接骨院の保険請求で迷ったときに、柔道整復師が立ち返りたい倫理観

その「保険請求」に、後ろめたさは残っていないか

接骨院・整骨院で一般に「保険請求」と呼ばれることの多い手続きは、制度上は正確には療養費の申請です。だからこそ、制度の細かさに逃げるのではなく、自分の説明と記録に胸を張れるかを見直す必要があります。

迷う申請ほど、慎重に扱った方がいいです。外傷性の負傷として説明できる根拠があるのか。患者さんにも保険者にも同じ説明ができるのか。そこに後ろめたさがあるなら、立ち止まるサインです。

表記について

この記事では、検索されやすい一般的な言い方として「保険請求」という表現も使います。ただし、柔道整復師の制度上は正確には「療養費の申請」です。制度の説明や実務上の判断では、療養費の申請として整理します。

接骨院や整骨院の、いわゆる保険請求、つまり療養費の申請については、昔からいろいろな議論があります。

長く続いている腰痛を療養費の対象として扱ってよいのか。慢性的に見える症状でも、きっかけがあれば外傷性の負傷として考えられるのか。どこまでが適正で、どこからが不正なのか。

このあたりは、現場にいる人ほど簡単に割り切れない部分があると思います。

ただ、少し辛口に言うと、「グレーだから仕方ない」という言葉で、自分の中の後ろめたさまでごまかしてはいけません。

まなぶ先生
まなぶ先生

制度が複雑だと、何が正しいのか分からなくなる場面はありそうです。

瀬谷崎
瀬谷崎

あります。ただ、複雑だからこそ、自分が嘘をついていないかは見た方がいいです。そこは制度以前の問題です。

いわゆる保険請求の前に、対象範囲を確認する

柔道整復師の療養費は、基本的に骨折、脱臼、打撲、捻挫などの外傷性の負傷を対象に考えます。

骨折や脱臼では、応急処置を除いて医師の同意が関わる場面もあります。慢性的な肩こりや疲労、内科的な原因による不調を、外傷として扱うのは自然ではありません。

もちろん、実際の現場では「慢性的に見えるけれど、直近の動作や負傷機転が関与している」と考える場面もあります。ここがややこしいところです。

だからこそ、記録と説明が大切になります。

まず確認したいこと

いつ、どこで、何をして、どの部位を痛めたのか。外傷性の負傷として説明できる材料があるのか。患者さん本人にも、保険者にも、同じ説明ができるのか。この確認を飛ばすと、申請の土台が崩れます。

大事なのは、療養費の対象にする方向へ無理やり話を作ることではありません。

患者さんの状態を見て、療養費の対象として扱う根拠があるのかを冷静に見ることです。

明らかな黒と、判断に迷うグレーを混ぜない

療養費申請には、たしかに判断が難しい部分があります。

ただし、判断が難しいものと、最初から嘘をついているものは違います。

たとえば、本当は長年の慢性腰痛だと分かっている。外傷性のきっかけもない。それなのに、架空の負傷理由を作って申請する。これはかなり危ないです。

一方で、負傷のきっかけや状態を確認し、外傷性の要素があると考えて申請した結果、保険者が判断する。こういうケースまで、現場の会話だけで単純に断定するのは難しいことがあります。

状況 考えたいこと 注意点
慢性症状を外傷として作り替える 説明そのものが嘘になっていないか 不正の可能性が高く、かなり危険
負傷機転があり、外傷性の所見がある 記録と説明が一致しているか 保険者の判断も含めて慎重に扱う
判断に迷う 同じ説明を第三者にできるか 迷いを売上都合で処理しない
会社から部位数や売上を求められる 臨床判断がノルマに引っ張られていないか 構造的なリスクとして見る
慢性症状を外傷として作り替える

