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変形性膝関節症で膝に水がたまる。関節水腫は抜くべきかを機能障害の有無から考える

膝の水、抜くか抜かないか。『クセになる?』と聞かれたときの判断と答え方

変形性膝関節症の患者さんから「水を抜くとクセになるって本当ですか」と聞かれて、答えに迷ったことはないでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった、膝に水がたまりやすい患者さんの相談をもとに、関節水腫を抜くべきかどうかの判断を考えます。

検討のきっかけは、50代の患者さんについての相談でした。以前は整形外科で治療を受けてもよくならず、いまは膝の状態がほとんど回復して、日常生活も運動も問題なくこなせています。ただ、激しい運動をすると炎症反応が起きて滑液が過剰に分泌されるのか、膝に水がたまりやすい傾向だけが残っていました。

相談者が知りたかったのは線引きです。患者さんは「注射器1本分」といった表現で量を語りますが、どのくらいの量までなら体の中で自然に吸収されるのか。どこからは抜いたほうが早いのか。変形性膝関節症(膝OA=オーエー)の臨床で必ず出てくるのに、意外と即答しにくい問いです。

  • 水腫はどのくらいの量までなら自然に吸収されるのか
  • 抜くと楽になるという実感と、中長期の経過は一致するのか
  • 「水を抜くとクセになる」という通説に、どう答えるか
  • 抜く・抜かないの判断を、何を軸に置くか
まなぶ先生まなぶ先生

毎週のように整形外科へ水を抜きに通う患者さん、実際にいますよね。ご本人は抜くと楽になると言うのに、周りから『クセになるよ』と言われて不安になっている。施術者としてどちらの側に立つべきか、迷う場面です。

教子先生教子先生

私は量の基準が気になります。どのくらいまでなら自然吸収に任せてよくて、どこからは穿刺が現実的なのか。数字があるなら、患者さんへの説明にも使えますから。

瀬谷崎瀬谷崎

検討の場でも、まずその量の線引きを聞かれました。ただ先に言ってしまうと、量の数字では線を引けなかったんです。判断の軸は別のところにあると考えています。

抜いた群と抜かない群、中長期の差は大きくなかったという報告

検討の場で共有されたのは、穿刺で抜いた群と抜かなかった群を比べて、中長期的な膝の機能障害や痛みにあまり差がなかったとする研究を見たことがある、という話でした。文献そのものは後日あらためて共有する、という水準の情報です。

この報告から読み取れることは二つあります。ひとつは、たまった水の多くは体の中で自然に吸収される方向だとみられること。もうひとつは、穿刺が必ずしも優れた選択というわけではないことです。一方で、注射で抜くことによる大きなデメリットも見当たらない、というのが検討でのおおよその感触でした。つまり「絶対に抜くべき」にも「絶対に抜いてはいけない」にも寄せられない。ここが出発点になります。

出所について

この研究の話は、検討の場で「そういう論文を見たことがある」という水準で共有された情報です。本記事でも研究名や効果の数値には踏み込まず、同じ粒度で扱います。

水腫が内側広筋を抑える。関節原性筋抑制という視点

それでも水腫をそのままにしにくい理由があります。関節に水がたまると、内側広筋を中心に大腿四頭筋の収縮力が下がるとされている点です。関節原性筋抑制と呼ばれる、関節の腫れそのものが筋の働きを抑えてしまう現象です。

膝を伸ばす要である内側広筋が働きにくくなれば、立ち上がりや階段で膝を支えにくくなり、二次的な機能障害につながります。検討で共有された臨床印象でも、水そのものより、この二次的な機能障害こそが気になる点でした。だからこそ、機能障害がはっきり出ているレベルであれば、定期的に穿刺で抜くことも選択肢に入る、という判断になります。

まなぶ先生まなぶ先生

量が多いほど筋抑制も強い、と単純に比例で考えていました。評価のとき、水の量そのものはどう扱えばいいんでしょう。

瀬谷崎瀬谷崎

重度の水腫ほど機能障害の程度が上がる、という傾向自体はあるとされています。ただ、どこからが重度なのかという線引きがはっきりしないんです。だから量の見た目ではなく、機能の側を直接評価するほうが確実だと考えています。

量の線引きより、機能障害の有無で判断する

どのくらいの量までなら自然吸収されるのか、という最初の質問に対する明確な数字は、検討の場でも出ませんでした。重度・中等度といった表現がどの程度の量を指すのかも、はっきりしません。そこで判断の軸を、量から機能へ移します。見るのは水の量ではなく、膝がきちんと使えているかどうかです。

判断の型

検討で共有された判断の型は次のとおりです。水腫の量ではなく、機能障害の有無を評価の中心に置きます。

  • 内側広筋の収縮低下など機能障害がはっきりある → 定期的な穿刺も選択肢。医師との相談につなぐ
  • 機能障害がなく、本人も気にしていない → 抜いても抜かなくても変わらないなら、経過観察でよい
  • どちらの場合も、最終的には患者さん本人の希望を尊重する

「クセになる?」と聞かれたときの答え方

検討では、患者さんへの説明の実際も共有されました。「抜いたほうが絶対にいい、という状態ではありません」とまず伝え、それでもご本人が気になるようなら「では定期的に抜くのもいいかもしれませんね」という表現で受ける。どちらかに押し切らない説明です。これを手順にすると、次のようになります。

  1. 言い切りを避けて事実を伝える「クセになるからダメ」とも「抜けば安心」とも言い切らず、抜いた場合と抜かない場合で中長期の経過に大きな差がなかったとする報告があること、抜くこと自体の大きなデメリットも見当たらないことを伝えます。
  2. 判断の軸を量から機能へ移す見るべきは水の量ではなく、太ももの筋肉がきちんと働いているか、立ち上がりや階段など日常の動作に支障が出ているか、であることを共有します。
  3. 医師との相談につなぐ関節穿刺は医師が行う医療処置です。施術者の役割は、機能の状態という判断材料をそろえて、抜くかどうかをご本人が主治医と相談できるようにすることです。
  4. ご本人の希望を尊重する機能障害がなく、ご本人も困っていなければ経過観察でよい。そのうえで最終的にどうするかは、ご本人の希望で決めてよいと伝えます。

施術者が穿刺の可否を決めることはできません。ただ、膝の機能をいちばん近くで継続して見ているのは施術者です。運動後にたまりやすい、内側広筋の働きが落ちている、日常動作は保てている。そうした観察を伝えるだけで、患者さんと医師の相談はぐっと具体的になります。

瀬谷崎瀬谷崎

水腫の相談は、抜く・抜かないの二択に見えて、実際には機能評価と受診の橋渡しの仕事だと思っています。量の基準が数字で出せない領域だからこそ、機能障害の有無というシンプルな軸を持っておくと、患者さんの前で迷いにくくなります。文献で確かめられる情報と、臨床印象の水準の情報を分けて伝えることも、信頼につながるはずです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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