柔道整復療養費の令和8年度改定案。上がる項目より、申請構造の見直しを読む
瀬谷崎コラム
10円上がる話ではなく、申請の癖が見られる改定
柔道整復療養費の令和8年度料金改定案では、料金の引き上げだけでなく、初検料・多部位申請・明細書・償還払いの扱いが整理されています。数字だけを見ると小さな改定でも、院の申請構造によって影響はかなり変わります。
改定率はプラスでも、全ての院が同じようにプラスになるわけではありません。特に多部位申請や部位転がしに依存している院ほど、今回の改定は売上構造を見直すきっかけになりそうです。
令和8年度の柔道整復療養費の料金改定案が出ています。
施行予定は令和8年7月1日です。
初検料、再検料、後療料、電療料など、いくつかの料金項目が見直されています。
ただ、今回の改定は「何円上がったか」だけを見てもあまり意味がありません。
むしろ見たいのは、療養費申請の透明化と、多部位・長期・頻回な施術への見直しが進んでいるという流れです。

まなぶ先生

瀬谷崎
令和8年度改定案の全体像
厚生労働省の資料では、柔道整復療養費の令和8年度改定率は、物価上昇への対応分を含めてプラス0.60%と整理されています。
一見すると、全体として少し上がる改定に見えます。
しかし中身を見ると、単純な一律引き上げではありません。
基本料金の評価、明細書発行の推進、多部位施術への逓減、償還払いへの変更対象の見直しなどが並んでいます。
初検料
1,550円 → 1,560円
施術継続中や終了・中止後3か月未満では、原則として算定できない方向で整理。
再検料
410円 → 420円
連続する2回の施術について算定できる方向。
施療料
760円 → 770円
打撲・捻挫に対する初回施術料の引き上げ。
後療料
505円 → 550円
打撲・捻挫では上がる一方で、2部位目80%、3部位以上60%の逓減体系へ。
温罨法・冷罨法
温80円 / 冷80円
温罨法は引き上げ、冷罨法は引き下げで同額に整理。
電療料
33円 → 46円
温罨法料等との料金差を縮める方向で引き上げ。
明細書・自己施術・償還払い
透明化と適正化の方向
明細書発行加算は発行時10円へ。自己施術・自家施術は支給対象外であることを明確化。長期かつ多部位の患者について償還払いへの変更対象が追加される方向です。
数字だけを見ると、ひとつひとつの変更は小さく見えます。
しかし、算定ルールの見直しを合わせて見ると、今回の改定は「何円上がったか」より「どの申請が見直されているか」を読むべき内容です。
初検料は上がるが、取り方は厳しくなる
初検料は10円引き上げられ、1回あたり1,560円になる方向です。
ただし、ここで重要なのは料金そのものではありません。
他部位を含めて施術継続中である場合や、施術終了・中止後3か月が経過していない場合には、初検料を算定できない方向で整理されています。
つまり、「別の部位だから初検料を取り直す」というような運用に対して、かなり明確な線が引かれようとしています。
初検料の10円アップよりも、施術継続中や3か月未満の再算定に対するルール整理の方が、実務上は大きい可能性があります。
一方で、終了・中止後1か月以上3か月以内の施術では、再検料を算定できる方向です。
さらに再検料は420円に引き上げられ、連続する2回の施術について算定できるとされています。
ここには、「初めて見る行為」と「継続的に見立て直す行為」を分けて評価したいという意図が見えます。
多部位申請には、より強いブレーキがかかる
打撲・捻挫の後療料は、505円から550円へと大きめに引き上げられます。
ただし同時に、2部位目は80%、3部位以上は60%の逓減体系へ進みます。
温罨法料、冷罨法料、電療料についても、2部位目の逓減が行われる方向です。
これはかなり分かりやすく、複数部位を積み上げる申請構造への圧力です。
健全な院への影響
必要な部位を適切に評価し、申請している院では、料金引き上げの恩恵を受ける部分もあります。
影響が大きそうな院
多部位申請や部位転がしを売上構造にしている院では、逓減や重点審査の影響が大きくなりそうです。
