変形性股関節症の評価と保存療法。臼蓋形成不全と外転筋、鼠径部痛の鑑別
セラピスト向け
「加齢のせい」だけにしない、股関節の痛み
変形性股関節症は関節軟骨の変性を主体とする進行性の関節疾患で、日本では寛骨臼形成不全を背景とする二次性が多いのが特徴です。鼠径部痛と可動域制限(とくに内旋)が主訴になりますが、大腿骨頭壊死や腰椎由来の関連痛との鑑別、外転筋を軸にした運動療法の設計、手術適応の見極めが要点になります。
「股関節が痛い=加齢」で止めると、二次性の背景や鑑別、保存療法の設計を取りこぼします。ここでは病態・自然経過・評価・鑑別・介入・断定しない構えに分解して確認します。
病態:軟骨変性と、日本では二次性が主体
関節軟骨の摩耗・変性を起点に、関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化・骨嚢胞、辺縁の骨棘形成が進みます。荷重関節であり、いったん力学的バランスが崩れると変性が進みやすい、進行性の病態です。
欧米では加齢による一次性が中心ですが、日本では寛骨臼形成不全(発育性股関節形成不全の遺残)を背景とする二次性が多くを占めます。臼蓋が浅く被覆が不足すると、荷重が前外側に集中し、若年から中年で発症・進行することがあります。この力学的素地を押さえておくと、評価と介入の狙いが定まります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎疫学と自然経過(期待値の設定)
女性に多く、日本では臼蓋形成不全を背景とする例が目立ちます。病期は前股関節症・初期・進行期・末期に分けられ、X線で関節裂隙の狭小化、骨硬化、骨棘、骨嚢胞を評価します。
進行性ではありますが、速度には個人差が大きく、臼蓋形成不全や肥満、過負荷があると進みやすい傾向があります。「構造的な進行を運動で止める根拠は強くない一方、痛みと機能、生活動作は保存療法で改善を目指せる」という見通しを共有しておくと、過度な不安や不適切な安静を避けられます。
評価:所見の組み合わせで見る
問診で発症形式(動作開始時痛か、安静時・夜間痛か)と背景(既往・ステロイド・飲酒)を押さえ、可動域・徒手検査・歩行・画像を組み合わせます。
- 可動域:内旋制限が早期から出やすい。屈曲・外転の制限、屈曲拘縮(トーマステスト)
- 誘発:FADIR(屈曲・内転・内旋)で鼠径部痛、FABER(ファーバー・パトリック)で股関節・仙腸の鑑別
- 外転筋機能:Trendelenburg(トレンデレンブルグ)徴候、片脚立位の安定、跛行(墜落性・回避性)
- 形態:脚長差、しゃがみ・靴下着脱・爪切りなど生活動作の制限
- 画像:立位単純X線が基本(裂隙・骨硬化・骨棘・嚢胞、寛骨臼の被覆角度(CE角)の評価)
徒手テストは感度・特異度ともに限定的で、単独で確定はできません。所見の組み合わせと、症状(誘発肢位での再現痛)との一致、画像で総合的に判断します。
鑑別(外せないもの)
- 大腿骨頭壊死:ステロイド・多量飲酒歴、亜急性の鼠径部痛・安静時痛。早期はX線正常でMRIが要る
- 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI):若年・スポーツ歴、FADIR(ファダー)陽性。OAの前段階のこともある
- 腰椎由来の関連痛・神経根症:殿部〜下肢の放散、神経学的所見
- 大転子部痛症候群(中殿筋腱症・転子部滑液包炎):外側の圧痛、側臥位痛
- 鼠径部痛症候群、仙腸関節障害、関節リウマチ、感染、一過性大腿骨頭萎縮、腫瘍
介入:保存療法を設計する
保存療法は痛みと機能の管理が目標で、運動療法と生活負荷の調整が中核です。受け身の処置に偏らず、荷重環境ごと設計します。
- 運動療法:股関節外転筋(中殿筋)を中心とした筋力強化、可動域、有酸素・水中運動。ガイドラインでも中核に位置づけられる
- 減量:肥満があれば荷重負担の軽減に有効
- 生活指導:和式から洋式へ、重量物・長距離歩行・階段の負荷管理、杖(患側の反対手に持つ)
- 患者教育:自然経過と期待値の共有、痛みの自己管理
- 運動連鎖:体幹・膝・足部まで含めた荷重配分。物理療法・薬物(医師管理)は補助
運動療法と減量は痛み・機能の改善に支持がありますが、構造的進行を止める根拠は乏しいとされます。効果は画像の角度でなく症状と生活動作で評価します。保存療法で管理が難しい進行・末期例は人工股関節全置換術(THA)、若年で臼蓋形成不全が主因なら寛骨臼回転骨切り術(RAO)などが整形外科で検討されます。適応評価は外科につなぎます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎高齢の方や股関節OAで伸展の可動域が出にくい方に、大殿筋トレーニングの強度をどう合わせるかが社内のオンラインカンファレンスで話題になりました。腰椎の伸展で代償してしまう場合はうつ伏せをやめて側臥位にし、重力を除いた低強度から段階的に進める。クラムシェルは股関節伸展0度付近で行うと殿筋群に入りやすくなる。ハムストリングスがつりやすい方は膝屈曲位でハムを短縮させたまま行う。ヒップリフトのように伸展可動域を要求しにくい種目へ置き換える。手術歴のある高齢の方ほど低い強度から始める。カンファレンスの様子はオンラインカンファレンスの振り返り記事で紹介しています。
画像所見の重さと、痛みの強さは別に見る
画像の進行度と痛み・生活障害は必ずしも一致しません。所見と症状・動作を結びつけ、外転筋や荷重環境など介入できる対象を絞ることが要点です。鼠径部痛は股関節以外の由来も多く、鑑別を先に置く姿勢が安全です。




