令和8年の療養費改定で売上は下がるのか。数字で試算した接骨院への影響と、本当の論点
セラピスト向け
数字は上がる。問われているのは中身
今月1日から施行された令和8年の柔道整復療養費改定。「売上が落ちる」という相談をよく聞きますが、単価まで見て試算すると、悪くてプラマイゼロ、多くの院で少しプラスです。ではなぜ現場はざわついているのか。数字の中身と、その裏にある本当の締め付けを、接骨院の経営者目線で見ていきます。
療養費改定は原則2年に1回。以前は医科の改定率に半分を掛けたような数字合わせが中心でしたが、令和4年から6年あたりを境に、多部位請求や長期請求を締め、透明化を進める方向へ舵が切られています。今回の改定も、その流れの中にあります。
まず全体の解説を動画で行っています。数字の根拠や現場のニュアンスは、こちらで確認できます。
動画で解説しています(柔整・令和8年療養費改定)。主な数字は本文の表でも確認できます。
なお、改定「案」の段階での申請構造の読み解きは柔道整復療養費の令和8年度改定案。上がる項目より、申請構造の見直しを読むで扱いました。この記事では、施行後に売上がどう動くかを実際の数字で試算し、その先にある論点まで踏み込みます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎改定の全体像。0.6%アップは医科の倍以上
今回の全体改定率は0.6%のプラス。柔整はこれまで医科の半分程度の引き上げが通例でしたので、医科の倍以上という水準は、単価だけ見ればかなり大きい引き上げです。基本料金は軒並み上がっています。
一方で、多部位や長期の請求には、これまで以上に強いブレーキがかかりました。上がる項目と締まる項目が同居しているのが、今回の特徴です。
基本料金は軒並みプラス。後療料が45円上がった
算定頻度がいちばん高いのは、2回目以降の施術にかかる後療料です。ここが505円から550円へ、45円も上がりました。売上インパクトがもっとも大きいのはこの一点です。
| 項目 | 改定前 | 改定後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 初検料 | 1,550円 | 1,560円 | +10円 |
| 再検料 | 410円 | 420円(3回目も算定可) | +10円 |
| 施術料(打撲・捻挫の初回) | 760円 | 770円 | +10円 |
| 後療料(2回目以降) | 505円 | 550円 | +45円 |
| 電療料 | 33円 | 46円 | +13円 |
| 温罨法 | 85円 | 80円 | −5円 |
電療料が33円から46円へ。冷罨法もわずかに上がり、温罨法はエビデンスの観点から85円から80円へ微減しました。ここまでが、プラスに効く単価の話です。
厳しくなった条件。2部位目の逓減と初検料の3ヶ月ルール
相談してきた院長が焦っていたのは、ここです。締まった点は主に3つあります。
- 2部位目の逓減。これまで1部位目と2部位目は100%請求できましたが、今回から2部位目が80%へ減額されました(3部位目は60%)。
- 初検料の3ヶ月ルール。同じ部位で再度初検料を算定するには、前回から3ヶ月以上の間隔が必要になりました。怪我と治癒を短期間で繰り返す患者が多い院ほど響きます。
- 自己・家族への施術は療養費の対象外であることが、あらためて明確化されました。
見出しだけ拾うと「減らされた」印象が強く残ります。売上が落ちると身構えるのも無理はありません。ただ、後で試算するとおり、後療料の底上げがこのマイナスを吸収します。
償還払いの対象拡大。8ヶ月・9部位のカウントはもう始まっている
本来、柔整の療養費は、患者がいったん窓口で10割を払い、後から自分で保険者に申請して7割分の返金を受ける償還払いが原則です。これでは患者の負担が大きいため、院が代わりに請求する受領委任払いが認められています。ここが償還払いに戻されると、患者離れへ直結します。
今回、直近1年以内で通算8ヶ月以上、かつ9部位以上の施術を受けた患者が、償還払いへの変更対象になり得ると示されました。たとえば3部位を3ヶ月ずつ、これを年に3回繰り返すと、通算9部位・9ヶ月に届いてしまいます。
施行は来年1月からですが、条件は「直近1年」で数えます。つまり今年の分もさかのぼってカウントされる。年末あたりに、保険者から突然「この患者は償還払いへ」と通達が来る可能性があります。今から部位数と通院期間の実態を把握しておきたいところです。
とはいえ、瀬谷崎の見立てでは、この条件に全員が即時該当するとは考えにくく、現場では実態に合わせた部位数や期間の調整が進むはずです。過度に恐れる必要はありません。
売上はどう動くか。試算するとプラマイゼロからプラス
マイナス面とプラス面を同じ患者像で足し引きすると、後療料などのベースアップが効いて、計算上は相殺されます。実際に試算した増減がこちらです。
1部位請求の患者:およそ+13%
2部位請求の患者:およそ+3.2%
3部位請求の患者:およそ+4.3%
初検料が入らない2ヶ月目以降であっても、後療料の底上げのおかげで、経営が傾くほどのマイナスにはなりません。結論としては、悪くてプラマイゼロ、多くの院で少しプラス。減額の見出しに引きずられて身構える必要はない、というのが数字の答えです。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎明細書の毎回発行が示す、透明化の本気度
これまで月1回で済んでいた明細書の発行が、今回から毎回必須になりました。しかも、どの部位を施術したか(負傷名)まで記載しなければなりません。患者は「どこを、いくらで」施術されたかを毎回正確に受け取ることになります。
ここで炙り出されるのが、部位数に関係なく窓口一律いくら、といった丸め料金です。明細書を出せば、その差額が何の料金なのかを患者にも保険者にも説明できなくなる。辻褄の合わない明細を出し続ければ、指導の対象になりやすくなります。
2部位を高頻度に算定していて、なおかつ明細書発行加算がない(明細書を出していない)院は、今回の改定で数%のマイナスになります。基本は多部位で、ふだん明細を出さずに不透明な運用をしている院へのピンポイントな締め付け。単価は上げつつ、不透明な運用だけを狙い撃つ設計になっています。
裏を返せば、1部位できちんと請求し、明細書を毎回出している院は、単価アップの恩恵をそのまま受け取れます。もちろん、本当に転倒して2箇所を痛める患者は普通にいるので、まともにやっている院からすると2部位目の減額は理不尽に映る面もあります。それでも全体の設計思想は、透明にやっている院を評価する方向で一貫しています。
2年後の改定と、資格の価値をどう守るか
「次回は2部位目が6割、3部位目が半額になるのでは」と危ぶむ声もあります。ただ、そこまでやると柔整側の政治的な反発が強すぎるため、極端な変化は起きにくいというのが瀬谷崎の予想です。
とはいえ、今回は国からの本気の牽制です。「売上への影響がなかったから」とタカをくくって何もしないでいると、次の改定で気づいたときには手遅れになる院も出てきます。柔道整復師の資格の価値のひとつは、療養費が使えることです。ここが厳しくなりすぎれば資格の魅力そのものが薄れ、業界を目指す若者も減ってしまいます。だからこそ、適正な請求で信頼を守ることが、めぐって自分たちの職域を守ります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎保険を適正に使いつつ、自費で価値を示す
今回の改定は、単価では医科の倍以上のプラス。売上は悪くてプラマイゼロ、多くの院で少し上がります。数字の面で怖がる必要はありません。
本当に問われているのは、不透明な運用をやめて透明にやれるか、そして療養費という一本足から抜け出せるか、という中身の部分です。制度を怖い出来事として受け取るより、自分たちの運用を見直す機会として使うほうが、長い目では強くなれます。
瀬谷崎