今回の資料では、今後の検討事項として、2部位を含めた複数部位の施術について実態把握を進めることも挙げられています。
つまり、今回だけで終わる話ではありません。
多部位申請の実態を見ながら、次の改定でもさらに整理される可能性があります。
明細書発行は、透明化の流れとして見る
明細書については、明細書発行体制加算から「明細書発行加算」へ見直される方向です。
明細書を発行した場合、1回10円を算定できる取扱いになります。
また、明細書に負傷名または施術部位を記載する欄を設けるなど、様式の整備も示されています。
これは、患者さんにとっても支給側にとっても「何に対して申請されているのか」を分かりやすくする方向です。
明細書の見直しは、単なる10円加算ではなく、柔道整復療養費の透明化を進める施策として読むべきです。
明細書を出すこと自体は、患者さんとの情報共有でもあります。
一方で、負傷名や部位が明確になるほど、曖昧な申請は目立ちやすくなります。
きちんと説明できる申請をしているかどうかが、これまで以上に問われる流れです。
償還払いへの変更対象も広がる
自己施術・自家施術については、療養費の支給対象外であることが明確化されます。
さらに、患者ごとの償還払いへの変更が認められる事例として、直近1年間で通算8か月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者が追加される方向です。
これは、長期かつ多部位の施術に対して、より強くチェックを入れる流れと見てよいと思います。
通常の受領委任払いではなく、患者さんが一度全額を支払い、その後に支給側へ療養費を申請する形です。対象になると、患者さんの手続き負担も増えます。
もちろん、長期かつ多部位だから全て不適切という話ではありません。
患者さんの状態によって、必要な施術が長くなることはあります。
ただ、その必要性を説明できるか。
記録として残っているか。
同じような部位の算定が漫然と続いていないか。
このあたりは、今後さらに見られやすくなるはずです。
売上への影響は、院の申請構造で変わる
今回の改定は、全体の改定率だけを見ればプラスです。
しかし、売上への影響は院によってかなり違うと思います。
1部位中心で、必要な評価と施術を丁寧に行い、明細書や説明も整えている院では、そこまで大きなマイナスにはなりにくいかもしれません。
一方で、多部位申請や部位転がし、長期頻回の申請に依存している院では、今回の改定はかなり痛い可能性があります。
- 初検料を取り直す運用に依存していないか
- 2部位以上の申請が売上の前提になっていないか
- 長期・頻回の施術を説明できる記録があるか
- 明細書に書かれて困る申請になっていないか
- 療養費申請だけでなく、自費の価値提供を設計できているか
今回の改定は、療養費の単価調整であると同時に、院の姿勢を問う改定でもあります。
「療養費でどう積み上げるか」ではなく、「必要な施術をどう説明し、どう価値として届けるか」に移っていく必要があります。
上がった項目より、削られる構造を見る
初検料は10円上がります。
再検料も10円上がります。
後療料や電療料も上がります。
しかし、そこだけを見て「良かった」と考えるのは少し浅いです。
今回の改定案では、初検料の取り直し、多部位申請、長期かつ頻回な施術、明細書の透明化、償還払いへの変更対象など、療養費申請の運用そのものに関わる見直しが並んでいます。
つまり、料金は少し上がる。
でも、曖昧な申請は通りにくくなる。
この方向性を読んでおく必要があります。
療養費に頼るなという話ではありません。
ただ、療養費申請に依存しすぎた経営は、今後さらに不安定になると思います。
適正な療養費申請をしながら、患者さんに説明できる自費の価値も作る。
この両方を考えることが、これからの整骨院経営ではより大切になりそうです。

瀬谷崎
参考:厚生労働省「柔道整復療養費の令和8年度料金改定(案)」をもとに作成しています。記事内の金額や運用は、資料上の改定案に基づく整理です。













