後頭下筋群は深部にあり、頭頚部の細かな運動制御にも関わります。

ここを「硬いから強く伸ばす」「押して緩める」と単純に扱うと、狙った変化とは違う反応が出る可能性があります。

また、小胸筋や棘上筋のように、周囲の骨や関節、他の筋の影響を受けやすい筋では、ストレッチ感が別の部位に出てしまうこともあります。

伸びにくい理由は、ひとつではない

「伸ばせない筋」と言っても、理由は同じではありません。

伸びる前に関節可動域が止まることもあれば、身体同士の接触で肢位が作れないこともあります。

深部にあるため感覚として捉えにくいこともありますし、別の組織の伸張感が先に出ることもあります。

関節で止まる

狙った筋が十分に伸びる前に、関節可動域や骨性制限で動きが止まることがあります。

身体が接触する

大殿筋のように、伸ばしたい感覚が出る前に大腿部と体幹が当たることがあります。

感覚が別に出る

伸ばしたい筋ではなく、周囲の筋、神経、関節包、皮膚などの感覚が先に出ることがあります。

ストレッチの研究では、可動域の変化に筋腱の硬さだけでなく、伸張に対する許容度や感覚の変化が関わることも示されています。

つまり、「伸びた感じ」がそのまま筋肉の長さの変化を表しているわけではありません。

だからこそ、伸長感だけを頼りにストレッチの良し悪しを判断するのは危険です。

臨床では、目的から逆算して考える

ストレッチを指導する時は、最初に目的をはっきりさせた方がいいです。

筋肉を伸ばしたいのか。関節可動域を広げたいのか。痛みへの不安を減らしたいのか。運動のきっかけを作りたいのか。

目的が違えば、同じストレッチでも評価の仕方が変わります。

  • 狙った筋に伸長感が出ているか
  • 伸長感がなくても可動域や動作は変わっているか
  • 痛みや不安を増やしていないか
  • 患者さんが自宅で再現できるか
  • ストレッチ以外の方法の方が目的に合っていないか

たとえば大殿筋に分かりやすい伸長感を出すことが難しいなら、無理にお尻の伸び感を追う必要はありません。

股関節の動き、体幹の使い方、スクワットやヒップヒンジのような運動、歩行や日常動作の変化を見る方が、目的に合う場合もあります。

「ストレッチで伸ばす」より、「動けるようにする」ことが大事な場面は少なくありません。

まなぶ先生
まなぶ先生

じゃあ、伸びている感じがしないストレッチはやめた方がいいですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

目的次第です。伸長感がなくても、動きや痛みが変わるなら意味があるかもしれません。ただ、「狙った筋が伸びている」と言い切るのは一度立ち止まった方がいいです。

伸長感を追いすぎると、雑になる

ストレッチ指導でよくあるのは、「もっと伸びるところまで」「痛気持ちいいところまで」という説明です。

分かりやすい一方で、これだけだと雑になることがあります。

伸長感が出にくい筋に対して、無理に強度を上げると、狙っていない組織に負担がかかるかもしれません。

また、患者さんが「伸びていないから効いていない」と思い込み、必要以上に強く行ってしまうこともあります。

指導で伝えたいこと

ストレッチは、強い伸長感を出すほど良いわけではありません。伸び感、痛み、可動域、動作の変化を合わせて見ながら、目的に合う強度を探すことが大切です。

特に痛みがある患者さんでは、「伸ばせば治る」という説明が、かえって身体への警戒心を強めることがあります。

必要なのは、筋肉を無理に伸ばすことではなく、患者さんが安心して身体を動かせる状態を作ることです。

伸ばす前に、何を変えたいのかを見る

ストレッチは悪いものではありません。

可動域を広げる、身体を動かすきっかけを作る、痛みへの不安を下げる、セルフケアとして続けやすい。

そういう意味では、とても使いやすい方法です。

ただし、すべての筋肉を同じように伸ばせるわけではありません。

伸長感が出にくい筋に対して、無理に「伸びている感じ」を作ろうとすると、目的からずれていきます。

大事なのは、伸ばした気になることではありません。

そのストレッチで、患者さんの痛み、可動域、動作、不安、生活がどう変わるのかを見ることです。

瀬谷崎
瀬谷崎

伸びている感じが出ないなら、強くすればいいという話ではありません。狙った筋を本当に伸ばせているのか、そのストレッチで何を変えたいのか。そこを見直すだけで、指導はかなり丁寧になります。

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