整骨院でAI活用を進める前に。便利さより先に疑い方を持つ
瀬谷崎コラム
AIは臨床家の判断を助ける。でも、責任までは引き受けない
AIによる臨床判断支援は、かなり使える可能性があります。ただし、AIが出した有害な提案がそのまま記録や判断に反映されることもある。便利さと危うさを同時に見ておかないと、臨床では普通に危ないと思います。
AIを使うかどうかより、AIの出力をどう疑えるか。これから整骨院や治療院でもAIを使う場面は増えるはずですが、最終的に患者さんの前に立つのはAIではなく臨床家です。
AIを臨床に使う流れは、もう止まらないと思います。
問診の整理、鑑別の候補出し、紹介状の下書き、患者説明の文章化、論文の要約、院内マニュアルの作成。
整骨院や治療院でも、AIを使う場面はかなり増えていくはずです。
実際、AIは便利です。
人間が見落としていた視点を出してくれることもあります。
でも、その便利さは「AIが正しい」という意味ではありません。
むしろ、AIが優秀に見えるからこそ、間違った提案を疑えないことが危ない。

まなぶ先生

瀬谷崎
Nature Healthの研究が示した、AI臨床判断支援の両面性
Nature Healthに、アフリカのプライマリケアで使われたLLMベースの臨床意思決定支援システムに関する研究が掲載されました。
研究では、ケニアの16のプライマリケア施設で、電子カルテに組み込まれたAIによる臨床判断支援システムを評価しています。
対象は、AIが使われた記録のうち、医師パネルが確認した1,469件です。
結果を見ると、AIは多くの場面で有用でした。
一方で、無視できない危険もありました。
- AIの出力にハルシネーションが確認されたのは50件、全体の3.4%。
- 臨床管理の提案は、ほぼすべてのケースで現地ガイドラインと整合していた。
- 一方で、AIによる潜在的に有害な提案は115件、全体の7.8%。
- そのうち67件では、有害な提案が最終的な記録に反映されていた。
- 逆に、初期記録にあったリスクがAIによって完全または部分的に軽減されたケースも報告された。
これを見ると、単純に「AIは危ない」とも「AIはすごい」とも言えません。
AIはリスクを減らすこともある。
でも、AIがリスクを増やすこともある。
そして重要なのは、AIの出力を医療者がどう受け取り、どこまで採用したかです。
危ないのは、AIの間違いより「採用のされ方」
AIが間違えること自体は、ある程度想定しておくべきです。
問題は、その間違いが臨床家の判断を通過して、実際の記録や方針に入り込むことです。
今回の研究でも、有害と評価されたAIの提案の一部が、最終的な記録に反映されていました。
これはかなり重要です。
AIが間違っただけなら、まだ止められます。
でも、臨床家がその間違いを「もっともらしい」と感じて採用してしまえば、患者さんに影響する可能性があります。
AIの危険性は、嘘をつくことだけではありません。もっともらしく、整った文章で、臨床家が採用したくなる形で出てくることです。だからこそ、AIを使う側の判断力が問われます。
AIは、自信なさそうに間違えてくれません。
かなり堂々と、それっぽく出してきます。
しかも、文章がきれいです。
だから、知識がない人ほど「なんか正しそう」と思ってしまう可能性があります。
臨床家の判断力が弱い状態でAIを使うと、AIは判断力を補うどころか、誤った判断を強化することがあります。
整骨院でAIを使うなら、まず守備範囲を決める
整骨院や治療院でAIを使う場合、医療機関での臨床判断支援とは前提が違います。
診断を確定する場ではありません。
薬を処方する場でもありません。
画像検査や血液検査をその場で行うわけでもありません。
だからこそ、AIに何をさせて、何をさせないのかを決めておく必要があります。
- 問診内容の整理に使う
- 見落としやすいレッドフラッグの確認に使う
- 患者説明の言い換え案を出す
- 紹介状や情報提供書の下書きを補助させる
- 鑑別候補の「抜け」を確認する
このあたりは、AIの使いどころとして有用だと思います。
一方で、AIに診断を決めさせる、施術の適応を丸投げする、医療機関へ送るべきかどうかを最終判断させる、という使い方は危ないです。
AIは補助です。
最終判断は、臨床家が引き受ける必要があります。
AIは、臨床家の実力差を消さない
AIがあれば、誰でも同じように臨床判断できるようになる。
そう期待したくなる気持ちは分かります。
でも、現実にはそう簡単ではないと思います。
AIの出力を読むには、前提知識が必要です。
その提案が妥当かどうか、どこが怪しいか、患者さんの背景に合っているか、整骨院の守備範囲を超えていないか。
これを判断するのは人間です。
AIを使える人と、AIに使われる人の差は、たぶん知識量だけではありません。AIの出力を疑い、修正し、採用しない判断ができるかどうかです。
AIは、臨床家の実力差をゼロにするものではありません。
むしろ、実力差を広げる可能性があります。
知識がある人は、AIを壁打ち相手として使えます。
知識がない人は、AIの出力をそのまま信じやすくなります。
つまり、AIは臨床家の判断力を置き換えるというより、判断力を増幅する道具なのだと思います。
院内で使うなら、ルールがいる
AIを個人の便利ツールとして使うだけなら、まだリスクは個人の範囲に見えます。
でも、院内で使うなら話は別です。
新人も使う。中途スタッフも使う。受付や広報でも使う。患者説明にも使う。
こうなると、院として最低限のルールが必要になります。
- 患者さんの個人情報を入力しない
- AIの回答をそのまま患者説明に使わない
- 診断名や疾患名を断定する文章は必ず確認する
- レッドフラッグや対診判断は人間が最終確認する
- 院内マニュアルやガイドラインと矛盾しないか確認する
- 出力の根拠が不明な場合は、必ず一次情報やガイドラインに戻る
AIを使うこと自体が悪いわけではありません。
むしろ、正しく使えばかなり有用です。
ただ、便利だからといってルールなしで使うと、院内の臨床判断や患者説明がバラバラになります。
AIを導入するなら、使い方のマニュアルも必要になります。
AIに任せるほど、臨床家の責任は軽くならない
AIによる臨床判断支援は、臨床の質を上げる可能性があります。
見落としを減らすかもしれません。
情報整理を速くするかもしれません。
紹介や説明の質を上げるかもしれません。
ただし、AIは責任を取ってくれません。
AIが出した提案を採用したのは誰か。
AIの出力を患者さんに伝えたのは誰か。
AIの間違いを見抜けなかったのは誰か。
最終的には、患者さんの前に立っている臨床家です。
だから、AIを使うなら、AIを疑う力も一緒に育てる必要があります。
便利な道具を使うほど、人間側の基準が問われる。
AI時代の臨床は、たぶんそういう方向へ進んでいくのだと思います。

瀬谷崎












