膝の内側への負担を歩き方から見る。KAM(膝関節内転モーメント)と運動療法

膝の内側への負担は、歩きに現れる

レントゲンでは異常なし。でも膝の内側が痛く、体重も増えている。画像で説明しづらい膝の痛みを、進行リスクまで含めてどう評価するか。KAM(ケーエーエム・膝関節内転モーメント)という歩行の見方と運動療法の考え方を、とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスの相談からたどります。

相談のもとになった患者さんは73歳女性。家族との死別後の1年で一人暮らしになり、体重が大きく増えました。左膝が痛くなり、続いて左下腿(かたい・すね)後面の張りと痛みが出てきたケースです。

  • レントゲンではOA(オーエー・変形性膝関節症)の所見なし
  • 膝は可動域制限も圧痛もなく、動き出しで痛むという訴え
  • 喘息と橋本病の持病があり、娘さんから運動指導も求められている
まなぶ先生まなぶ先生

レントゲンで異常なしだと、OAの線はいったん外してよいのか迷います。可動域制限もなく、動き出しの痛みだけとなると、評価の取っ掛かりに悩みます。

教子先生教子先生

1年で体重が急に増えた点は気になりますね。年齢も性別もOAの好発条件にそろっています。いまの痛みと同時に、これから膝がどうなるかのリスクも見ておきたいケースです。

瀬谷崎瀬谷崎

検討は2本立てになりました。いまの痛みには軟部組織の滑走性を健側と比べる。将来のリスクには、歩行でKAMを見る。画像に写りにくいものを、触診と歩行の観察で補う形かなと思います。

レントゲン正常でも、OAは残しておく

レントゲンで所見がなくても、早期・軽度のOAは残しておくべき、という見立てに落ち着きました。ここで共有された数値があります。

共有された数値

KL分類(ケルグレン・ローレンス分類、OAの重症度を段階分けする方法)では、グレード0でも約2割が膝痛を訴え、逆に最重度のグレード4でも約3割は症状がないと言われるとのこと。

つまり、変形が乏しいことはOAを外す決め手にはなりにくい。画像と症状のずれは膝でも起こります(腰椎MRIの例と同じ構図です)。

このケースでまず挙がったのは、膝蓋上嚢(しつがいじょうのう・膝のお皿の上にある滑液包)の滑走性を、健側と比較して触診で確かめることでした。

  1. お皿の上を把持するお皿の上あたりを指で把持します。
  2. 上下・左右へ動かす上下・左右へ動かして、患側で明らかに動きが悪くないかを見ます。
  3. 健側と比べる癒着による滑走障害は画像に写りにくく、触って比べるのが早い評価です。

この患者さんは硬さはあったものの、明らかな滑走不全までは出ていなかったため、程度の見極めが要る段階でした。

KAM|膝の内側にかかる負担を歩行で見る

KAM(膝関節内転モーメント)は、歩行中に膝を内反方向へ倒そうとする力のモーメントで、大きいほど膝の内側コンパートメント(内側の関節面)への負担が増え、内側型OAの進行リスクと関連することが知られています。

専用機器がなくても、KAMを増やしやすいアライメントの傾向は観察できます。正面から歩行の動画を撮り、正常なアラインメントと比べる、という具体案が挙がりました。

  • 立脚期に体幹・骨盤が支持脚側へ寄りきらない(股関節外転筋の弱さ)
  • 脛骨(けいこつ)が外方へ傾く立ち方・歩き方
  • 足部の回内(アーチの低下)

この3点を歩行観察の型として持っておくと、「いま痛くない膝」の進行リスクも言葉にできます。

介入は、報告のある運動から組む

介入の候補は次の3つで、上の3つの観察点とそれぞれ対応します。いずれも一般にKAMの改善や膝OAの疼痛軽減について報告のある運動です。

  • 中殿筋・大殿筋のトレーニング
  • ショートフットエクササイズ(足部内在筋を使ってアーチを保つ運動)
  • パテラセッティング(大腿四頭筋を収縮させてお皿を安定させる運動)

運動療法の効果の読み方は変形性関節症に運動療法は本当に効くのかで扱ったとおりで、効果量の限界も含めて共有しておくと説明が誠実になります。

体重については、運動単独での減量は難しく、食事の見直しが中心になります。進行リスクの話は、脅しにならない範囲で。数字で追い込むより、「膝を守る歩き方と筋力を先に作る」という前向きの目標設定が現実的です。

早期OAという概念が海外で広まり、リスクのある膝に早めに手を入れようという流れがある、という背景も共有されました。

見落としの注意

下腿後面の張りやタイトネスは、それ自体が原因とは限りません。このケースでは、腓腹筋(ひふくきん)のタイトネスが腸腰筋(ちょうようきん)の機能低下の代償である可能性が指摘されました。立脚初期に腸腰筋で股関節を屈曲できないぶん、腓腹筋の蹴り出しで前へ進む代償が起こりやすい、という歩行相ベースの推論です。

張っている筋を緩めて終わらせる前に、腸腰筋のMMT(徒手筋力検査)を合わせて、なぜ張るのかを一段さかのぼる視点になります。

いまの痛みと、5年後の膝を同時に見る

画像で説明しづらい膝の痛みには、軟部組織の滑走性の左右差でいまの痛みを、KAMを増やすアライメントで将来のリスクを評価する。介入は報告のある運動から組み、体重は食事中心で現実的に。今日の症状への答えと、進行を遅らせる設計を同時に持つのが、この検討の骨格でした。

瀬谷崎瀬谷崎

画像に写らない時期こそ、運動療法が一番効きやすい時期でもあると思っています。異常なしと言われて安心して終えるのではなく、その膝を5年後も痛くしないための評価と提案まで届けられると、僕らの仕事の価値が出るのかなと感じます。

参考文献

Miyazaki T, Wada M, Kawahara H, et al. Dynamic load at baseline can predict radiographic disease progression in medial compartment knee osteoarthritis. Ann Rheum Dis. 2002.(KAMが1パーセント増えるごとに内側型膝OAの進行リスクが約6.46倍高まると報告した研究として、カンファレンスで共有されました)

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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