妊娠中の梨状筋症候群疑いに鍼を使えないとき。手技と運動での組み立て
セラピスト向け
伸張で出るか、収縮で出るか。テストの2系統がそのまま介入の分岐になる
妊娠中の患者さんの梨状筋症候群疑い。鍼灸師なら鍼という選択肢がありますが、柔道整復師をはじめ鍼を使えない条件では、手技と運動で何を軸に組むのか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、テスト結果から介入を選ぶ考え方を紹介します。
相談のきっかけは、妊娠中の患者さんの症例でした。右の殿部から大腿部にかけてしびれがあり、梨状筋症候群やDGS(深殿部症候群)が候補に挙がるケースです。相談した先生は鍼灸師として鍼で対応したうえで、「鍼を使えない柔道整復師の先生なら、手技やストレッチでどうアプローチするのか」と問いを投げてくれました。
妊娠中は体位や刺激の強さに配慮が要り、鍼を選ばない判断も現場では十分あり得ます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎テストは「伸ばして出るか」「縮めて出るか」の2系統で見る
梨状筋症候群のテストは、大きく分けると2系統です。梨状筋に伸張ストレスをかけて症状が誘発されるかを見る方法と、梨状筋を収縮させて誘発されるかを見る方法。どう伸ばすか、どう縮めるかで細かなパターンは変わりますが、骨格はこの2つです。個々のテストの選び方はフェアテストと優先順位の記事で扱っています。
この2系統は鑑別のためだけでなく、どちらで症状が出たかがそのまま介入の分岐として使えます。
伸張でも収縮でも症状が誘発されるなら、それだけ反応が出やすい状態、つまり炎症が強く起きている可能性があります。検討の場では「その場合は一旦待つ。炎症が落ち着いてから介入する」という判断が共有されました。もっとも、両方で陽性になる例は多数派ではないだろう、というのが検討の場での臨床印象です。
収縮で出るタイプはストレッチ主体で組む
収縮させたときに症状が出るタイプであれば、ストレッチ系を主体に組む。これが基本の分岐の片側です。収縮という負荷で誘発される筋に対して、伸張方向からのアプローチで緊張を落としにいく形になります。
伸張で出るタイプはIb抑制を使った自動介助運動
逆に、伸張ストレスで症状が出るタイプでは、ストレッチは誘発と同じ方向の負荷になります。ここでは収縮の側を使います。鍵になるのがIb抑制(アイビーよくせい)。腱への持続的な刺激で筋の緊張が反射的に落ちる仕組みで、梨状筋を自分で収縮させる運動を繰り返してこの反射を引き出します。
- 軽度屈曲位に設定する股関節を軽く曲げた肢位をとります。深く屈曲させると梨状筋が働きにくくなるため、あくまで軽度屈曲にとどめます。
- 外旋の自動介助運動を繰り返すその肢位で股関節を外旋させる運動を、セラピストが介助しながら患者さん自身に繰り返してもらいます。
- Ib抑制で緩める収縮の繰り返しでIb抑制を引き出し、やや伸張位に持っていきながら、梨状筋の緊張としびれの変化を確かめて進めます。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎筋硬結への押圧は「症状が誘発されない」が条件
梨状筋の筋硬結(しこり状に硬くなった部分)に押圧の手技を使う先生は多いはずです。検討の場での見解は、触診が正確にできていて、触れても症状が誘発されないのであれば選択肢になる、というものでした。押して症状が出るようなら、その刺激は避けるサインとして扱います。
検討の場でも「かなり経験的、感覚的な話」と断りが添えられていました。土台は触診の精度。梨状筋に確かに触れられているかが、選択肢に入るかを分けます。
緩んでからが後半戦。坐骨神経の滑走へ
梨状筋の緊張が落ち、症状が改善してきたら、テンショナーとスライダー、つまり神経モビライゼーション(神経の滑走を促す運動)を使って坐骨神経の滑走を促していく。ここまでが一連の流れとして共有されました。2つの手技の使い分けはテンショナーとスライダーの記事で解説しています。
- 伸張・収縮の両方で誘発されるなら、炎症が強い可能性。沈静化を待つ
- 収縮で誘発されるタイプは、ストレッチ主体で組む
- 伸張で誘発されるタイプは、Ib抑制を使った外旋の自動介助運動で緩める
- 筋硬結への押圧は、症状が誘発されない場合に限って選択肢
- 改善後はテンショナー・スライダーで坐骨神経の滑走を促す
妊娠中の患者さんでは、この流れ全体に体位と刺激強度への配慮がかかります。経過が思わしくないときや判断に迷う変化があるときは、産科の主治医への相談を勧め、連携しながら進める。診断はあくまで医師の領分であることも、いつも以上に意識しておきたい前提です。
教子先生
瀬谷崎