考えたいこと:説明そのものが嘘になっていないか

注意点:不正の可能性が高く、かなり危険

負傷機転があり、外傷性の所見がある

考えたいこと:記録と説明が一致しているか

注意点:保険者の判断も含めて慎重に扱う

判断に迷う

考えたいこと:同じ説明を第三者にできるか

注意点:迷いを売上都合で処理しない

会社から部位数や売上を求められる

考えたいこと:臨床判断がノルマに引っ張られていないか

注意点:構造的なリスクとして見る

「グレーがある」という事実は、「だから何をしてもいい」という意味ではありません。

むしろ、グレーがあるからこそ、記録・説明・倫理観が問われます。

胸に手を当てる、というかなり現実的な確認

法律や制度の細かい議論は、専門的な確認が必要になることがあります。

ただ、多くの場合、自分の中では分かっていることもあります。

これは外傷ではないよな。これは説明を作っているだけだよな。本当は慢性症状だよな。患者さんに同じ説明をしたら、たぶん違和感があるよな。

そう感じているなら、かなり危ないサインです。

胸に手を当てて「これは本当に外傷性の負傷として説明できるか」と考えた時に、言葉が詰まるなら、一度立ち止まった方がいいです。

これは精神論だけではありません。

自分の説明に後ろめたさがある状態は、記録も雑になります。患者さんへの説明もぶれます。保険者から確認が来た時にも、同じ説明ができなくなります。

つまり、倫理的に苦しいだけでなく、実務上も危ない状態です。

まなぶ先生
まなぶ先生

「みんなやっているから」で流されることもありそうです。

瀬谷崎
瀬谷崎

そこが怖いです。みんながやっていることと、自分が説明できることは別です。自分の名前で申請するなら、自分の判断が残ります。

個人の倫理だけでなく、会社の仕組みも見る

不正な療養費申請の問題は、個人の倫理観だけで片づけられないことがあります。

入社時には正しい説明を受けたのに、現場に出ると療養費売上のノルマがある。部位数を増やす空気がある。上司から「これで申請して」と言われる。そういう環境では、若手ほど断りにくいです。

これは、かなり危ない構造です。

少し辛口に言うと

現場のスタッフに嘘をつかせないと成り立たない売上計画は、そもそも設計がおかしいです。臨床判断より売上ノルマが先に来る環境では、まともな判断がしにくくなります。

もちろん、組織の中で働いていると簡単には逆らえない場面もあります。

だからこそ、就職や転職の時点で、療養費申請への考え方を確認しておくことが大切です。入ってから「そういう院だった」と気づくと、かなり苦しくなります。

迷うなら、やらないという選択肢もある

現場では、判断に迷うことがあります。

この症状は対象になるのか。患者さんは療養費の申請を希望している。会社は売上を求めている。自費にすると来なくなるかもしれない。

そういう迷いがある時ほど、短期的な売上で判断しない方がいいです。

本当に説明できる根拠があるなら、記録し、患者さんにも正しく伝える。説明できないなら、療養費を申請せず自費で対応する、医療機関を案内する、申請しない。そういう選択肢を持っておく必要があります。

  • 負傷のきっかけを患者さんの言葉で確認しているか
  • 外傷性の負傷として説明できる所見があるか
  • 患者さんへの説明と申請内容が一致しているか
  • 保険者に確認されても同じ説明ができるか
  • 売上やノルマのために判断を曲げていないか

迷うこと自体が悪いわけではありません。

ただ、迷いを放置したまま申請するのは危ない。迷うなら、確認する。確認しても後ろめたいなら、やらない。このくらい慎重でいいと思います。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、患者さんへの説明と、院としての仕組みが矛盾しないことを大切にしています。

療養費の対象になるかどうかは、患者さんの希望だけで決めるものではありません。施術者側の都合や売上の都合で決めるものでもありません。

必要なのは、状態を確認し、対象範囲を踏まえ、患者さんに分かる言葉で説明することです。医療機関での確認が必要な可能性があれば、その点も含めてお伝えします。

瀬谷崎の考え方

グレーな悩みを抱えたまま働くと、臨床に集中できなくなります。余計な嘘をつかなくていい仕組みを作ることは、患者さんのためでもあり、働く側を守ることでもあります。

若手柔道整復師が自分を守るために

若手のうちは、職場のルールが正しいものに見えます。

上司がそう言うなら、先輩がそうしているなら、会社の方針なら。そうやって流されてしまうことがあります。

でも、自分の中で「これは説明できない」と感じるなら、その違和感はかなり大事です。

就職・転職で確認したいこと

療養費申請の対象範囲をどう教えているか。申請内容と患者さんへの説明が一致しているか。部位数や療養費売上のノルマが臨床判断を歪めていないか。迷った時に相談できる人がいるか。ここは入職前後に確認した方がいいです。

職場の仕組みが、自分に嘘をつかせる方向に働いているなら、そこから距離を取ることも選択肢です。

キャリアを守るというのは、技術を磨くだけではありません。危ない環境から自分を守ることも含まれます。

後ろめたさを残さない働き方を選ぶ

療養費申請には、簡単に白黒をつけにくい部分があります。

だからこそ、制度の複雑さを言い訳にしないことが大切です。外傷性の負傷として説明できる根拠があるのか。記録と説明が一致しているのか。患者さんにも保険者にも同じことを言えるのか。

そこを確認せず、売上や空気に流されて申請すると、後から自分の中にしんどさが残ります。

迷うなら確認する。説明できないならやらない。嘘をつかせる仕組みからは距離を取る。地味ですが、こういう判断が長く働くための土台になると思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

胸に手を当てて言葉が詰まる申請は、やっぱり一度止まった方がいいです。臨床家として長く働くなら、後ろめたさを抱えない仕組みを選ぶことも大事です。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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